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» 2013年02月21日 08時00分 UPDATE

ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術:成功のトリセツ (1/2)

ラグジュアリーな空間に放り込まれても、普段の感覚を見失わない人間だけが人生とお金との対決において最終的に勝利できる。ましてやリーダーには、さらにシビアな金銭感覚が求められる。

[水野俊哉,ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


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 かつて僕はIPOを目指すベンチャー企業の経営者だった。

 当時の僕は焼き肉を食った後に寿司を食ったり、麻布十番のジャグジーつきのカラオケでモデルと合コンして会計が100万円を超えるなど億単位の金が動く経営のプレッシャーから夜の街に札束をまきちらすような生活を送っていた。

あの金で何が買えたか?

130221book.jpg 「成功」のトリセツ

 今はまったく成金的な金銭欲もなくなり、高級スーツや時計などには興味がなく、夜の繁華街にも近寄らないという禁欲的な生活で満足している。たまに村上龍氏の「あの金で何が買えたのか」(小学館)というタイトルをつぶやいたりするくらいで、今現在パーッと散在している人を見ても「なんだかなぁ」と微妙に違和感を覚えるほどである。

 では何に時間とお金を使っているかというと、経験に投資するようにしている。具体的に言えば、執筆のために色々なホテルに泊まったり、家族を旅行に連れて行ったり、地方に行った際に美味しい特産品を買うとか、好きなだけ本を買ったり、サッカーをしたりといったところだ。

 事業の失敗で金も人も名誉もすべて失い、残ったのは経験だけだった。

 僕の経験上、夜の街で銘柄不明の高い酒をモデルやレースクイーンなどと飲んでも、そんなものはシャンパンの泡のようなもので、自分の人生に何か良い影響を与えることはなかった。それよりも自分自身に投資した方が少なくとも記憶や経験に残るような気がする。

高級ホテルのスイートルームでカップラーメンを食え!

 そんなわけで現在の僕は平日はほぼホテルに滞在して執筆や打ち合わせをこなしている。そしてホテルでの僕の定番朝ご飯は、日清のカップラーメンである。実は僕がカップラーメンを食べるのはホテルに泊まった時くらいだ。では、なぜホテルでだけ食べるのかというと、行動経済学でいうところのアンカリングの法則を用いて、金銭感覚を鍛え直しているのだ。

 アンカリングの法則とは、人の心の印象に数字が大きな作用を成すことを指す。(アンカリングの語源は船の錨からきている)。収入が多くなるにつれて支出が多くなってしまうのも、このアンカリングとフレーミング効果(同じ事実に対して質問や数字の提示のされかたによって、判断や印象が変わってしまうこと)で説明することが可能だ。

 そして現代の高度資本主義社会においては、多くの企業がこの心理法則を応用して顧客の購買意欲を増加させたり、目が飛び出るほど高い品物を売りつけるためのテクニックとして利用しているのは、皆さんご存じの通り。

 僕は心の中のアンカーを正常値に戻すために(あるいは金銭感覚が狂わないように)あえて朝ごはんにカップラーメンをセレクトしている(ちなみに大阪では立ち食いうどん屋に駆け込むことが多い)。もちろんホテルの朝食を楽しむこともあるが、その際は「いったい誰が一食4000円の豪華な朝飯を食いに来るのかの鑑賞料」だと思っている。

筋トレならぬ金トレ

 ラグジュアリーホテルに宿泊する際でも極力、必要なものはコンビニで買い出しをする。あるホテルでミネラルウォーターが1600円だった。1本100円のミネラルウォーターがなんと16倍の1600円で売られていたのだ。ラグジュアリーホテルはただの水がシャンパン味になる魔法の空間だとでもいうのだろうか。高級ホテルのミニバーや冷蔵庫の中のビールの値段を横着者への罰金だと僕は捉えている。

 そして、ワインも1本3万円もする。タクシーでデパートまで買いに行けば5000円の銘柄である。もしも彼女とのデートで奮発してラグジュアリーホテルに泊まったとして、「3万円のワインが飲みたい」などという女には、1万円を渡して「これでタクシーに乗って伊勢丹でワインを買ってきなさい」と静かに言い聞かせてしまうといいだろう。あるいは勝手に冷蔵庫から1600円のミネラルウォーターを飲もうとするような 不届きものには往復ビンタをかまし、「蛇口をひねって高級ホテルの有り難い水道の水を飲みなさい」と教えてはどうだろうか。

 まぁ、その結果、どうなっても僕は責任をとらないが、高級ホテルは僕達が普段、 何に対してお金を払っているのか?  を考えて、その費用対効果や金銭感覚を鍛えるのに最高の環境である。高級ホテルにはなにかと誘惑が多い。性欲旺盛な若者が「恵比寿マスカッツ」にメンバー入りしたようなもので、理性がふっとびまともな判断ができなくなってしまう。

 ラグジュアリーな空間に放り込まれても、普段の納豆で朝ご飯を食べている感覚を見失わない人間だけが、人生とお金との対決において最終的に勝利できるのである。ましてや会社やグループの浮沈のカギを握るリーダーにおいては一般人以上のシビアな金銭感覚が求められるのだ。

お金の本質

 お金とは何か?

 経済学の本を読むと「お金=信用」と書いてある。現代の高度資本主義社会においては「お金=情報」とも言えるかもしれない。僕にとってお金とは感謝の気持ちである。と書くと、何をきれいごとを言っているのかと思う人も多いかもしれない。だから普段は、このようなアヤシイことを真顔で言ったりはしないようにしている。しかし、僕は格好つけた言い方をして好感度を上げようとしているわけでも、新たな宗教ビジネスを目論んでいるわけでもなく、真剣に心の底から「お金とは感謝の気持ち」を表現した物だと信じている。

 もちろん、昔は違った。僕にとってお金とはパワーであり、お金を持つことは権力を持つことに等しかった。だからこそ「金さえ儲かれば」後はどうにでもなる、と信じていた時期もあった。その結果、独立してからがむしゃらに働くことで年収は1000万円を超え、夜も眠れないほど忙しくなったのでスタッフを増やし、そのことによりさらに収入が増え、さまざまな交流により交際も派手になり、そこで得た情報や人脈を使って、事業を拡大した。

 会社の人員がどんどん増えていく中で、倍増していく経費に売上げが追いついていかない状況が続き、僕は片っ端から金融機関から融資を受けていった。なぜそんなハイリスクなことをしていたかというと、すべてはIPOのためだった。

 当時は僕の周りにも起業して数年で会社を上場させ、若くしてセミリタイアしている人間が多かった。「なんのためにそんなに働いていたのか?」と今になると疑問に思うのだが、当時は成功することしか考えておらず、まさにデッド or アライブの心境で走り続けていた。

 やがて会社の売上げは数億円規模になり、僕は完全無欠の成功者っぽいライフスタイルを手に入れた。ところが最終的には、ベンチャーにありがちな資金繰りの苦境や人間関係のあつれきなどもあり、絶頂期は長く続かなかった。これらの経緯は「幸福の商社、不幸のデパート」(大和書房)で詳しく書いたが、最終的には負債を抱えたまま会社を追放され、無一文の状態になり、電車に乗るお金すら事欠く有様となった。

 人間は何かを得るには何かを手放さなければいけないのかもしれない。僕はお金や権力を失うことによって、ようやくお金の本質に気づき始めることになる。

 世の勤め人にとっての収入を得る代表的な手段は、会社から支払われる給料だろう。では、会社の給料はなんのために払われているのだろうか? それは、会社に自分の時間を拘束されることへの対価でも、嫌な仕事に我慢する忍耐料でもなく、お客様に与えた満足度への対価が分配されているのである。

 出版社の人間であれば、良い本を読んだ読者のからの応援の気持ちが会社を通じて支払われているのであり、電機メーカーであれば、家電などから得られる便利さへの消費者からの喜びの金額が報酬になる。僕は会社を経営していた頃、固定費や変動費を支払った残りが利益だと考えていたのだが、根底から間違っていたと今なら自信を持って言える。

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