空・雨・傘とビッグデータ活用により実践するマーケティング戦略で企業の競争優位性を確立(2/2 ページ)

» 2013年09月25日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]
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ビッグデータのもたらすものの例

 問題解決のステップである、空・雨・傘の手法に、ビッグデータの定義を組み合わせて価値を創造してみる。及川氏は、「この考え方は今回、初めて紹介するものなので、ビッグデータの専門家にとっては突っ込みどころ満載かもしれないが、ビッグデータのもたらすもの例として紹介する」と話す。

 まず、Volume(量)の拡大では、空(現状の把握)は「取り扱うデータの制約の緩和」であり、雨(意味合いの抽出)は「モデル探索の向上」、傘(解決策の策定)は「リスクのある意思決定の加速」となる。

 「昔はコンピューティングパワーに限界があり、たくさんのデータを取り扱うと処理が2〜3日かかっていた。そこで事前にかなりデータを絞り込まなければ、分析ができなかった。現在では、コンピューティングパワーを意識することなくビッグデータを分析できるくらいに性能が向上している」(及川氏)。

 コンピューティングパワーが向上するとモデル探索の精度も向上する。これにより、結果としてリスクのある意思決定の加速化が可能。例えば、このプロモーションは、やった方がよいのか、やらない方がよいのかなど、シミュレーションで白黒をつけることができる。

 またVelocity(鮮度)の向上では、取り扱うデータの種類が拡大(空)することで、分析範囲が拡大(雨)するが、多様な改善のレバーの活用(傘)が期待できる。さらにVariety(多様性)の向上では、取り扱うデータの時間差が短縮(空)、分析に関する作業が簡易化(雨)し、PDCAサイクルを高速化(傘)できる。

 「これまで白黒つけるのにドキドキしながらやっていた分析を、より確度の高い意思決定に変化させることができるのが、ビッグデータがマーケティング戦略にもたらす意味合いである」(及川氏)

マーケティング・ミックス(McCarthy 1960)

 「さてマーケティングの話をしてみたい」と及川氏。ある大学の授業で、社長として売上を2倍にするためにはどうすればよいかを学生に発表してもらう。ある学生は、「企業コラボTシャツがかっこいいので、コラボTシャツを増やす」という。「これは正解である」と及川氏。

 また違う学生は、中国よりミャンマーの方が、生産コストが安いので、工場をミャンマーに移すと話す。及川氏は、「工場を移すと単価が下がるので、売上も下がるのではと聞くとしばらく困るが、単価が下がっても2倍売れれば売上は上がると返事が返る。これも正解である」と話す。

 また別の学生は、広告宣伝をバンバン打ちますと言い、最後の学生は店舗を増やすと言う。「これも正解である」(及川氏)。

 企業コラボTシャツは「いかにして商品(Product)の魅力を高めるか」、工場の移転は「いかにして価格(Price)を受け入れやすいものにするか」、広告宣伝は「いかにしてプロモーション(Promotion)をうまく展開するか」、店舗を増やすのは「いかにして流通(Place)をうまく整備するか」に通じる。マッカーシーの言うマーケティング・ミックス、マーケティングの4Pは健在であり、これからも重要な要素であるだろう。

マーケティングによる価値創造の機会の探索

 マーケティングの4Pに対して、いかに新しい取り組みを見つけるかを問いにして、その問いに答えることにより、新しい傘の可能性を見いだし、その傘に対する空と雨を見いだすのが、マーケティングにより売上を向上させるときの一番基本的な方法である。

 「商品をより良いものにして、より顧客に使ってもらうためには、ニーズにいかに適用させるかが重要。ニーズにも見えるニーズと見えないニーズがあり、あまり見えるニーズに応えすぎると、こぢんまりしてしまう可能性があり、見えないニーズに対してどこまで適用させるかがポイントになる」(及川氏)

 また新規顧客をいかに獲得するかも重要。そのためには、いかに効率的にリーチを確保するかがポイントになる。BlueKaiのCEOからリターゲティングの話しもあったが、リターゲティングはここ数年で最大のイノベーションではないだろうか。

 「ショッピングサイトで商品Aと商品Bで悩んで、商品Aを購入したところ、翌日商品Bのバナー広告が出る。これがリターゲティングである。別のサイトでは、バナーは出ないが、翌日のメールでリコメンドされる。これは既存顧客に対して、いかに継続利用を増やすかというマーケティングである。現在、リコメンドは非常に進化している」(及川氏)。

 もちろん、企業ブランドをいかに醸成させるか、また人材の採用、育成も重要なポイントになる。これを日本市場とグローバル市場で探索することが必要となる。

ビッグデータの視点から新たな可能性の検討

 マーケティングの目的と価値創造の機会を探索する問いを、ビッグデータの視点である「リスクのある意思決定の加速化」「多様な改善のレバーの活用」「PDCAサイクルの高速化」をつき合わせることで、新しいアプローチが見つかる。

 例えばスーパーの商品は棚であり、いかに顧客ニーズに最適化された棚を実現するかが重要になる。及川氏は、「商品Aを迷わず買った顧客と、商品A、B、Cで悩んで商品Aを買った顧客は、POSデータ上では同じ商品Aを購入した顧客だが、本質的には同じ顧客とはいえない」と話す。

 そこでビッグデータが登場する。分析できるデータの粒度が高くなることで、これまで見えなかったことが見えるようになる。つまり、ビッグデータの特長である3Vを、ビジネスの意思決定の加速化につなげることが重要になる。

 及川氏は、「ビッグデータをマーケティングに活用することより、意思決定のために取り扱うデータの種類が拡大し、短い時間で入手できることで多様なレバーが見つかり、PDCAサイクルが高速化する。これがマーケティング戦略におけるビッグデータ活用の勘どころとなる」と話し、講演を終えた。


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