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» 2013年08月19日 08時00分 UPDATE

視点:多極化する世界市場で勝てるブランドをつくる (1/3)

なぜ日本企業は世界で勝てるブランドを確立できていないのだろうか。かつての「成功モデル」から脱し切れていないことがある。グローバルで勝つ7つの処方箋とは。

[鬼頭 孝幸(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

世界市場で徐々に存在感が低下しつつある日本企業。皆さんも、海外出張や海外旅行に出かけるたびに、欧米企業やアジアの新興企業との勢いの差を感じることが少なくないだろう。日本企業が再び世界市場で輝くブランドを取り戻すために必要なことは何か。それは、ブランドづくりの基本思想を再定義するとともに、経営資源の大胆な再配分や既存の業務、仕組みの再構築を進め、「グローバル・ブランドマネジメント・プラットフォーム」を構築することだ。


世界市場で存在感を失う日本企業

 世界の市場で日本企業の存在感の低下が止まらない。かつて世界を席巻した日本企業のブランドだが、2000年以降、その力を失いつつある。ソニーが象徴的だ。ソニーのブランド力は低下を続け、いまや海外では韓国のサムスンのほうがブランドイメージに勝ることは、既に常識となっている。

 一方、消費財・流通の領域に目を転ずると、また違った風景が見える。グローバルのシェアでトップ10に入る日本の消費財・流通企業は数少ない。消費財・流通領域においては、そもそも日本企業のブランドは、世界で戦いの舞台に上がることすらできていないことが多いのである。

 更に別の角度から見てみよう。日本企業のみならず海外の企業にとっても今後、成長のエンジンとなることが期待されている新興国市場。この新興国市場における日本企業のシェアは、多くの製品領域において、グローバル全体のシェアよりも更に低い傾向にある。つまり、日本企業は今後更に重要性が増す新興国市場において、いまだ十分なブランド力を確立できていないということだ。

 もちろん例外もある。トヨタやブリヂストン、日本電産、コマツなど、グローバル市場でも有数の企業として存在感を放っている日本企業もあるし、インドネシアにおけるマンダムやユニ・チャーム、ベトナムにおけるエースコックなど、各地で高い認知やシェアを誇るブランドを確立している日本企業も存在する。

 しかし、全体として俯瞰して見るならば、世界市場における日本企業のシェアは限定的であり、それはつまり、日本企業が世界市場で勝てるブランドを確立できていないということでもある。逆の言い方をすれば、日本企業は世界で勝てるブランドを構築し、世界市場における存在感=シェアを高めていくことが喫緊の課題なのである。

なぜ日本企業ブランドは世界で勝てないか

 なぜ日本企業は世界で勝てるブランドを確立できていないのだろうか。もしくは、かつては光り輝いていた日本企業ブランドが、その存在感を低下させてしまったのはなぜだろうか。

 その要因は様々だが、ひとつには、日本企業がかつての「成功モデル」から脱し切れていないことがある。かつての「成功モデル」とは、極めてシンプルに言えば、(1)海外(特に欧米)の先進企業や先進事例に学び、(2)日本市場で優れた製品(特に品質や軽薄短小等の高い付加価値を持った製品)を生み出す、そして、そうした優れた製品を(3)相対的に安い労働コストと円安を生かした高い価格競争力でもって海外に輸出・展開する、というモデルである。これは、1980年代までの市場環境においては非常に強いモデルだった。当時世界で通用する強いブランドを実現した日本企業の多くは、このパターンで成功したと言えよう。また、当時は「世界市場」≒「欧米市場」ということも忘れてはならない。つまり、当時世界に名をとどろかせた日本企業の多くは、(4)欧米市場での成功が世界で通用するブランドづくりの原動力となった、ということである。

 しかし、それから30年。世界は大きく変化した。そして、かつてないスピードで変化を続けている。かつての日本企業の「成功モデル」は、それを支える前提が崩れたためにもはや機能しない。日本の市場が成熟し、相対的に欧米市場との差がなくなったために、単純に欧米の先進事例に学べばよいという時代は終わった。また、より小さく、より薄く、より軽く、といった改善・改良の積み重ねで製品の付加価値を高めていくアプローチも通用しなくなった。日本の労働コストは上がり、円高が進んだために価格競争力は大いに低下した。さらに世界市場の多極化が進み、かつてのように欧米だけを見ていては世界市場では戦えない時代になった。

 また、冒頭で紹介した食品・飲料のように特に内需系の領域においては、そもそも日本市場自体が巨大かつ成長していたため、わざわざ海外に目を向ける必要性に乏しかった。国内市場を中心とした事業展開を進めてきた結果、そもそも世界市場では存在感がないという結果につながっている。自国市場の規模が限られているために早くからグローバル展開を考えざるを得ず、結果として海外市場で強いブランドを構築することができた北欧や韓国等の企業とは対照的だ。

 いずれにしても、こうした市場環境の中、かつての「成功モデル」に変わる、新たな「世界市場で勝てるブランドをつくるためのモデル」(もしくは国内市場に閉じた展開から脱却し、多極化して日々変化する世界市場で勝てるブランドをつくるためのモデル)を見出せていないことが、多くの日本企業が世界で勝てるブランドを確立できていない最大の要因である。

多極化する世界市場で勝てるブランドをつくるための新たなモデルとは?

shiten881.jpg 図1:新たな成功モデル

 では、その「新たな成功モデル」とはいったいどういったものであるべきか。まず、「ブランドづくりの基本思想」を明確に持つことだ 。そして、その基本思想に沿ってブランドを具現化していく「グローバル・ブランドマネジメント・プラットフォーム」を構築することである(図1)。以下、順に説明しよう。

(1)ブランドづくりの基本思想

shiten8821.jpg 図2-1:ブランド構築パターン

 まずブランドづくりの基本思想だが、これは、世界市場でブランドを展開していく上でどういった戦い方をしていくか、ということだ 。より具体的に言えば、何をブランドとして顧客に訴求していくのか、何をブランドとして顧客のロイヤリティを確立していくのか、ということである。例えば、企業名をブランドとして前面に押し出すのか(コーポレートブランド)、商品名を訴求するのか(プロダクトブランド)、といったことである。また、商品名を訴求するにしても、単一のプロダクトブランドで勝負していくのか、それとも複数のプロダクトブランドを組み合わせていくのか、という論点もあるし、グローバル統一のブランドで戦うのか、それとも各国・各エリアごとに異なるブランドを立てて戦うのか、といったことも論点になる。

shiten8822.jpg 図2-2:ブランド構築パターン

 こうした観点から、世界市場で成果を挙げているグローバル企業の事例を俯瞰すると、グローバルでのブランド確立のパターンとしては大きく六つの基本パターンが存在している(図2)。もちろん、複数のパターンを組み合わせた例も存在するが、いずれにしても、自社が世界市場で戦っていく上でどのようにブランド体系を構築し、展開していくのか、という基本方針が明確であることが大切となる。

 日本企業の方々と議論していると、ブランド=コーポレートブランドという認識がまだまだ強く、特にグローバルでのブランド力強化という議論になると、いかに自社のコーポレートブランドを強くするか、という観点に偏りがちという印象が強い。扱う商品や価格帯、事業モデル等によっても最適なパターンは変わってくるが、コーポレートブランド一辺倒ではなく、より戦略的なブランド構築、展開が求められる。

 もうひとつ、ブランドづくりの基本思想において明確にすべき点がある。それは、価値を生み出す源泉を何に置くのか、ということだ。ブランドとは、消費者が感じる価値イメージの総体である。消費者が、感じ取った価値イメージに共感してファンになることによって、初めてブランドとして確立する。つまり、ブランドとは、(ターゲットとする)消費者に対して、彼らが共感しうる価値を提供することが大前提である。そのためには、どのような価値を提供していくかということと同時に、その価値をどのように生み出していくか、という点が極めて重要になる。どんな価値を提供していくかという点に関しては、次の「グローバル・ブランドマネジメント・プラットフォーム」で触れるが、ここでは、価値を生み出す源泉について簡単に触れておきたい。

shiten883.jpg 図3:価値を生み出す源泉

 優れたブランドを実現している企業を見ると、価値を生み出す源泉が明確であることが分かる。そして、その価値創出の源泉となりうる要素には 、大きく三つのパターンが存在している(図3)。詳細は図をご覧頂くとして、ここで大切なことは、価値を生み出す上で自社として何を大切にしていくのか、何を得意技として磨いていくのか、ということを考え抜き、社内で共通認識化することである。いったんそれが社内で共有されれば、戦略や施策を考える際の判断基準となることはもちろん、日々の業務においても、社員が自分たちは何を大切にして仕事にあたるべきか、理解しやすい。

 例えば「人」が源泉だとすれば、価値を生み出せるタイプの人材を採用し、育成し、そうした人材にチャンスを与え、彼らが活躍できるような環境を整備する必要がある。社員が、自分たちこそが価値を生み出す源泉だと深く自覚し、行動するように仕向けなくてはならない。これは、「オペレーション」が価値を生み出す源泉となっている企業とはまったく異なる取り組みが必要になるであろうことは、容易に想像がつくだろう。このように、グローバルで勝てるブランドをつくっていくためには、まずブランドづくりの基本思想を明確にし、全社で共有化していくことが欠かせない。

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