日系電機メーカーの中国との付き合い方視点(2/3 ページ)

» 2013年11月18日 08時00分 公開
[大橋 譲(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

4.事例から考える中国での戦い方

 日系企業が真っ向から中国市場で中国企業と勝負することはもちろん選択肢の一つとしてありえる。しかし、よほどの競争優位性と真似されない・真似できない製品でもない限り、中国政府の支援を得た中国企業を圧倒し、そのポジションを維持することは容易ではない。難しい中国市場をあきらめ、ネクスト・チャイナを狙うことも一つの選択肢ではある。しかし、いずれ中国企業が力をつけ、低価格と世界の工場としての低コスト生産力を武器にグローバル進出することは目に見えている。中国と向き合わずして日系電機メーカーが生き残れる道はない。

 中国と共存共栄する道を選び、成功している企業事例を2つ紹介する。

事例1:中国政府と中国企業を味方につけて成功し、グローバル市場を狙うダイキン

 ダイキンは、日本のエアコン市場でシェア1位(インバータ型)を誇る日系企業である。インバータ技術自体は30年以上も前に開発された成熟技術だが、グローバルでは価格が高いことがボトルネックとなり普及していない(特に家庭用)。したがって、海外ではハイエンド市場において一部出回っている程度であり、いわゆる日本のガラパゴス市場で育った技術・製品であった。

 ダイキンはインバータ型エアコンで中国の家庭用エアコン市場に参入したが、価格がボトルネックとなり成功しなかった。中国市場は低価格なノン・インバータ型エアコンが主流であり、世界シェア1位を誇る格力電器が市場を君臨していた。ガラパゴス製品で海外進出し、失敗する典型例である。しかし、ダイキンは単独で家庭用エアコンを攻略することをあきらめ、中国企業と中国政府と協力する道を選んだ。失敗を乗り越えたのだ。

図3:ダイキンと格力電器の協業スキーム

 ダイキンは、中国政府の思惑に応え、格力電器が抱える課題を共に解決する道を選択した。具体的には、ダイキンのインバーター技術を格力電器に提供し、格力電器からは低価格な生産技術・ノウハウを得ることで低価格なインバータ型エアコンを共に販売するという提携を組んだ(図3参照)。この提携により、高効率なインバーター型エアコンが普及し、中国政府が推進していた省エネ政策の実現をサポートした。ダイキンはWin-Win-Winの関係を構築したのである。

 ダイキンが市場に参入した当時、中国政府は省エネ推進策を打ち出し、高効率型エアコンの普及を推進していた。中国政府は、低効率機種(多くの非インバータ型エアコンが該当)の販売停止や高効率機種への販売補助金支給などの政策を打ち始めていた。しかし、中国政府は、実行面で大きな問題を抱えていた。格力電器を含む中国企業の省エネ技術力は低く、成果が期待できなかったのである。そこで同社は、中国政府に対して省エネにはインバータ技術が有用であることを積極的にロビーイング活動を行った。

 ダイキンは、ロビーイング活動によって自社のインバータ技術の優位性を政府に説いたあと、格力電器と協業する道を選んだ。格力電器が持つ部品調達力・生産力のスケールメリットを活かし、低価格なインバータ型エアコンの設計ノウハウを獲得し、金型を内製化することで大幅なコスト削減を実現した。省エネ型のエアコンを持たない格力電器にとってダイキンと提携することで中国政府の面子をつぶさずに済んだだけでなく、格力電器の事業危機を回避することができたのである。

 結果として、ダイキンは3つの成功を収めた。1つ目はシェアの大幅増。これまで1%未満のシェアだった家庭用(普及クラス)エアコン市場で10%以上のシェアを獲得した(2012年)。もちろん、営業利益も黒字化した。一部の消費者の間では、「格力製のエアコンだとしても『ダイキンが入っている』ことが重要」と言われるほどダイキンのインバータ技術は評価されている。2つ目の成功はインバータ型エアコンの市場形成。格力との提携以前はインバータ型は市場の1割にも満たなかったが、直近では市場の6割以上をインバータ型エアコンが占めるまでに普及した。3つ目は中国政府と中国企業を味方につけたことにより堂々と事業展開できるようになったことである。

 しかしながら、ダイキンが取った選択でいくつかの疑問が存在する。まず、なぜダイキンは単独で展開する道を選ばなかったのか。中国政府が省エネ化を推進したことでインバータ型エアコンが普及することは見えており、インバータ技術を持たない格力電器等の中国勢に変わってトップシェアをとるチャンスがあったはずである。だが、インバータ技術が30年以上も前の技術であり中国企業が開発して追いつくのは時間の問題であったことや中国政府と中国企業を敵に回すことで将来大きな問題に発展する可能性があることを踏まえ、単独での展開を選択しなかったと考えられる。

 2つ目の疑問は、なぜ格力電器との提携でコア技術であるインバータ技術を提供してしまったのか、である。成熟した技術とはいえ、インバータ技術はダイキンにとってコア技術である。そのコア技術を格力に提供してしまったことで技術を流出させてしまった、という懸念はある。もちろんダイキンもむやみに技術提供したわけではない。より高度な業務用インバータ技術は格力電器との提携内容には含めなかった。また、格力電器に提供したインバータ装置は日本のダイキン工場で生産し、ブラックボックス化したモジュールとして提供したため、もっとも重要な電流制御プログラムの読み取りを防止する、といった策は打っている。

 ダイキンは、2014年からブラジルで生産を開始することを発表している。南米もまた非インバーター型エアコンが主流の市場ではあるが、格力電器との協業で得た低価格インバータ型エアコンがブラジル市場に浸透するのは間違いない。

 最後に、格力電器が合弁で生産した部品を使用する限りは、格力電器の輸出分についてもダイキンに配当収入が入ることを述べておく。ダイキンのグローバル展開は始まったばかりである。

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