グローバル革命が製造業を革新――高度な経営のかじ取りが求められる今後の製造業ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(2/2 ページ)

» 2013年11月20日 13時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]
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 日本企業は、日本の消費者は世界一洗練されていることから、日本で売れるモノを作れば世界でも売れると考えていた。その結果、過剰品質に陥りコストと機能のバランスを欠き、ガラパゴス化しているのが日本市場の現状である。また戦略の誤りでは、ものづくりによる差別化に対する過大な期待などがあった、としている。

 これまでは、ひざを交え、額をつき合わして議論しながらものづくりを行うための「すりあわせ文化」が日本の強みだった。確かに、暗黙知になる「あうん」でコミュニケーションができることはメリットであったが、異質な文化を取り込んでスピード感ある経営を行っていくためには、「すりあわせ文化」は弱点にもなっている。

 日本企業は、新興国は低賃金の生産拠点と考えがちであったが、欧米の企業は早くから市場として開拓に取り組んでいたために、市場開拓で後塵を拝してしまった面もある。

 「かつて日本企業の強みといわれていた同質性や家族主義的経営などが、今日のグローバル競争では弱みに暗転してしまったとも言える」(平野氏)

製造業では高度な経営のかじ取りが必要

 現在の日本の製造業を取り巻く経営環境は、複雑化し、かつ変化している。そこで今後は、「需要」「供給」「イノベーション」「政治・規制」「リスク」という、5つのファクターを考慮した高度な経営のかじ取りが必要になる。平野氏は、「需要ファクターでは、新興国に世界市場の需要がシフトしてきているのに対して、どのような戦略で臨むべきか。ニーズの多様化やカスタマイズの必要性、あるいは高サービスの要請にいかに応えるかが重要だ」と話す。

製造業を取り巻く経営環境は複雑かつ変化しており、高度な経営のかじ取りが求められる。

 また供給ファクターでは、人件費の上昇、人材不足、原料価格の高騰、エネルギーや輸送コストの上昇などが課題。イノベーションファクターでは、新素材の開発、生産プロセスの革新、デジタル化やIT化、ビジネスモデルの革新などが大きな影響を与えることになる。さらに政治・規制ファクターでは、国内産業の保護、独自の安全・品質・環境基準、現地法人の水準、優遇課税制度などに対応しなければならない。

 「経済危機も含めた需要のボラティリティ、コモディティ・原料価格の変動、通貨・資本市場リスク、カントリーリスクなど、市場が大きくなればリスクも高くなる。こうしたリスクをいかに最小化していくかも重要になってきている」(平野氏)

 消費市場における先進国と新興国の割合は、2010年までは2対1であったが、2025年には消費市場の半分は新興国が占めることが調査により公表されている。そのため先進国で作ったものを新興国向けにローカライズしていく「グローカライゼーション」というアプローチだけでなく、新興国に適した製品を新興国で開発し、それをグローバルにも展開していく「リバースイノベーション」という発想も必要になる。

 「一方で、中国やインドの人件費は急上昇しており、生産拠点の立地の見直しも必要になる。また、世界的に低スキルの労働者は長期的に余剰感があるが、高スキル、中スキルの労働者は不足してくるだろう。人材の需要と供給はグローバルに不均衡を起こしてしており、戦略的な人材確保が必要になる」(平野氏)

 IT化の側面では、ビッグデータの活用が製造業の研究開発からサプライチェーン、生産、販売、サービスまでの各分野を多面的に革新するポテンシャルを秘めている。さらにエネルギー源の見直しからエネルギー生産性改革、プロセス革新、放出量管理まで、温暖化ガスを削減するグリーンマニュファクチャリングもイノベーションの期待が大きなテーマである。

 平野氏は、「今後の製造業では、先進国・新興国のバランスのとれた開拓、熟練労働者や高度人材の確保、恒常的なコスト削減や品質基準の厳格化、データやIT技術の活用などの多面的テーマを追求していくことが一段と重要になる」と話し、講演を締めくくった。

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