「もっと自由につながりたい」――iPhoneテザリング「t.free」開発者・クリストファーの思い(2/2 ページ)

» 2012年08月29日 11時50分 公開
[岡田有花,ITmedia]
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セキュリティ問題でサービス中止 「ショックだった」

 11年12月のある夜。セキュリティ専門家の高木浩光さんがカフェでConnectFreeに接続し、問題点をTwitterに投稿。ConnectFreeがユーザーのMACアドレスやFacebookとTwitterのIDなどを無断で取得したり、サイトにGoogle Analyticsを埋め込んだりしているといったことが指摘され、ネットで批判が巻き起こった。事態を知ったテイトさんは、高木さんがいるカフェに電話して説明を試み、翌5日には各種情報の取得を止め、6日、すべてのサービスを中止。12年4月には総務省から行政指導を受けた

 「お店とお客さんをつなぎたいと思って始めたサービスで、個人情報を取るつもりは全くなかった。お金はお店からいただいているので、ユーザーの個人情報を収益化する必要もない。悪いことをしようとは全く思っていなかったが、悪用を考えていると批判された。われわれの認識と社会の理解がずれてきていたので、きちんと対応したいと思い、サービスを止めた」とテイトさんは振り返る。

 同社は取締役3人と監査役1人だけのベンチャー企業。まずは作ってリリースし、反応を見ながら改善するという、シリコンバレーのITベンチャーのやり方で進んできた。同じサービスがほかにないこともあり、何がOKで何がNGか手探りだった部分もあったという。

 それまでconnectFreeに対して好意的だった日本のネットユーザーに、手のひらを返したように批判されたのはショックだった。「技術は自動車のようなもので、便利に使える良い側面と、事故などを引き起こす悪い面の両面があると思う。われわれとしては良い面を選んだつもりで、日本社会に貢献したくてやってきたのに、同じ社会から悪者だと思われた。1年かけて作った仕事が1日でなくなる、恐ろしいできごとだった」

 だがこの問題がきっかけで総務省とパイプができ、よりしっかりとしたサービス提供の基盤が整ったと、今は前向きにとらえている。「コネクトフリーはベンチャー企業だが、みなさんが期待し、注目してくれていることが分かった。レベルアップして大企業のようなしっかりした企業になり、期待にこたえたい」

「t.free」リリースに、connectFreeの反省いかす

画像 t.freeのシステム概念図(ナレッジデータベース主催の開いた勉強会でクリスさんが公表した資料より)

 コネクトフリーは生きている――connectFreeが止まった後も会社は動いており、社会に貢献できる技術があることを示したいと開発したのが、この夏に限定公開した「t.free」だ。iPhone標準のWebブラウザ「Safari」経由で、Mac OS X搭載機をネット接続できる無料テザリングサービスで、外出先で手軽にネットにつなぎたいMacユーザーから歓迎された。

 日本の携帯電話事業者が提供しているiPhoneは、通信トラフィックを抑えるため、テザリング機能が無効化されている。テザリングできるアプリがApp Storeに出ることもあるが、すぐに削除されるケースがほとんど。専用ソフトなどを使ってiPhoneを“脱獄”させ、テザリングを利用するユーザーもいるが、保証対象外になったり動作が不安定になるなどリスクが大きい。

 t.freeは、Mac用アプリをインストールした上で、iPhoneのSafariで専用サイトにアクセスすれば、Macをネット接続できる仕組み。通信環境の設定やデータの圧縮などはアプリやサーバ側で自動で行い、ユーザーはワンクリックで簡単・快適に使える。同様なサービスは海外にあるが、有料だったり使いづらいなど課題が多く、使いやすさにこだわって工夫した。「誰でも簡単に、分かりやすく使えるようにしたかった」

 コネクトフリーの反省を踏まえ、リリースは慎重に行った。事前に総務省や通信会社などに説明し、弁護士やアドバイザーの意見を聞いた上で公開。ユーザー数やトラフィックを監視し、通信会社の負担にならないよう配慮した。7月20日、1カ月限定で公開。Webで話題をさらい、気軽な通信環境を求めていたユーザーに歓迎された。

 「本当に便利」「助かってます」「意外と速い」――Twitterには、感謝や喜びをつづるユーザーが続出。t.freeを使っている様子を写真に撮ってTwitterで公開する人も数人いた。「まるでライフスタイルショー。いろんな写真をいただき、すごく話題になって楽しかった」。8月20日、Mac用のアプリインストーラーの提供を終了。既存ユーザー向けのサービス自体は継続している。

 同サービスをビジネス化する予定はないという。現在は、次のサービスを着々と準備中だ。

「電線」を作りたい

画像 京都・鴨川で

 昨年、東京から京都に移り住んだ。「京都なら開発に集中できるし、面白いことをやりたいという雰囲気がある」。盆地で道がまっすぐな地形は、シリコンバレーに似ているという。

 ユーザーのために面白いことをやれば、ビジネスは後から付いてくると信じている。「ユーザーに価値あるものを提供できたら、みんながお金を払ってくれるはず。ビジネスは社会への価値を提供することで、その逆、ビジネスが先にあった上で社会に何かを立ち上げるのはおかしいと思う」

 小さいころから電車が好きで、日本の新幹線が大好きだ。電車はレール(軌道)と電線で、人を運び、情報をつなぐ。

 ITを新幹線に例える。PCやスマートフォンなどハードが軌道、OSやネットワーク、プロトコルが電線の役割。電線と軌道が、人と人や、人と情報をつなぎ、コミュニケーションを加速する。「ハードはよくできているが、電線はまだまだ。日本で電線を作りたい」

 ネットを使ったコミュニケーションは、まだまだ進化させられると思っている。新幹線のように、自然に、快適に、安全で、つながりやすく。ConnectFreeやt.freeの「free」には、無料という意味と、自由という意味を込めている。「もっと自由に簡単に、コミュニケーションできるようにしたい」

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