ICTを活用した高齢者サービスに欠かせないものとは(2/2 ページ)

» 2012年04月27日 08時00分 公開
[大西高弘(ノーバジェット),ITmedia]
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 遠野での成果を受けて、遠隔健康相談システムはさまざまな地域で活用されるようになった。その中でシステムの利用の仕方も少しずつ工夫がされている。例えば、高齢者と地元の診療所の医師が対面して診察や医療相談をする際に、遠隔健康相談システムを使って、提携している大規模総合病院の専門医とコミュニケーションを図るというものだ。高齢者本人、地元のかかりつけ医、遠隔地にいる専門医の3者が光ファイバーネットワークでつながり、直接コミュニケーションすることで病気の早期発見なども期待できる。

 「こうした取組みを開始してから、1人あたりの年間の医療費が10万円以上減ったという例もある。毎日歩くといったことをみんなで楽しく続け、しっかりと医師や医療スタッフからアドバイスを受ける。健康な高齢者が増えれば、地域も活性化します。当社のネットワークがさまざまな効果を生み出す手伝いをしていると考えると、本当にうれしい」(小園氏)

現場の知識とノウハウをシステムに注ぎ込む

 遠隔健康相談システムのほかにも、NTT東日本は高齢者に向けたサービスに自社の技術で協力している。デマンド交通システムなどもその1例だ。デマンド交通システムは、簡単にいうと、乗り合いタクシーのようなもので、運行時間内に申し込めば、自宅前までライトバンクラスの車が来て、乗客を近い順に目的地まで運んでくれる。利用料金はバスの運賃なみだという。長野県安曇野市のデマンド交通システム「あづみん」はNTT東日本の運行システムが光ファイバーネットワークによって運用されているという。

 この交通システムは高齢者に限られたものではないが、高齢者にとっては、外出のおっくうさをリーズナブルな料金で解消してくれる便利なサービスだといえるだろう。

 遠隔健康相談システムにしても、デマンド交通システムにしても、ビジネスモデルとして成立しなければ全国に広がっていくことは難しい。ただ通信費用やシステム構築・運用費などは少しずつさまざまな企業が参入することでさらに低減されていく可能性はある。

 「TV電話の料金にしてもわたしの郷里の熊本と東京間で3分150円程度で、個人で光ネットワークに加入する場合も2年の継続利用で、月に4500円前後(2012年4月現在)。便利なサービスだからきっと高くつくのだろうと考える人もいるようだが、詳しく説明すると案外安いと評価してもらっている」(小園氏)

 小園氏は、ICTを活用した高齢者向けサービスが全国各地に広がってくためには、ビジネスモデルとしてのしっかりと採算の取れるもので、利用者への効果が明確であることと同時に、サービスに携わる人たちの熱意が不可欠だと語る。

 遠隔健康相談システムでは、高齢者と接する保健師やボランティアスタッフが熱心だと効果がどんどん上がるという。新しい取組みに懐疑的で「余計な仕事が増える」と敬遠する人が多いと、システムは完成しても継続的な活用につながっていかない。

 小園氏は「何か役に立つと思えば、まずは利用してみる。そういう感覚がICTによるサービスの発展には必要なのではないだろうか」と語る。

 高齢者サービスのシステムを活用するのは人。超高齢社会と情報技術の融合には、培ってきた知識、ノウハウをシステムに注ぎ込む人の熱意が大切だ。

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