ITは壁を扉に変えるカギ――近未来のITを知り予見する力が必要NTT DATA Innovation Conference 2014リポート(1/2 ページ)

日本企業の強みと従来の常識にとらわれない先見性を生かし、グローバルに、そして未来に挑戦する日本流グローバル戦略の可能性とは。

» 2014年02月18日 10時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 NTTデータは1月24日、「NTT DATA Innovation Conference 2014」を開催。NTTデータの代表取締役社長である岩本敏男氏は、「New Growth, New Global――その先にある未来創造」をテーマに講演。日本企業の強みと従来の常識にとらわれない先見性を生かし、グローバルに、そして未来に挑戦する日本流グローバル戦略の可能性について、事例を交えて紹介した。

異なる次元にも視野を広げることが重要

 「縦に3列、横に3行、合計9つの正方形に並べた点を3回まで方向を変えて一筆書きするにはどうすればよいか。9つの点だけに注目していてはこのパズルは解けない。1行目、1列目に4つ目の仮想的な点を作ることで、3回の方向転換で一筆書きをすることができる。視野を広げることの重要性が今日のテーマの1つである」と岩本氏は講演をスタートした。

NTTデータの岩本敏男社長

 ブリュッセル自由大名誉教授のフランソワ・アングレール氏と英国エディンバラ大名誉教授のピーター・ヒッグス氏は、新しい粒子である「ヒッグス粒子」の発見で、2013年のノーベル物理学賞を受賞した。質量を与える粒子であるヒッグス粒子が見つかったものの、与えられる重力はきわめて弱く、「階層性問題」として未解決のままである。

 物理学における「力」には、重力、電磁気力、強い力、弱い力の4つがあるが、計算上ではより大きい力である重力のもとにおいて、なぜ小さい力の電磁気力で鉄を引きつけられるのかというのが階層性問題である。この問題に対する1つの仮説を提示しているのがハーバード大学教授のリサ・ランドール氏である。

 「私たちの世界は5次元である」というのが同氏の仮説だ。0次元は点の世界、1次元は線の世界、2次元は縦横の世界、3次元は縦横高さの世界、4次元は3次元+時間の世界、そして5次元はさらに別の世界である。われわれは3次元に存在しているが、5次元の世界に囲まれており、重力がほかの空間に拡散しているためというのが同氏の仮説である。

 「異なる次元で見ることで、目の前の事象を正しく認識できるのではないか。今日のテーマである、New Growth, New Globalは、われわれの直面しているグローバル化を、的確な次元、今日は歴史から振り返って見てみたい」(岩本氏)

もう1つの地球である「New Global」の誕生

 大航海時代、マゼランは世界一週により、地球が丸いということを証明した。丸い地球を物理的にネットワーク化し、自由かつグローバルに行き来できるようにしたのは、19世紀の大英帝国による蒸気機関の活用である。「それに匹敵するできごとといっても過言ではないのが1995年のIT革命である」と岩本氏は語る。

 「IT革命から20年弱で、われわれの住んでいる地球とネットワークでつながれたもう1つの地球が誕生した。ネットワーク上では、あたかももう1つの地球があるように、エネルギーや輸送・物流、金融、通信、商取引など、さまざまな営みが展開されている。われわれは、リアルの世界とバーチャルの世界を無意識に使い分けている」(岩本氏)。

 それでは、もう1つの地球であるNew Globalは、どのように誕生したのだろうか。岩本氏は、「CPU、ストレージ、ネットワークという、ITパワーを支える3大要素技術が重要。CPU、ストレージ、ネットワークの能力が、指数関数的に向上していることがNew Globalの進化を生み出す原理である」と話す。

 New Global時代には、IT技術の進化により、「地域を越えて展開(Borderless)」「業態を超えて統合(Integrate)」「新商品への代替(Replace)」という、垣根を越えた産業変化が起こる。航空機に取り付けられたセンサーから得られるリアルタイムな情報により、国境を越えた整備サービスを実現した事例や、デジカメの機能がスマートフォンに置き換わった事例を挙げ、岩本氏は、「これまで当然だと思われていた制約条件がなくなり、想像を越えたビジネスの可能性が広がっている」と話している。

NTTデータの取り組みの1つ「リマーケティング」

 NTTデータでは、中期経営計画における重要な取り組みの1つとして、「リマーケティング」に取り組んでいる。リマーケティングとは、「いままでできないと判断していたことは、いまもできない」という思い込み(制約)を捨て、「いまならできるのではないか」と考え直すことを意味する。

 「マーケティングとは、"市場をつくる"という意味で、そこに"リ"がつくことで、"再度、市場をつくる"という意味になる。当時はできなかったことも、規制緩和や景気回復、ライフスタイルの変化、ITの進化などの要因により、いまならできるかもしれない。制約を制約のままにしないためには、経営者の"強い意志"が必要である」(岩本氏)。

 それでは、「意志」とは何なのか。村上春樹の著書「羊をめぐる冒険」に「意志とは、空間を統御し、時間を統御し、可能性を統御する観念だ」というフレーズがある。私たちがおかれている経営の到達目的を設定し、時間軸の目標を設定そしてさらなる可能性を追求する。この3つのプロセスが意志である。

 岩本氏は、「経営環境が激しく変化するNew Globalの時代には、新たなチャンスを探る意志を強く持つことが経営者の責務である」と話す。それでは、New Growthのために何をすべきか。英国のアパレルブランドであるバーバリーは、ロンドンの旗艦店に500台のスピーカーと100枚のスクリーンを設置し、リアルとデジタルを融合した。

 老舗ブランドであるバーバリーは、最先端のITを活用することで、新しい世界観を創出し、これまでなじみのなかった若者を中心とした新たな消費者層を獲得することに成功している。特に2006年に、アンジェラ・アーレンツ氏がCEOに就任し、ITを活用したことで、急成長を遂げている。

 またデンマークの玩具メーカーであるレゴは、10年前に倒産寸前まで業績が悪化。そこで世界中のレゴファン100人をアンバサダーに任命しレゴの新製品情報をネットワークで配信したり、コミュニティの要望をレゴに伝えたりする仕組みを展開。またデンマーク人中心からグローバルな開発体制に変更することにより、コストを削減し各国のノウハウとニーズを吸収するなど、ITを活用しながら2005年以降、経営を立て直し、8年で売上を4倍に伸ばした。

 さらに米国の大手百貨店であるメイシーズは、従来のマルチチャネルではなく、オムニチャネルという発想でIT百貨店を実現。リアル店舗だけでなく、ネット通販にも注力することで、ネット販売比率が年々上昇し、2012年には全体の10%に達している。ちなみに日本の百貨店のネット販売比率は1%以下である。

 岩本氏は、「ITは壁を扉に変えるカギである。すべての分野でITを知らなければ、経営ができない時代に突入した。ITなしには考えられないNew Globalな世界で、New Growthをするためには、近未来のITを知り、予見する力が必要になる」と話す。ITを予見する力となるのが「NTT DATA Technology Foresight」である。

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