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» 2014年04月11日 08時00分 UPDATE

話題の著者に聞いた“ベストセラーの原点”:「穴」著者 小山田浩子さん (1/2)

作品を書きはじめた時期は夏だった。夏の暑くて嫌な感じ、べたべたする湿気だとか草の匂いなどを作品に表し、読者にそれぞれの夏を思い出してほしかった。

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今回は「穴」で第150回芥川賞を受賞した小山田浩子さんです。「穴」には、田舎に移り住んできた主婦「あさひ」の前に時折現れる、日常の中の「異界」が描かれています。善良な人々と、普通の風景、だけど何かがおかしい!? この違和感の虜になったら、もう引き返すことはできません。各方面から絶賛を集めるこの作品の原点はどんなところにあるのか。授賞式翌日の小山田さんにお話を伺いました。


いまだに毎日驚いている芥川賞受賞

――まずは、芥川賞受賞おめでとうございます。昨日は授賞式でしたが、受賞挨拶はいかがでしたか?

1404011book.jpg 「穴」

小山田: ありがとうございます。直木賞の受賞者の方もいるなかで、私がトップバッターだったので緊張しすぎて……。

――スピーチは新潮新人賞を受賞した時以来ですか?

小山田: 新人賞の時はパーティの類はなかったんです。大勢の前でカメラを構えられて、というのは初めてですね。

――芥川賞といえば、世間の注目度がとても高い賞です。作家をされていると、やはり多少なりとも意識してしまうものなのでしょうか。

小山田: 私はまだ全然実績がありませんから、意識したということはないです。5年後、10年後というお話でしたらいつかは取りたいなと思っていたはずなのですが、今だとは思っていませんでした。受賞の知らせをいただいてから一カ月以上経ちましたが、いまだに毎日驚いています。

 昨年、織田作之助賞をいただいた時も、「まさか自分が」という感じでしたし、「欲しいからください!」というのはなくて、私がいただいてしまって本当にいいんだろうかというのが正直な気持ちです。

――「穴」はコミカルさと不気味さが同居した不思議な作品です。この作品を構想した時に原点となったアイデアはありますか?

小山田: 特にこういう出来事があって、ということはないのですが、「嫁」をキーワードに書いてみよう、というのはありました。それと、この作品を書きはじめた時期は夏だったので、その夏の暑くて嫌な感じ、べたべたする湿気だとか、草の匂いなどが作品に表れて、読んでくださった方がそれぞれの体験した夏を思い出してくれればいいなと思いました。その2つですね。「嫁」と「夏」。

――「嫁」というのは確かに変な言葉ですよね。誰を指すものでもないですし。

小山田: そうなんですよね。役割を指すわけでもないですし、特定の一人を指す言葉でもない。世帯によっては「嫁」が二人いるところもありますからね。そういうところで不思議な言葉だな、と思っていました。

――この小説の舞台になっている「山間部の近く」ではないのですが、私も田舎育ちなので、作中で描かれているような、「平日の日中の田舎」の雰囲気にはとても共感しました。人が少なすぎて現実感がないといいますか……

小山田: 私は広島出身なのですが、特に夏などは、ニュースで高温注意情報が流れるともう道に誰もいなくなっちゃうんですよね(笑)。「歩いちゃいけない道なのかな?」と思ってしまうくらい。ちょっと薄気味が悪い感じはします。

“穴”と“獣”でバラバラの断片がまとまった

――執筆中に行き詰まるというか、困ってしまったところはありましたか?

小山田: それはいつも困っていて……自分の小説を書く方法というのが、断片的なシーンをたくさん書き溜めて、それを最後に順番を入れ替えたり、削ったりしてまとめるというものなんですけど、まずは物語の順番とは関係なく、思いつくままに色々なシーンを書いていくんです。

――それはかなり独特な書き方ですね。

oyamada1.jpg 小山田浩子氏

小山田: 私はずっとこのやり方でやっていて、今のところ他のやり方ではできないんです。これまでの作品はいずれも一人称小説だったので、とりあえず「私」だけがいて、その年齢と性別くらいしか決めません。登場人物も適宜出てきたりいなくなったりする。 そんな書き方ですから、まとめる作業がいつも辛いんです。

 「穴」もそうで、途中まではどうにもこうにも……全然一つの物語として繋がらなくて困り果てていました。でも、“穴”と“獣”が急に出てきて、それによってバラバラだったそれぞれの断片がまとまっていきました。それが出てくるまでが苦しかったです。

――小説を書き始めた時から自然にやっていた書き方なんですか?

小山田: 私は「工場」という作品でデビューしたのですが、書いていた時は一つの長い作品を作ろうということではなくて、いつか小説を書く練習になれば、という気持ちで、それぞれに独立した断片をたくさん作っていました。

それがある程度溜まった時に、なんとなく全体に通底するテーマがあったので一つの作品にしたのですが、それがデビュー作になったこともあって、この方法を自己反復しているところがあります。

――すごく即興性が高い方法ですよね。

小山田: プロットを立てて書いた方がいいと言われて、実際にやろうと思ったこともあるんですけど、できなかったんです。今「即興」とおっしゃっていただきましたが、すごくぴったりくる言葉だと思いました。自分が考えていることなんてたかが知れています。でも、書いた断片を繋ぎ合せる過程でそれこそ即興的にいろんな物事が出てきた方が、自分の能力以上のものが書けるのではないかと思っています。効率の悪いやり方なのですが(笑)。

――「穴」は、序盤からかすかな違和感を持ったり、気味の悪さを感じるところがあり、読み進めるうちにそれがどんどん大きくなって、目が離せなくなってしまいました。

小山田: ありがとうございます。ああいうことって意外とありそうなことだし、気持ち悪いですよね。登場人物を見てみても、みんな悪気のない普通の人なんですけど、それぞれどこか気持ちが悪かったりします。

――主人公のお義兄さんもそうですね。

小山田: こちらの話をまったく聞かずにしゃべりたいだけしゃべる人って意外といますからね。こちらが問いかけているのに答えずにまたしゃべりたいことをしゃべり続けるという(笑)。

――小山田さんの作品は、「日常のすぐ近くにある“異界”が描かれている」ということがよく言われます。しかし、物語の中の“異界”的な描写だけでなく、そうでない日常生活の描写もすばらしかったです。一人称の小説ということで、主人公の主婦「あさひ」の視点で物語が進みますが、この視点は小山田さんのものとも重なるのでしょうか。

小山田: そうですね。ただ、普段の生活の中で見ているものとか、やっていることでも、「書く」という行動を通すと、とても変なことに感じられることが多いんです。いつもやっていることを書いているだけなのに、それを後で読み返すと「こんな変なことをしているつもりはないんだけどな」と思うことがよくあります。日常的なシーンであっても、文字に起こすと密度が違ってくるということは、作品全体を通してあるのかなと思います。

――こういう不思議な短編を書かれる作家さんが、長編を書くとどんな作品になるのかというのは注目されるところです。今後どんな作品を書いていきたいとお考えですか?

小山田: いつかもう少し長い作品を書いてみたい気持ちはあるのですが、さっき申し上げたような断片を書きためる方法で長編を書くとなると、いくつ断片を書けばいいのだろうと(笑)。それを自分で御せるかという問題があります。だから、近いうちにというのは難しいと思いますが、この先力をつけていけたら挑戦したいですね。

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