深く考える力を組織の中で生かす方法海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/3 ページ)

» 2012年05月30日 08時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー]
エグゼクティブブックサマリー

仕事における思考

 「知識労働者」のほとんどが、持っている時間のわずか10%から12%程度しか思考に使っていません。残りの時間は、邪魔(28%)、会議(20%)、情報検索(15%)そして、生産的業務(25%)に費やされています。もしこのような環境の中で考える時間を取れば、忙殺されてしまいます。また、ほとんどの組織が労働者に、一度に複数の業務をこなす「マルチタスク」をするよう期待しています。しかし、調査によると、マルチタスクを効果的に行える人はいないということが分かっています。

 自分はマルチタスクができると思っている人が実際にやっているのは「インターリービング」です。インターリービングとは、複数の業務の間を行ったり来たりすることです。これでは、考える機会を作ることはできませんし、1つの業務を完了させてから次に移るということができません。これに加え、集中を切り替えるには時間がかかります。そのため、インターリービングを行う人の意識は「細分化」されてしまいます。そうなると、自分がやっていることに意味を見出す能力が低下し、間違った行動を取ったり、誤った問題を解決したりする可能性が高くなります。

 業務に於いてマルチタスクがいかに愚かであるかということにもはや疑問の余地はありません。仕事の精度を保ち、向上し続けるためにも、複雑化や細分化に至らぬよう、あらかじめプロジェクト関係者全員で、じっくりとシェアし合意をとっていくことが重要です。

考える時間を作る

 イラクとアフガニスタンで米軍を指揮したデヴィッド・ペトレイアス大将は、巨大なプレッシャーに対処することのできる現代のリーダーの1人です。彼は、意識的に考える時間を必ず取っています。軍人として、ペトレイアスは常に行動を取らなければならないというプレッシャーにさらされています。なぜなら、部下も上官も無視することができないからです。必ず、応答しなければなりません。そのような状況の中、常に膨大な量のデータを調べなければならないため、毎朝1時間、考える時間をスケジュールに組み込んでいます。

 次は、ビル・ゲイツの例を見てみましょう。ビル・ゲイツは何十年にも渡ってマイクロソフト社の大成功の中心を担ってきました。ゲイツは毎年、読書と思考だけに費やす時間を1週間取っていました。ゲイツの貢献の重要な部分は、この取り組みによって生まれたのです。

 人は、他の人からの要求をコントロールすることはできません。しかし、深く考えることで、その要求に対応する方法をコントロールすることはできます。1度に1つのことに集中してください。入って来る情報を評価し、重要度によって優先順位を付けてください。そして、自分の能力をどうやって生かすか、よく考えてください。

 考えるということに対してとても真しな姿勢で関わる優秀な人物の在り方の事例が良く分かります。ポイントは集中力の焦点を見極めること、業務に優先順位をつけること、アイディアの創出をすること、そしてさらに重要なポイントは、それらを熟考する時間を捻出することだと思います。

考える時間を確保する

 ビジネスが立ち上がり動き出すと、社内の「決定権」に関する暗黙の構造が生まれます。時間が経つにつれ、従業員は、地位が上の人や「事を起こしてくれる」と信じられる人により注意深く耳を傾けるようになり、そのような権威ある人のアイディアを徹底的に調査しようとはしなくなります。その反対に、権威が無い人が考えた良質なアイディアは無視されるようになります。こういった組織思考を改善するには、組織の意思決定プロセスを検証してください。すべての職位に決定権を与えれば、組織思考はより効果を発揮するようになるでしょう。

 また、新しいアイディアを出した従業員に褒美を与える方法や、個人およびチームの成績を評価する方法を見直してください。

 グーグル社は、従業員に就労時間の20%をやりたいことに使わせることで、思考力を育てました。アイディアを共有するために会社全体にイントラネットを提供することで「技術レベルの思考」を、そして、イノベーターが自分のアイディアに一緒に取り組んでくれる人を採用できるようにすることで「個人レベルの思考」を、企業文化の中に組み込んだのです。

 これによって意思決定は分散化され、従業員は収益性のあるプロジェクトを立ち上げることができるようになりました。グーグル社は、積極的にリスクを背負い、不完全な製品を市場に出し、市場の成長に合わせてその製品を発達させることで、アイディアをどのように大切にしているか、示しているのです。

 階層構造や型どおりのプロセスに加え、習慣や型にはまった行動もまた、企業の中で簡単に生まれてしまいます。そして、それによって、組織環境を変えることは難しくなります。人は、現状を維持し、機能しているように見えるものを続けることの方が簡単だと思う傾向にあります。このような傾向に対処するには、企業は、従業員の型にはまった行動の元になっている思い込みや、その行動が企業内での出来事に及ぼす影響を「一歩下がって再検証」するべきです。

 そのためには、熟考する時間と隔離された場所を用意する必要があります。例えば、在庫管理と輸送を行う小規模企業であるPBD社は、会社全体でEメールを使わない日を設けていました。最初、従業員は反発しましたが、Eメールを使わない毎週金曜日には、従業員のやる気と集中力が高まりました。

 また、Eメールを使った業務を分析する追跡調査を行い、その結果、社内Eメールの80%が従業員の時間を無駄にしていることを突きとめました。「本当に有益」とみなされたEメールは10%で、残りの10%は「要決定」でした。この実験により、従業員と管理者は、自分達がテクノロジーを効果的に使っているのかどうか、よく考えるようになりました。

 Eメールを使ってコミュニケーションを取ると文脈が失われ、人との交流に人間味が失われてしまいます。

 このような状況は、仕事がいかに人生のあらゆる領域を侵食しているか示しています。人は、自分の仕事にまつわる通説を信じているため、いつも仕事をしなければならないと信じ込んでいます。しかし、実際には、人はもっと効果的に自分の仕事と私生活に優先順位を付ける方法を学ぶことができます。「常に待機」していれば、人は反応がよくなり、より迅速に行動が取れるようになりますが、考える時間を失ってしまいます。

 「第三者の意見」を求め、無理にでも考える時間を作ってください。従業員に、組織における自分の担当領域だけに集中するのではなく、組織を1つのシステムとして考えるよう促してください。そして、組織が機能障害を起こすようなことや、非道徳的なことをしていると気付いた時に、従業員が「停止ボタンを押す」ことのできるメカニズムを取り入れてください。

 企業にとって考えることの在り方を事例を交えて分かりやすく説明しています。そして従業員の職位や権限に捉われないようすることが大切です。そのためには、アイデアを機能化させる段階において、個の思考力を皆で均等に提案しあう環境を育むことが必要だと思います。

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