組織原則を守り、官僚制のメリットを生かしデメリットを抑制しょうビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2012年03月15日 08時00分 公開
[福田秀人,ITmedia]
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それでも、仕事を回すには官僚制しかない

 官僚制は、ひどい副作用を生むのに広く採用され続けています。その理由を、ドイツの社会学の巨星マックス・ウェーバは、次のように論じました。「官僚制こそが日常的な業務の質量の高度化、増大に対処でき、卓越した純技術的優秀性を発揮できる制度である」。なぜなら、官僚制は、次の特質をもつからです。

 (1)業務を規則で遂行→ 大量の業務を個人的な判断に左右されず、画一的、持続的に処理する。

 (2)明確で合理的な分業と専門家による業務の遂行→ 高度、効率的、正確、継続的な行政を可能にする。

 (3)地位・役割が階級で整然と決まり、権限が上下に配分され、上級者が下級者を統制→ 一元支配的な秩序を形成し、組織の安定性を強化する。

 (4)文書による指示伝達→ 一定の形式で必要事項を洩れなく簡潔明瞭に盛り込み、正確な指示をする。

 (5)資格に基づく採用、昇進および身分、年功に応じた俸給および身分保証→ 恣意的な降格、解任を排し、職務への献身、組織への忠誠心、連帯と集団精神を生む。

 (6)没主観的で誠実な職務の遂行→ 個人的・感情的要素を排し、能率を向上させ、組織内外の人間関係の公正さを保持し摩擦を防止する。

官僚制を使わないと公平ニーズにも対応できない

 官僚制の特に重要な特質は、「(6)没主観的で誠実な職務の遂行」です。ウェーバーは、「公平」こそ、近代大衆社会の至上の価値観であると喝破し、概略、次の指摘をしました。

 ・没主観的で誠実な職務の遂行とは、計算可能(アカウンタビリティ)な規則に従った、人物のいかんを問うことのない公平な処理である。

 ・人は、命令が合理的で公正なものと認められる場合に、自発的に命令に服従する。

 ・情という個人差があり、計量できない基準を用いることは不公平を生み、強い不満を引き起こす。

 ・物質的・精神的な利害の魅力や脅威は人によって異なるし、同じ人間でも、その時々の心情や状況によっても異なる不安定なものである。

 かくして、官僚制のみが、自発的な服従を引き出し、安定的な支配を可能とする制度となるという理屈です。実際、それから1世紀、官僚制は微動だにせず、ことあるごとに官僚制批判をぶち上げる新聞社やテレビ局ですら官僚制を採用し、最近では、官僚化の一層の強化に他ならないアカウンタビリティ・キャンペーンを繰り広げています。

官僚制のメリットを生かし、デメリットを抑制し、改善活動に頑張ろう

 つまるところ、官僚制の副作用だけを強調し、命令と規則で部下を動かす管理を批判するアンチ管理主義に惑わされず、官僚制のメリットを生かし、官僚化というデメリットを少しでも抑制する運用を心がけることが、トップ以下、各レベルのリーダーの重要な課題になります。例えば、アメリカの経営学者やコンサルタントたちは、改善活動を「リーン(筋肉質)生産システム」と呼び、無駄をそぎ落とすコストダウンの手法程度に考えていますが、それは、これまでの規則を見直す作業であり、なんでも規則病を改善するのに役立ちます。

 なお、「サラリーマンが“やってはいけない”90のリスト」では、この他に、次の脅威をマークする必要と、それらにいかに対応すべきかを解説しました。

 ・部下たちが上司を踊らせる「エージェンシー問題」。

 ・部下たちの意見に引っ張られて間抜けな決定をする「集団浅慮」。

 ・部下たちのやる気と誠実さを粉砕する「成果主義」。

著者プロフィール:福田秀人

慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。会社役員やコンサルタントとして経営に携わる一方、立教大学大学院教授(危機管理)、放送大学客員教授(経営戦略と危機管理)、慶應義塾大学・横浜国立大学などの非常勤講師(HRM)、外務省ロシア知的支援プロジェクト(マネジメント)や税務大学校(危機管理)の講師などを歴任。現在、サステナブルリサーチ代表としてマネジメントの指導と研修に携わる一方で、ランチェスター戦略学会副会長、立教大学大学院兼任講師(危機管理)、海上自衛隊幹部学校講師(マネジメント)、日本法制学会危機管理研究委員長、航空保安協会評議員などを兼務。

著書は、『サラリーマンが“やってはいけない”90のリスト』(ぱる出版)、『ランチェスター思考:競争戦略の基礎』、『ランチェスター思考?:直観的問題解決のフレームワーク』、『プロフェッショナルリーダーの教科書(共著)』(以上、東洋経済新報社刊)、『見切る!強いリーダーの決断力』(祥伝社)、他多数。信条は「着眼大局・着手小局」。


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