北欧の食を楽しむ場づくりに成功し、イノベーターとしての手腕を買われた比留間氏は、若干30歳で日本人初の店長として大阪・鶴浜のストアマネジャーに抜擢された。その後、横浜・港北のストアマネジャーとなり、2011年10月からは日本支社経営チーム(総勢10人)の最年少メンバーに。34歳で部下500人を持つ。実力主義の外資ならではだ。
「日本企業に入っていたらまだ平社員かもしれない。イケアにとって新しい国で組織を大きくするには、自ら動く主体性が求められる。枠の中で生きようとすると評価されない。自分は間違いも失敗もしてきたが、会社のビジョンを見失わずマーケットで成長するために何ができるかを考え、その必要性を訴えて来た」(比留間氏)
実はイケアで管理職であり続けるのは並大抵のことではない。「より快適な毎日をより多くの方々に」というビジョンを実現するためには、仕事だけでなく家庭も充実していることが前提となる。お題目ではなく、家が大切で家を愛していること。そのため、労働時間も1日8時間、週40時間と完全な北欧スタイルが求められる。
比留間氏も入社間もない頃は残業に追われたが、店長になってからは週40時間勤務を維持。そのためにも時間管理やマネジメント能力全般を高める努力を怠らない。経営書を読んだり、日々の時間配分を徹底的に洗い出したり、作業の優先順位付けをしたり、部下への権限委譲の範囲を厳密に見極めたりとあらゆることを見直し、習慣化した。
「会社のミッションを達成するためにも、こちらが快適な毎日を楽しんでいなければ説得力もない。自分だけでなく部下も与えられた時間で仕事ができるようにするマネジメントを心がけるようになった。言うのは簡単だがほんとうに難しい」(比留間氏)
週40時間のうち、店長の仕事は24時間、8〜16時間は考える時間や店長として成長する時間に充てる。自由に使える時間をどれだけとれるかが日々の課題でもある。
「自分も部下も努力している。日本でいうワーク・ライフ・バランスと本来のそれは、まったく意味が違う。きれいごとが流布しているが、本来は生産性を高めて懸命に働いた上で、余暇時間を大切にしようという考え。だからこそ意識的に働く必要もあり、日本人には分かりやすく説明しなければならない」(比留間氏)
比留間氏はシフト勤務で働く中、早番のときには夕方5時か6時には帰宅し、家族と食卓を囲む。ときには夕方、妻の仲間の主婦たちの井戸端会議に参加することさえある。そこでは、慌ただしく子育てに追われる中、夫が朝6時か7時に家を出て、夜11時過ぎに帰り、平日は食卓を囲む機会もないといった主婦たちの悩みや本音に耳を傾ける。
自身には当たり前の家族での食事が日本人にとって貴重な時間であることに改めて気づかされる瞬間でもある。そこからヒントを得て、IKEA港北では朝食メニューを強化し、週末の朝限定のビュッフェを始めたところ好評をはくした。
「ビュッフェも3LDKの間取りのアイデアも、残業に追われることなく考える時間があればこそだと痛感する。普段から常に暮らしを振り返り、様々な社会環境にある人の生活を観察し、洞察することを心がけている」(比留間氏)
実は比留間氏が週40時間で働いているかどうかは誰にも問われない。それほどまでに自律した関係で働くのがイケア流だ。グローバルな視野を持つ若きイノベーター、比留間氏が目下、力を入れるのは、部下がよりグローバルに働くための意識改革という。会社の今後を背負う人材を集めて人生設計から考える自主的な勉強会も主宰する。
「自分も含め日本で育った日本人は、英語力が弱いというよりもむしろ国際競争で生き残れる交渉力や精神力が弱い。仕事の経験で足りない部分を培うしかない。日本的な横並びや受け身の姿勢は捨て、よい提案を積極的に本社にアピールする粘り強さがほしい。外から大胆に飛び込まないと立派なビジョンがあってもイケアの組織は硬直し、新しい価値も生まれない」(比留間氏)
1977年、神奈川県生まれ。高校から米国留学をしており、米空軍士官を養成する高校を経て、米国大学経済学部卒業。米国系エンタテイメント会社に入社後、
2005年4月IKEA船橋ストア飲食部門マネジャーとして入社、2008年1月IKEA鶴浜ストアマネジャー、2010年9月港北ストアマネジャー、2011年9月イケア・ジャパンのマネジメントチームに最年少メンバーとして参画。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授