なぜ成功は常に失敗から始まるのか海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(3/3 ページ)

» 2012年06月20日 08時00分 公開
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予期せぬ結果

 ジョン・チンダルは、1895年に「温室効果」を発見しました。チンダルのこの発見を基に、科学者は今、放射熱を大気中に保つ効果が16,000倍高いガスがあることを理解しています。大気中に留まるこのガスの量が増えれば増えるほど、そのガスが保つ熱も多くなります。産業革命前、大気中の二酸化炭素の濃度は約280ppmでした。今は390ppmです。どの程度の濃度があれば二酸化炭素過剰だと見なすかは科学者によって意見が異なり、二酸化炭素削減のために何をすべきかについても、一致した意見はありません。状況が今までにないものであるため、意見が一致しないのです。

 産業文明は、生態的ニッチ全体に対し、巨大な非対照実験を行っています。しかし、危険性を判断するために使用できる過去のモデルを社会は持っていません。

 また、温室効果ガス削減などの明確な目標ですら、複雑な経済的背景が関連しているため、その目標達成のために何をするべきかについて、意見が一致しないのです。何をすれば温室効果ガスを一番削減できるのか、誰にも特定することはできません。すべての製品の二酸化炭素ガス排出量を測定することも難しいことです。科学者は、消費者が自分の行動の指標として使える「二酸化炭素量計算ソフトウェア」を作る必要があります。また、炭素税を導入すると、大量のエネルギーを消費する製造業者の製品原価が増加するため、温室効果ガスが減る可能性があります。

 気候変動への対処は、骨の折れることです。なぜなら、本来は善行を導くためにある法律は、常に予期せぬ結果を生み出すからです。例えば、「マートン・ルール」という、ロンドン南西地区に立てる新しい建物に、消費する電力の10%以上を発電することを求める規定があります。これにより、同地区の新しい建物は安価な化石燃料を使った発電機を導入し、それによって二酸化炭素の排出量は増えてしまいました。このような予期せぬ結果を、適応進化の観点から見てください。どのようなルールも適応するよう強要することはできますが、適応する側はどのようなルールにも抜け穴を見つけたり作ったりすることができるのです。

 「マートン・ルール」の例にもあるように、予期せぬ結果を生む事態というものは、意外とビジネスにも多くあります。例えば企業においては、違う部署が違うルールや条件で1つのプロジェクトを組むなどの際にも度々それは起こりうるでしょう。ここで大事なのは、予期せぬ結果は起こるものとして、予めその都度コンセンサスを得ていくための双方の歩み寄りをコミットしておくことなのではないかと思います。

「切り離し」

 石油掘削機が火災で燃えることは、どのような場合でも悪いことです。1988年に北海のパイパー・アルファ・石油生産プラットフォームで火災が発生した時、その影響は、思っていたよりもはるかに悪いものになりました。設計された安全システムが次々にダウンし、1つのシステムダウンが他のシステムダウンを引き起こし、最悪の事態を招きました。

 また、プラットフォームに保険を掛けていた企業の間でも、同じように惨事が連鎖して起こり、それによって保険市場は深刻なダメージを被りました。同プラットフォーム上のシステムと保険市場のシステムは、1つのエリアにダメージが起きると、確実に他のエリアにその影響が出るようにできていたのです。通常、保険会社は、再保険をかけることでリスクを分散させようとします。再保険とは、保険会社が他の保険会社のリスクの一部を引き受けることです。しかし、パイパー・アルファのケースでは、そのような保険のループは自分の所に逆戻りしてしまい、同じ組織は同プラットフォームに2度以上保険をかけました。

 2008年の金融危機は、思いがけないリスクの倍増という、似たようなエピソードを生み出しました。過去の経験から、保険業界が自分達の業界の専門家は再保険の危険性を理解していると誤って信じていたように、信用危機によって大打撃を受けた機関もまた、自分達のしていることを自分達は理解していると思っていました。

 しかし、彼らは部分的に間違っていました。なぜなら、彼らのシステムは複雑で、相互に密接に結びついていたからです。システムが複雑である場合、多くの物事がさまざまな形で誤った方向へ進んでしまいます。また、システムが密に結びついている場合、1つの出来事が予期せぬ結果を招き、その結果は、特定し対処することができないほど素早くシステム中に影響を与えてしまいます。

 2008年の金融危機では、もう1つリスクの倍増が発生しました。それは、金融危機に対処しようと試みた人達が、自分達の安全システムを信頼しすぎたことで起こりました。彼らは、既存の政府規制と監視が機関の「行き過ぎ」を止めてくれると信じていました。銀行もまた、自分達の投機の一部に保険を掛けていたため、市場の他の部分でより多くのリスクを負うことになるだろうと考えていました。このような稚拙で関連した判断を下したことで、問題を解決できる人に十分な情報が回らず、物事が実際にどれだけ悪い状態に陥っているかが明確に示されませんでした。

 このような状態が再び起きないようにするには、状況に応じた適応変化を何種類か起こさなければなりません。例えば、金融システム内での透明性の拡大や、より正確で有益な金融情報の提示などがそれに当たります。

 理想は、専門家が毎日リアルタイムで、世界中の金融市場を更新し、金融システムにかかるストレスを継続的に示すことができる状態です。また、政府が、銀行により多くの資金を持つよう要請したり、あるいは、経済的に困難な時に債券を銀行株に換えることのできる「条件付き転換債」などの代替構造を取り入れるよう要請したりできる状態です。

 アメリカ政府は、倒産処理の手続きやガイドラインを改善する必要があります。それと同時に、規制当局は、金融危機が起こった時にはより一層強い権限を持つ必要があります。さらに、社会は、違反行為やシステムの弱点を報告する「内部告発者」を保護し、褒美を与えるべきです。そして、リスクの高いシステムは、可能である場合は常に切り離すことが重要です。それと同時に、現在起きている危機と似たような危機が将来起きることはないことを覚えておいてください。なぜなら、問題は変化する状況に適応し、解決策は常に問題よりも遅く進化するからです。

 ここでは、保険市場での最悪の事態の経験を事例に学習し生かすことの大切さについて説明しています。前項タイトルの「生き残るために必要なことは適応力である」を念頭に置き、生き残るためには、何をどのように適応させていくかを一つ一つ考えるべきだと思います。ポイントは、必要な情報の明示性の向上や協力者を増やすこと、そして大胆なリスクヘッジも効果的であることが分かります。

失敗から学ぶ

 失敗は、偉大な教師です。失敗から学ぶには、自分だけにしかできない新しいことを試してください。できれば、マイナスの結果が出る可能性の低いものを選んでください。振付師であるトワイラ・サープは、ビリー・ジョエルの音楽を基にした彼女のオリジナルバレエミュージカル「ムービン・オン」の初演を、ニューヨークではなくシカゴで行いました。そうすることで、ブロードウェイで上演する前に試すことができました。シカゴでの舞台は失敗しました。サープとジョエルの注目度は高かったため、メディアは彼らの失敗を、2人よりも知名度の低い支援者や製作者のプレビューの失敗よりも厳しく報道しました。

 「自分は正しくて、間違っているのは他の人間だ」という風に単純に失敗を否定することは、失敗した時に最初によく見られる反応です。失ったものを「追跡」しようとすることが、2番目によく見られる反応です。つまり、失敗したことと同じことを今度は正しく行おうとし、失ったお金や評判を取り返そうとします。このような落とし穴を避けるために、サープは「ムービン・オン」の具体的な失敗から自分自身を切り離しました。そうすることで、自分自身を失敗した人間だと考えずに、舞台が失敗したことを認めることができるようになりました。

 このような考え方を確立していく中で、サープは「検証チーム」に頼りました。検証チームとは、彼女の作品について正直な意見を言ってくれると信頼できる、優れた判断力を持った友人で構成された支援グループで、彼女はこのグループに助けを求めました。サープと同じことをしてください。自分の試みを再評価し、新たに考え、機能するものを見つけてください。サープは賢明な意見に耳を傾け、彼女自身のミスを見直した後、自信が学んだことに従って「ムービン・オン」に手を加えました。それによって、最終的にその舞台はヒットしました。失敗にもがき苦しんだり、自分は正しいと主張したりするのではなく、サープは舞台の進化を後押ししたのです。

 まさに、ことわざの「失敗は成功の母」を具体的に示したものだと思います。特に興味深い点は改善点を積み重ね研さんした結果論ではなく、失敗という状況を自分自身と分離し、自らの肯定的な要素を限りなく強化をした点にあると思います。問題を解決するに当たり、とても進化した結果の出る良策だと思います。更に重要な点は、支援者から正直な意見を聞き、フィードバックすることを忘れないでください。

著者紹介

ティム・ハーフォードは、「The Undercover Economist」の著者です。


プロフィール:鬼塚俊宏ストラテジィエレメント社長

鬼塚俊宏氏

経営コンサルタント(ビジネスモデルコンサルタント・セールスコピーライター)。経営コンサルタントとして、上場企業から個人プロフェッショナルまで、420社以上(1400案件以上)の企業経営を支援。特に集客モデルの構築とビジネスモデルプロデュースを得意とする。またセールスコピーライターという肩書も持ち、そのライティングスキルを生かしたマーケティング施策は、多くの企業を「高収益企業」へと変貌させてきた。


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