中国の目覚ましい成長を支える、不安定な金融基盤海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/3 ページ)

» 2012年05月02日 08時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー]
エグゼクティブブックサマリー

中国の偉大なる発展にまつわる神話

 2008年、オリンピックを開催したことで中国は世界中の注目を浴びました。中国はオリンピックのために高速道路やスタジアム、マンションやホテルを建設しました。また、一晩で4,000万個の植木鉢をメインストリートに並べ、訪れた人々を歓迎しました。このように素晴らしい形で中国を西洋諸国にもう一度紹介できたことは、わずか30年前の中国が事実上破たんしていたことを思えば、とても驚くべきことです。

 1978年、北京は悲惨な様相を呈していました。また、かつて東洋一のコスモポリタンと呼ばれていた上海も荒れ果て、住民は空調がないため家の外で眠っていました。さらに、1974年に当時の最高指導者である」小平(とうしょうへい)が国連を訪問した時、中国は本当に貧しく、派遣団が旅費のために準備できた金額は、わずか38,000ドルでした。

 欧米諸国の多くが「中国の偉大なる発展にまつわる神話」を信用していますが、1970年代から現在まで続く中国の急速な経済改革は、決して平たんな道のりではありませんでしたし、誤りが全くなかったわけでもありません。経済改革は、1976年に長年国家主席を務めていた毛沢東(もうたくとう)が死去し、1978年に」小平が最高指導者になった時に始まりました。

 中国の経済改革の道のりは、世界に広まった金融規制撤廃の波とちょうど重なりました。アメリカの資本主義に習おうと、1990年代には江沢民(こうたくみん)国家主席と朱鎔基(しゅようぎ)首相が市場の規制を緩和し、上海と深川に証券取引所を設立しました。そして、1992年、」小平は、資本主義は中国の経済において重要な役割を果たすことができると公に認めました。

 1997年のアジア金融危機の後、中国は倒産した国営銀行を再編成し、その資本構成を改めました。この金融改革により、国営銀行は株の一部を世界の証券取引所に上場するようになりました。それによって、新しく資金を調達し、国際的パートナーを引き付けることができるようになりました。

 もう一つの急発展は、2001年に起こります。15年間もの議論の末、世界貿易機関がついに中国の加盟を認めたのです。中国が加盟を成し遂げたことで、外国投資がぞくぞくと流入してくるようになりました。世界中の企業が、中国でビジネスを立ち上げるのを列を作りながら待っていたのです。

 この時点まで、中国は外国投資の流入を地域限定にし、東海岸地域の経済特別区(SEZ)に制限していました。この「鳥かご」政策により、外国企業は多くの場合資格の無い中国企業と合弁事業を行わざるをえませんでした。しかし、仕事と投資を増やす取組の中、中国はその制限を緩和し、より多くの地方自治体がSEZを設定できるようにしました。2008年までには、外国投資のほぼ4分の3が「完全所有企業」に移行し、新しい地域へ拡大していくようになりました。

 中国経済発展の発端は」小平の考え方に有るといってもよいでしょう。そして中国政府の考えは権力維持と資本主義的ビジネスのどちらを今後優先させていくかによっても大きく変わるものといえるでしょう。

内輪経済

 1970年代後半以降、経済改革によって中国の国有企業(SOE)は拡大し、成長するようになりました。

 中国政府は、アメリカの投資銀行の助言を参考にし、国内のSOEの株式公開を後押ししました。その結果、2009年までには、新しく再編されたSOE44社すべてが、フォーチュン・グローバル500社に数えられるようになりました。この44社の株式は公開されていますが、株保有者の大半は中国国内に留まっています。これは、44社の経営と未来の発展は、中国の政治システムに縛られていることを意味します。

 このような「一見国際化されている企業」の存在は、中国の「内輪経済」を表しています。つまり、中国経済は名目上独立していますが、実際は国の管理下にあるのです。しかし、例えば多国籍企業の工場や設備などの外国直接投資は、まったく異なる領域で機能しています。この民営化された領域が、中国企業の成長を後押ししているのです。

 経済改革が行われているにも関わらず、中国経済はいまだに、個人的および政治的人間関係によって複雑に絡まった網の中にいます。中国の第一党である共産党が政治体制のトップに君臨していますが、中国の政治体制は一見一枚岩でできているように見えて、実質的には寸断されています。

 地域・地方自治体が巨大な権力を振りかざす一方で、コネを持った政治家の家族や、SOEの経営幹部や政府官僚などの特別利益団体が、中国の「縁故資本主義」を煽っています。第一党である共産党の幹部が、中国経済を利益誘導システムに沿って導いているのです。共産党の中で政治的変化が起こることはあるかもしれませんが、党員全員が政治の安定という目標をかたくなに達成しようとします。そのため、彼らは自分達の経済的利益を追求することができるのです。

 いかに外国資本を取り込んできているといっても、その株の所有者が中国国内にいるということは、外資企業は中国のシステムの中から出ることはできません。しかも、その株の保有者が政治関係者であるとするならば、実際には国家に縛られた名目上の民営システムと言わざるをえません。

Copyright© 2014 エグゼクティブブックサマリー All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆