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» 2012年10月01日 08時00分 公開

海外進出企業に学ぶこれからの戦い方:ビジネスモデルを広げて「逆タイムマシン経営」を実践する東洋製罐 (2/2)

[井上浩二(シンスター),ITmedia]
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 2つ目のポイントは、企業体力を生かしたM&Aや提携の取り組みである。同社は、昨期末時点で自己資本比率が56.9%であり、現金を1300億以上保有している。この強固な財務基盤を生かし、スピーディーなビジネス展開を図ろうとしている。

 例えば、昨年11月に約600億円で買収した米国の容器製造機械メーカーであるストーレ社のM&Aは同社の方針を良く表していると思われる。年間売上高が約190億円の同社に対し、金子社長が「かなりのプレミアムを付けたかもしれない」とコメントする通り、海外展開を実現するために必要と判断すれば相応の投資を迅速に行う方針と思われる。

 ストーレ社は、欧米での売り上げは26%にすぎず、中国、アジア、南米、中東で残りの約7割の売上げを作っており、中国・上海、ベトナム・ホーチミン、英国・カーライルに販売拠点を持っている。機械販売とアフターサービス、更にはオンサイトでのライン構築全体の請負までを視野に入れ、必要な技術、設備の獲得と市場へのアクセス構築にかかる時間の短縮をM&Aで補完していると言えよう。このような手法は、同社がこれまで積み上げてきた強固な企業体力があるからこそ取り得るものだともいえる。

 最後、3つ目のポイントは、海外展開に取り組むほとんどの企業が課題としている人材である。同社は、次世代の経営陣、海外展開を経営視点を持って進められる人材育成のために、2003年からTSBC(Toyo Seikan Business School)を始めている。

 これは、まずMBAの基本をおさらいした上で、アクションラーニングを通じて戦略立案力とその実行力を磨くというプログラムであり、選抜した人材に1年強の期間をかけて徹底的にビジネスを考える力と実行力を刷り込んでいる。2006年からの本格的な海外展開も、まずTSBC第1期生が主体となって推し進めた。卒業生の中には、いきなり既存の海外子会社に役員として派遣され、それまで利益を埋めなかった企業の収益体質を短期間で改善したメンバーもいる。

 タイで設立した新会社に社長として赴任し、0から会社を立ち上げ3年で黒字化を実現したメンバーもいる。昨年のストーレ社のM&Aを実行した中心メンバーも、TSBCの卒業生である。毎年20名程度の人材を地道に育て上げ、その人材がスクールでの経験を生かして現地の人的ネットワークを広げ、現地の人材とビジネスを一歩一歩創り上げていっているのである。

 同社のコアコンピタンスである技術力を生かしたビジネスモデルの展開には、時間もコストも掛かるが欠かせない取り組みといえよう。現在、この取り組みはTSGBC(G:Group)に発展し、グループ企業80社のシナジーを生かせる人材とアイデアを生み出す場となっている。

 今回紹介した東洋製罐の取り組みは、日本で切磋琢磨して高品質の製品、サービスを提供できる力を培ってきた多くの日本企業にとって参考となる取り組みだと思われる。新興市場に対する「逆タイムマシン経営」を、日本とその市場の違いをしっかり把握して展開することで、自社の強みを発揮して新たな成長を遂げることができる日本企業は数多く存在する。ただし、そこにはTSGBCのような地道で時間の掛かる取り組みも必要となることを意識しておく必要があるだろう。

著者プロフィール

井上 浩二(いのうえ こうじ)

株式会社シンスターCEO。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)を経て、1994年にケーティーコンサルティング設立。アンダーセンコンサルティングでは、米国にてスーパーリージョナルバンクのグローバルプロジェクトに参画後、国内にてサービス/金融/通信/製造等幅広い業種で戦略立案/業務改善プロジェクトに参画。ケーティーコンサルティング設立後は、流通・小売、サービス、製造、通信、官公庁など様々な業界でコンサルティングに従事。コンサルタントとしての戦略立案、BPRなどの実務と平行し、某店頭公開会社の外部監査役、MBAスクール、企業研修での講師も務める。


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