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» 2013年10月21日 08時00分 UPDATE

視点:今こそ問われる新規事業開発の在り方 (1/3)

製品・サービスの陳腐化が加速度を増す中、新規事業開発の重要性が増している。ありがちな失敗パターンは、在るべき開発プロセス・体制は何かを探る。

[五十嵐雅之(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

多くの日本企業が業績回復・過去最高益を享受している状況下、余力のある今だからこそ、次なる攻めの一手を講ずるべきである。本稿では、製品・サービスの陳腐化が加速度を増す中、その重要性が増している新規事業開発に焦点をあて、ありがちな失敗パターンを整理しながら、在るべき開発プロセス・体制を提言していく。

新規事業開発の成功のカギは、経営トップの強力な支援を担保すること、組織に埋もれた優れた事業アイデアを発掘すること、客観的且つ合理的な事業評価プロセス・手法を設計することの三点に尽きる。


1.事業ポートフォリオが企業の浮沈を決定付ける時代に

 「選択と集中」、古くから言われる経営の定石ではあるが、この単純な概念をそのまま鵜呑みにすると、意外なほど痛い目に合う。

 選択と集中の成功例と目されてきたシャープは、液晶・太陽電池事業に経営資源を集中して一時は成功を収めたかに思えたが、低価格を武器とする中国・韓国勢に追いつかれ、その強みを急速に失ってしまった。

 牛丼大手の吉野家も、BSE問題以降、競合他社が業態・メニューを多様化させる中、主力商品の牛丼に集中させたことが、結果として裏目となった。牛丼最大手の座をすき家に奪われただけでなく、いまだ業績低迷状態から抜け出せていない。

 経済のグローバル化が進み、新興国メーカーが台頭する環境では、いくら日本企業が特許で固めようが、安価な模倣製品がすぐに出てきてしまう。内需型のサービス業であっても、模倣化・同質化競争を招きやすいので、本質的には同じことだ。

 好調事業が一転不振に陥る理由は様々ではあるが、忘れてはならないのは、どんな業界・事業であれ未来永劫好調である保証など一切無いという至極当たり前のことだ。企業業績が上向いてきた今だからこそ、日本企業は、既存事業の体制強化だけに目を向けることなく、次なる事業の柱の創造を通じた事業ポートフォリオの見直し・再強化が強く求められている。

2.新規事業開発に苦戦する日本企業

 「新製品」開発を得意とする日本企業は数多いものの、「新規事業」になると苦手という声をよく聞く。何故か。新製品は、既存の開発体制・販売チャネル・プロモーション手法を転用できるため比較的難度が低いこともあるが、それ以上にその道のプロである経営トップが、しっかりと目利きできることが大きい。セブンイレブン、アイリスオーヤマなどがその代表例だろう。

 他方、新規事業になると、既存ビジネスの経営資源・常識・成功体験がそのままでは通用せず、事業開発の複雑性が増すため、難易度が急激に上がる。更に言えば、失敗を過度に恐れる社内抵抗勢力を押し退けなければ前に進まないことも大きい。

 この状況に対して、日本企業も手をこまねいてきた訳ではない。古くから、社内ベンチャー制度を創設したり、社長直轄の新規事業開発部門を新設したりする動きはあった。にも関らず、十分な成果が上がったとは言い難いのが実情であることを踏まえ、次項では日本企業にありがちな失敗パターンを整理していくこととしたい。

3.日本企業が陥りがちな失敗

3.1 単発的な取組みで終わってしまう

 一般的に社内ベンチャー制度は、次なる事業の柱を創りだすというよりも、社員の意識改革を通じて、新規事業開発を活性化させる土壌を整えることに主眼が置かれている。数こそ少ないものの社内ベンチャーの成功事例は存在しており、一定の評価ができる反面、それらの取り組みで、全社的に新規事業開発が活性化したかという点では疑問が残る。実際、様々な企業と議論していると、社内ベンチャー制度が自然消滅した事例を数多く耳にする。

 また、新規事業コンペのような取り組みも日本企業でよく行われているのだが、これも単発的なお祭りに終わり、次なる事業の柱の構築まで至った事例はごく僅かに過ぎない。

 これら意識改革を促す取組みを行った後で、本格的な新規事業開発体制・仕組みを整備し、継続的な活動に落とし込んでいかなければ何の意味もなさないのは自明だ。

3.2 新規事業開発の方向付けが曖昧

 多くの日本企業と対話していると、新規事業を「新奇」事業と誤解しているケースや、単に既存事業の「地域横展開」も新規事業に含めているケースがあまりにも多いことに気付く。勿論、奇抜な発想が求められることもあるし、地域が変われば実質新規に近い事業開発が求められることもあるので一概に否定はしないが、それらも含めて新規事業と定義づけするのかは、経営トップが明言すべきである。

 日本企業の新規事業開発成功事例を紐解くと、既存事業が培ってきた経営資源を最大限活かしながら、新たな事業領域を切り開いてきた事が分かる。(図1)

shiten911.jpg 図1:主な日本企業の新規事業成功事例

 ATM事業に参入したセブンイレブンは、全国1万5千店舗を背景とした「顧客基盤」と「流通網」を最大限に活用し、見事好収益事業に成長させた。参入前後には、金融業界から絶対に成功するわけが無いと冷ややかな評価をされていたにも関らず、それを撥ね退けた格好だ。

 化粧品事業に参入した富士フイルムは、写真フィルム事業で培ってきたコラーゲン関連・抗酸化に係わる「技術」を武器に、売上高100億円を超える規模まで化粧品事業を育成した。

 介護事業に参入したワタミは、飲食事業では当たり前のレベルの「運営ノウハウ」を注入し、今では本業の外食事業を上回る利益を稼ぎ出すほどまでになっている。

 このように、成功した新規事業の多くは、既存ビジネスで強みとしてきた経営資源を最大限に活用している点が共通している。要するに、単に「地域横展開」をしたり「飛び地」的な事業領域を開拓するだけではなく、既存ビジネスの強固な経営資源を有効活用しながら、新たな事業を創り出すことを検討してほしい、と最初に方向付けすることが極めて重要なのである。

 更に言えば、規模感の定義も必須である。手間のかかる新規事業であれば、かなり少なく見積もっても、将来的に全社もしくは部門売上・利益の10%以上が見込める事業でなければ取り組む意義が薄い。それだけの発展性が見込めない事業は、新規事業として認めない程度の強いメッセージを発信すべきだ。

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