人口高齢化の企業経営への示唆視点(1/3 ページ)

人口の高齢化を「脅威」ではなく「機会」と捉え、いかに競合他社に対して先んずるか。これが今後企業に求められていく。

» 2013年09月30日 08時00分 公開
[森 健、中里 航平(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

ローランド・ベルガーの研究・教育機関であるRoland Berger School of Strategy and Economics (RBSE) では、中長期的に企業経営に大きな影響を与える7つのメガトレンドを特定した。特に、「人口動態の変化」を「気候変動」、「資源の枯渇」と並ぶ最重要メガトレンドと考え、調査・研究を進めている。

本稿では、筆者自身がRBSEでフェローとして行っている調査・研究をもとに、人口の高齢化が企業経営にもたらす影響、そして、それに対し日本企業が取り組むべき方向性について考察したい


1.はじめに──世界中で進む人口の高齢化

 世界の人口は増加を続けている。国連によると、現在約70億人の世界人口は、2025年までには80億人に到達する見込みである。

図1:主要国の60歳以上人口が全人口に占める比率

 同時に、世界全体で人口の高齢化が進んでいる。2010年時点では世界人口の11%を60歳以上が占めていたが、2025年には15%まで拡大する見込みである。地域別に見ても、アジアが10%から15%、ヨーロッパが22%から27%、北米が19%から25%と、いずれも高齢化傾向にあることは変わらない。

 但し、国によって進行度合いは大きく異なっている。その中で日本は、世界で最も人口の高齢化が進んでいる国である。図1にあるように、現在日本では、人口の30%ほどを60歳以上が占めている。これが2025年には35%にまで拡大する。これは、他の先進国や中国(一人っ子政策に伴う少子化の影響で急速に高齢化が進んでいる)を寄せ付けない水準であることがわかって頂けると思う。

図2:人口高齢化の企業経営への示唆(まとめ)

 高齢化への企業の対応は、その必要性がすでに多く指摘されている。しかし、それらは、高齢化によって生じるマイナスの影響をいかに最小化するか、という議論が中心のように思われる。しかし、より重要なことは、人口の高齢化のもたらす様々な課題に対して単なる対処策を講じるだけではなく、競争優位の構築につながる打ち手を講じていくことである。人口の高齢化を「脅威」ではなく「機会」と捉え、いかに競合他社に対して先んずることが出来るかが、各業界の競争状況を大きく左右していくといっても過言ではない。

 人口の高齢化に対する「守り」だけでなく、「攻め」へと取り組みを昇華すること。それも、前例が極めて限られている中で。これが、今後企業に求められていることである。

 以下では、上記の考え方に依拠しながら、今後企業が直面する課題を概観したのちに、企業に求められる取り組みについて検討を加えていきたい(図2)。

2.人口高齢化が企業経営にもたらす課題

人口高齢化の3つの「意味」

 人口の高齢化が企業経営において及ぼす影響として、最も一般的に認識・議論されているのは、定年退職者の増加であろう。日本においては、団塊の世代の大量退職、「2007年問題」として、2005年前後から対応の必要性・方向性が議論されてきた。

生産年齢人口における年齢分布

 しかしながら、高齢化がもたらす以下の2つの影響についても、同様に考慮しなければならない。まずは、従業員の高齢化、すなわち、従業員における50歳以上の占める比率の増加である。図3が示すように、生産年齢人口に占める50歳台・60歳台の比率は日本を含め各国で上昇している。加えて、近年では60歳を超えた社員の雇用を継続する動きも目立っている。これらは、従業員の中で高齢社員の比率が増すことを意味している。後にみるように、このような従業員の高齢化は、企業経営に大きな課題を投げかけることになる。

 加えて、採用プールにおける若年層の減少も無視することのできない現象である。人口の高齢化の主要ドライバーは出生率の低下であり、日本もその例外ではない。「大学全入時代」といった言葉に象徴されるように、企業の採用対象となる若年層の絶対数は減少傾向にある。実際に、干の上下はあるものの、日本における大学卒業者数は男性は2001年頃、女性は2007年頃をピークに、中長期的な減少傾向にある。

 「定年退職者の増加」に加えて、「従業員の高齢化」と「採用プールにおける若年層の減少」は、それぞれ異なった課題を企業に対し投げかけている。以下では、それら企業の対応が求められる課題について見ていきたい。

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