今こそ「ITブランド」を確立する行動をとれGartner Column(3/3 ページ)

» 2012年08月06日 08時00分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]
前のページへ 1|2|3       

ITブランド・インパクトを形成するためのフレームワーク

 図2は、IT 組織としてのブランド・インパクトを高めていくためのガートナーのフレームワークである。CIO/ITエグゼクティブは、図の上段を左から右へと横断的に進化し、インパクトとインフルエンスを拡大させていく。

図2 出典:ガートナー

 既存のITのキャプティブマーケット(財務、サプライチェーン、人事など)において期待されていることをただ果たすだけではなく、期待以上のサービスを提供する必要がある。言い換えれば、IT の価値提案を高めるということである。そのために、単なるIT サービスではなく、実務環境を変革する説得力あるビジネスソリューションを提供して、ビジネスプロセスに基づく効率を最大化できるまでにならなければならない。

 IT のキャプティブマーケットにおいて強力なIT ブランドを確立すれば、CIO/ITエグゼクティブは、これに隣接するマーケットへの移行可能な立場に置かれる。この隣接マーケットでIT 部門がリーダー役を担うことは通常ない。ガートナーがインタビューしたあるCIOが言うように、「ビジネス部門の損益に関わらせてもらえるようになったとき、あなたは個人、組織としての強力なブランドを確立したことを知る。」

 「営業」「マーケティング」「商品開発」の領域は、CIO が最も進出する可能性が高い隣接マーケットである。ここでITが持つブランドの資産価値は、指導者であり扇動者としてのIT部門である。つまり、別のCIO が語っているように、IT部門は「実務環境の人間学者集団」のように行動して、従業員が新しいケーパビリティと新しい形の競争優位性を創造する上での有効性を最大化する。

 CIO とIT 組織は、フロントオフィスの内部のIT マーケットにインパクトを及ぼすことによって、対外的な企業ブランドにインパクトを及ぼせる立場に置かれる。「営業」「マーケティング」「商品開発」と連携し、チャネル、市場、商品にインパクトを及ぼす。こうしたIT のブランドインパクトは、ITをユーザー満足度、市場創造、プロダクトイノベーション、商品、サービスのバンドリング、構成において競争力のある差別化をもたらす要因にするはずである。

 IT のブランドインパクトの形成には計画的で連続的なプロセスがあることが、ガートナーのリサーチによって明らかとなった。上図にはこのプロセスが反映されており、CIO は3 つのインパクトドメイン(「IT のキャプティブマーケット」「隣接する内部のIT マーケット」「企業のブランド・インパクト」)のすべてにおいて、このプロセスに従うことができる。プロセス内の各ステップは、次のように分けられる。

 1、ストラテジ(戦略):どのような(what)インパクトを、どのような理由(why)で及ぼすのかを決定する。その後、自分の「マーケット」を選択する。そして、この戦略によって、強力なIT ブランドを構築して最大のIT インパクトを及ぼせるようにする。

 2、リーダーシップ(先導):CIO は、各ドメインにおいて担う役割を理解する必要がある。CIO の役割は、強力なパーソナルブランドおよび組織ブランドの構築から、指導者兼扇動者になり、最後に、競争力のある差別化をもたらす要因になるというゴールに到達するまでがある。強力なIT ブランドを確立するCIO の主要な人柄は「謙虚さ」であったため、ガートナーはこのすべての役割をCIO がすべてを1 人で遂行することを推奨しない。実際、最強のITブランドを確立したCIO は、部下のITスタッフ、ビジネス部門の同僚、そしてより幅広い従業員に対して教育を行い、彼らを引き付け、絆を築くことによって先導している。

 3、エンゲージメント(戦略実行):これは、「どのような(what)」と「なぜ(why)」、すなわち、戦略の実行に関するステップである。CIO は、主要なコンピタンス(ビジネスプロセス、ビジネスアーキテクチャなど)をできる限り結集させて、効率性、効果性、アジリティの向上を実現する必要がある。

 4、イノベーション(革新):最終ステップは、強力なIT ブランドを確立し、これをさらに強固にするステップである。強力なIT ブランドは、バックオフィスのオペレーションにおける変化であれ、完全なデジタルチャネルを経由して新商品を市場投入する際の変化であれ、CIO が自社にもたらしたあらゆる変化を表す。

 図2の各欄には、CIO が戦略策定、リーダーシップの強化、エンゲージメントモデルの定義、そして、キャプティブ、隣接、対外的なIT マーケットを横断してIT ブランドを構築、発展させるイノベーションの特定のために活用する、3 つの主要メカニズムを掲載している。

著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

小西一有

2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。


前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆