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» 2012年11月22日 08時00分 UPDATE

「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記:生保のITは難しく複雑だからこそ面白い (1/2)

巨大で複雑なシステムを抱える日本の保険業界。その特徴や、プロジェクト遂行におけるポイントは?

[聞き手:重富俊二(ガートナー ジャパン)、文:大井明子,ITmedia]

 国内初となるがん保険を看板に、1974年に日本に参入して以来、契約件数を順調に伸ばし、今や個人保険・個人年金保険の保有契約件数トップとなったアメリカンファミリー生命保険会社(アフラック)。同社のIT部門を率いるのは、キャリアを重ねながら保険業のITに長く携わってきた常務執行役員で日本担当チーフ・インフォメーション・オフィサーの福島行男氏だ。福島氏が実施したアフラックのIT改革の背景や成果、日米の保険業界のITの違いなどについて聞いた。

協力会社の削減や大胆なオフショア活用でIT改革を断行

 ――福島さんは、2006年にアフラックに入社して早々に、IT部門の改革に着手している。中でも、中国でのオフショア開発の全面的な採用は、当時としては珍しかったのではないか。

fukushima22.jpg アフラック 常務執行役員 日本担当チーフ・インフォメーション・オフィサーの福島行男氏

 確かに2006年当時は、単発の開発をオフショアで行っている企業はあったが、大企業のコアシステムを全面的に中国にアウトソースするケースはなかったのではないかと思う。しかも、通常はパイロット期間を経て徐々に移行するのだろうが、当社の場合は一気に行った。失敗したら首が飛ぶという覚悟をしていたが、幸いなんとか運用できるレベルに至った。

 「怖いもの知らず」とも言われるが、あれこれ考えて議論しているばかりではビジネスは前進しない。心配を挙げればキリがないからだ。特に日本の金融業界は、「石橋を叩いて叩いて結局渡らない」というほど慎重だが、やってみなければ分からないことも多い。責任や権限というのは、思い切った決断をするためにあるはず。実行しないのであれば、責任や権限など持つ必要がない。

 ――オフショア開発やアプリケーションのライフサイクル全体にわたる管理をアウトソーシングした背景には何があったのか?

 アフラックに入社した当時のIT部門は、対応が追いつかず積み残しになっているバックログ案件を大量に抱えていた。協力会社が70〜80社あるうえに業務が標準化されていないため、ノウハウが属人化しておりリスクもあった。協力会社それぞれと交渉していくのは大変だ。

 そこで、かつて日本アイ・ビー・エムに在籍していたとき学んだアプリケーション・マネジメント・サービス(AMS)というスキームを活用することにした。多数の協力会社それぞれから直接サービスを受けるのではなく、3社に絞り込み彼らを窓口として、オフショア活用などのシステムのマネジメントを含めて包括的にサービスを受けるものだ。窓口の3社とは、提供を受けるサービスの水準を詳細に規定して文書化したサービス・レベル・アグリーメント(SLA)を締結した。

 実施前は、開発や保守に年間約4500人月程度をかけていたのが、実施後には約8000人月超えになったがバックログや障害が減少し、新商品開発にリソースを向けられるようになり、結果「開発体力」を倍増させることができた。

大変なのは、手法の変更ではなくマインドの転換

 ――改革によるメリットは?

 社員の意識改革ができたのが大きい。これまで協力会社に頼りきっていたのが、3社の大手ベンダーとSLAに基づいたやり取りを行うことが求められるようになったからだ。双方の役割や責任が明確になり、社員は要件を明確に伝えたり、検収や報告対応もしなくてはならないので、大変ではあるが刺激になり活性化につながったと思う。

 ――かなり大胆な改革だ。さまざまな抵抗があったのでは?

 最も難しかったのは、AMSを採用することそのものではなく、IT部門の文化やスタッフのマインドを変えることだった。考え方を理解することができたとしても、感覚的に浸透させるのは簡単なことではない。「今までこのやり方でやってきたのに、なぜ変えなくてはならないのか」「これほど一気に変える必要があるのか」「こんなやり方はできっこない」などの声がたくさん聞かれた。2年くらいかけ、課やグループ単位でランチミーティングを行ったりして対話した。

 もちろん、協力会社からも反発の声が上がった。中には社員が十数人しかおらず、当社の仕事に依存している会社もあり「ウチの会社を潰す気か」というクレームもあった。しかし、われわれの会社も慈善事業ではない。こちらも死活問題だ。「当社1社に頼るような事業を続けていては、どのみちいずれ立ち行かなくなるだろう。企業として生き残りたいなら、当社にとって価値ある会社になってもらえれば、もちろん今後も関係を継続する」と話をしながら徐々に削減を進め、今では協力会社の数を半分まで絞り込んだ。

 ――協力会社にとっても、アフラックの改革が事業見直しのきっかけとなり、長い目で見れば救われた企業もあるのでは?

 そうだといいと思う。ソフトウェア産業の価値は、労働力提供ではないはず。それではいずれ、オフショアに淘汰されてしまう。提供すべきは価値あるノウハウ。これは小さい企業であっても実現可能だ。われわれは、価値あるノウハウを提供できる企業とは、今もパートナーシップを築いている。

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