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» 2013年10月28日 08時00分 UPDATE

イノベーションの努力は、なぜ報われないのか?:事業イノベーションの実践と具体的アプローチ方法について (1/2)

イノベーションの実現にはビジョンやリーダーシップ、実行力がカギとなるが、組織的に取り組むためには具体的な方法論も欠かせない。

[河野龍太(インサイトリンク),ITmedia]

 今回のテーマは、事業イノベーションの実践である。イノベーションの実現にはビジョンやリーダーシップ、実行力がカギとなるが、組織的に取り組むためには具体的な方法論も欠かせない。ここでは、事業イノベーションを構想するための実践的な手法として世界的に定評のあるビジネスモデル・キャンバスに焦点を当てて取り上げる。

ビジネスモデル・キャンバスによる事業イノベーションデザインの方法

 ビジネスモデル・キャンバスはアレックス・オスターワルダー氏が中心となって開発したツールで、ビジネスモデル開発や事業イノベーションのデザインのために世界中で使われている。筆者も企業とのワークショップなど戦略イノベーションを検討する現場で活用しており成果を得ている。ビジネスモデル・キャンバスには以下のような優れた特徴がある。

(その1)ビジネスモデルを共通言語で議論できる

 ビジネスモデルをイノベーションする上でカギになるのは、ビジネスモデルについての共通認識と共通言語である。ビジネスモデルは企業や事業全体にまたがる複雑な概念なので言葉だけでアイデアを共有し議論することは容易でない。ビジネスモデル・キャンバスを使って視覚化することで、ビジネスモデルを誰もが理解でき共通認識と共通言語のもとで議論しデザインできるようになる。

(その2)仮説思考を働かせ、検証、改善のサイクルを回しやすい

 不確定要素の多い将来を視野に入れ戦略構想を練る際には、仮説思考を働かせることが必要になる。キャンバスを使うとビジネスモデルについての仮説を素早く「見える化」できるので、仮説思考を働かせやすくなる。個人の着想やアイデアをキャンバスによって目に見える形で共有できるので、ビジネスモデルに対する初期段階の仮説をチームの議論によって鍛えて、より大きな構想へと発展させやすい。

 ビジネスモデルの確度を高めるためには、ビジネスモデルに対する仮説や構想をキャンバスによって「ビジネスモデルのプロトタイプ」として具体化し、ビジネスの現場で検証と修正を繰り返す必要がある。事実によって検証された仮説は、ビジネスモデルのプロトタイプを練り直すインプットとなり、チームで議論しキャンバス上でプロトタイプの更新を行う。ビジネスモデル・キャンバスは、こうしたビジネスモデルの仮説の創造と検証、改善のサイクルを回す上でプラットフォームの役割を果たしてくれるので、仮説モデルの検証と精度向上に要する時間を大幅に短縮することができる。

(その3)チームでのイノベーションに取り組みやすい

 現代のイノベーションは1人の天才によるものではなく、チームで生み出すものである。ビジネスモデル・キャンバスを使ってチームで議論することで、個人の頭の中に埋もれているさまざまな知識を引き出して、ユニークなアイデアを組織的に創造できる。またキャンバスをプラットフォームとして議論すると、アイデアが発散したままで終わらず、それらを戦略イノベーションの構想やビジネスモデルのプロトタイプとして集約できるので、イノベーションの取り組みを具体化させやすい。

 次に、ビジネスモデル・キャンバスを使った事業イノベーションの実践的なアプローチ方法について詳しく説明していく。

 ビジネスモデル・キャンバスには9つの要素がある。事業イノベーションの構想を立てる際に特に重要なのは、顧客セグメント、リソース、提供価値、パートナーである。これらに着眼し、顧客や社会において充足されていないニーズや未解決の課題に新たな答えを出すビジネスを構想してゆく。

 例えば、リソースをベースに事業イノベーションを構想するのも有効なアプローチである。事前調査やチームでのディスカッションによってビジネスモデルのキーリソース(重要な資産)を明確にし、キャンバスを使ってビジネスモデルの全体像を組み立てる。他のブロックとの関係性をチェックしながら、キーリソースを新たな顧客セグメントの開拓や新しい提供価値の開発に生かせないかを検討するのである。

 アマゾンはB to Cユーザーの快適な使用環境のために長年ITインフラに巨額の投資をしてきた。そのリソースの強みを生かして立ち上げたのが、これまで未開拓だったB to Bユーザーを対象としたクラウドサービス「アマゾンウェブサービス」である。アマゾンは持っているリソースをこれまで対象としてこなかったビジネス市場へ振り向けることで効率的に新規事業を立ち上げることに成功し、全世界において多くのビジネスユーザーを獲得し巨大な成長機会を得た。ビジネスユーザーはアマゾンのITインフラをクラウドで利用することで、ITへの投資コストを大幅に削減できる。限定的にしか使われていなかった自社のキーリソースに着目することで事業イノベーションを成功させた典型的なケースである。

ビジネスモデルの全体的なフィットをデザインする。

 大胆なビジネスアイデアは、既存の要素の意外な組み合わせから生まれることが多い。しかし着想が斬新なだけではビジネスモデルとしては片手落ちである。ユニークな着想を支えるビジネスの全体的な仕組みがデザインされる必要がある。この点でビジネスモデル・キャンバスは威力を発揮する。キャンバスを使うと、ビジネスモデルの重要な要素の整合性をチェックし異なるブロック間の関係性を適切にデザインできる。例えば、一流シェフによる高級フレンチを圧倒的な低価格で提供することで成功した「俺のフレンチ」を例えとして用い、ビジネスモデル・キャンバスによってビジネスモデルの各要素を検討し全体的なフィットをデザインする方法を説明しよう。

 「俺のフレンチ」は一流店の料理を圧倒的な低コストで提供するという業界の常識を覆す提供価値を実現するために、立ち飲み形式のフォーマットを使い顧客を高回転させることで通常より数倍の原価率でも利益が出る仕組みを作った。キャンバスで表現してみると、このビジネスモデルを拡大するためには、一流シェフというキーリソース(重要な資産)をいかに安定的に調達できるかがポイントになることが分かる。リソース獲得のためには、キーアクティビティ(重要な活動)であるPRやブランディングが重要なことも分かる。キャンバスを通してビジネスモデルを再構成してみると、斬新な提供価値を実現するために事業の仕組みに工夫をこらし、ビジネスモデルの各要素や活動がお互いにフィットし相乗効果を発揮できるように、統合的にデザインされていることが分かる。このようにキャンバスによって、起業家が頭の中で組み立てているビジネスモデルのカギを容易に理解でき、自らの構想にも生かすことができるようになる。

「片付けるべき用事」を検討し、斬新な提供価値をデザインする

 ユニークな提供価値をデザインするには、クリステンセン教授が提唱する「片付けるべき用事(Job to be done)」を検討するのも効果的だ。われわれはつい商品やサービスの機能や特徴といった表面的で分かりやすい点に目が行きがちだが、そもそもその商品やサービスが用いられている根本的なニーズを問い、新たな価値創造の可能性を見出すのである。

 例えば、リーボックはこの未解決の用事に着目して、履いて歩くだけで引き締まった脚になるスニーカー「イージートーン」を開発し大きな成功を収めた。「履くだけのジム」というコンセプトをかかげ、費用や時間をかけず効果的にダイエットしたい、おしりが引き締まった美脚をつくりたいといった未解決の用事に焦点を当てて既存の市場にとらわれることなく商品を開発した。その結果、従来のスニーカー市場を超えてフィットネス市場の顧客層まで開拓でき、大きな成功を納めたのである。

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