日本のCIOは、デジタルワールドの潮流に乗れるのか? ――CIO アジェンダ 2013Gartner Column(2/2 ページ)

» 2013年04月08日 08時00分 公開
[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]
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デジタル化を推進したいCIOに立ちはだかる3つの壁

 今回のCIOサーベイの結果によれば、回答者であるCIOはデジタル・テクノロジの価値をさらに引き出して、ビジネス・エグゼクティブたちが求める新たな要請にも積極的に応えていきたいと思っているものの、いくつかの重大な課題がこうしたCIOの取り組みを妨げていることが浮き彫りになりました。

  • IT予算増加が抑制される環境では、現行のITオペレーションに注力せざるを得ず、戦略的に意義ある組織になることができない。
  • デジタル・テクノロジを駆使して、ビジネスそのものに影響を与えることに長けている人材が、そもそも既存のIT部門にはいない。ビジネス部門には、存在するのかもしれないが、IT部門に来るわけがない。
  • ビジネス戦略が変化しても、柔軟性の無いIT組織のために、ITの役割と適応力が制限されている。

 CIOの責務は、これらの要因を前に不透明なビジネス環境下でデジタル化をリードしていくことは言うまでもありません。手元にあるリソースでどうにか小手先で切り抜けていくことではないことを十分に理解する必要があります。今後、長期にわたり価値を創造するつもりであれば、これからの3年間に"より少ないリソースでより多くを実現する"という従来の価値観を打ち壊さなければなりません。

今後の3年間で何をすべきか

 前述した課題があることを認識した上で、デジタル世界における成功を勝ち取るための「計画を立てる」ことが、今後の3年間で、CIOが、最初にすべきことです。大半のCIOは、ITが今日置かれている状況に基づいて、ITの戦略的関与、資金調達、スキルを拡大することがなぜ重要なのかを主張することができないと考えています。なぜならば、前述の課題のために、IT部門は、現行のITオペレーションやシステムを"手入れ(テンディング)"すること(日々の改善、改修、運用など)に専念していますが、こうした単なる"手入れ"を超えて新たなる行動を採用しなければなりません。

 新たなる行動とは、新しいデジタル・イノベーションやデジタル化の機会を"ハンティング"してプロダクト、サービス、(ビジネスの)オペレーションからより多くのビジネス・パフォーマンスを"ハーベスティング"できるようにすることです。

従来のIT部門は否定されるのか?

 ガートナーは、従来のIT部門が、今すぐに否定されて、消滅してしまうというような過激なことを言っているのではありません。しかし、従来の方法に固執して"手入れ"だけを続けているならば、早晩、企業内におけるテクノロジの価値は消滅するでしょうし、同時にIT組織そのものも存在できる可能性は低くなっていくでしょう。

 新たな行動を起こす際に、きっと、先輩たちは、そんなことをしてこなかったとか、誰もやったことがないのに、できるわけがないと考える方がいるでしょう。しかし、あなたがやらなければ、多くのIT要員は、皆、失望して、あなたの配下から離反していくことになるかもしれません。それでも、金と人が無い中で何をすれば良いのか? とお悩みのあなたに、アドバイスです。

 従来のことを、従来通りにする計画を立ててそれが、承認されたら、金も人も増強されるわけがありません。まずは、IT部門の事業計画をアグレッシブに作り直すことです。そして、あなた自身の企業内における影響領域を広げることです。デジタル・チャネルやデジタル・マーケティングの事業責任を買って出るとか、事業戦略策定に関する影響範囲を拡大するとか、方法はいくらでもあります。あなた自身の活動領域が広がって、結果がついてくれば、必然的に金も人も割り当てられることになるでしょう。鶏が先か卵が先かの議論ではありません。明らかに、あなたが行動を変えることが先なのです。

 今年のCIOアジェンダは、CIO自身の行動を今こそ変えるべきであるというのが、結果でした。ITを取り囲む環境は、ますます変化しているにも関わらず、IT部門は何ら変化しない。いまだに「トランザクションシステム」の"手入れ"に東奔西走している姿に留まっていることが、「ITの静かなる危機」としてガートナーは警鐘を鳴らします。今年こそ、われわれと一緒に変化する年にしませんか? 安住の地は、離れたくないでしょうが、今すぐにでも、そこを離れる決心が必要になることを忘れないでください。

著者プロフィール:小西一有 ガートナー エグゼクティブ プログラム (EXP)エグゼクティブ パートナー

小西一有

2006年にガートナー ジャパン入社。CIO向けのメンバーシップ事業「エグゼクティブ・プログラム(EXP)」において企業のCIO向けアドバイザーを務め、EXPメンバーに向けて幅広い知見・洞察を提供している。近年は、CIO/ITエグゼクティブへの経営トップからの期待がビジネス成長そのものに向けられるなか、イノベーション領域のリサーチを中心に海外の情報を日本に配信するだけでなく、日本の情報をグローバルのCIOに向けて発信している。


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