「外食産業の社会的地位向上」という理念のもと、永遠に成長し続ける組織を作る気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2014年04月25日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]
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中土井:役員の方々は、創業初期の頃からのメンバーだそうですね。

大倉:役員の4人は、もともと大学生アルバイトで入った人たちです。専務、常務は1号店の時の大学生アルバイト、ほかの2人は、2号店と7号店の大学生アルバイトでした。中間管理職も、約半分は大学生アルバイトだった人たちです。現在、社員数は増えましたが、私の掲げる夢や志に付いて来てくれているという点では、昔と変わっていないと思います。外食産業の社会的地位向上を目標に掲げ、全国チェーン展開によって一人でも多くのお客さまを喜ばせたい。社会貢献をしたいとずっと言ってきました。

大倉氏(左)と聞き手の中土井氏(右)

 人事制度についても、特別なことは何もしていません。年功と実力の両方で評価します。先輩後輩の関係性や目上の人を敬う文化など、儒教精神染み付いている日本に完全実力制度は合わないと思っていますので、採用していません。いくら実力があったとしても、昨日まで部下だった人が今日からは急に上司になるという状況は、日本の会社にはマッチしません。私は、これまで私に付いて来てくれた年数を重要視したいと考えています。

十字架として理念を背負い、行動で示す

中土井:大倉さんは社会貢献を建前ではなく、本心として話しています。もともと社会貢献したいという思いが強かったのですか?

大倉:私は、人生を価値あるものにするために、自分はこの世の中にどんなものを残せるのかということに注力してきました。それは、お金よりもずっと重要なことです。起業したときからこの思いは変わっていません

 どの会社にも理念はあり、それぞれすばらしいものです。でも、社長の行動ひとつで、理念なんて絵に描いた餅になってしまう。私は理念を十字架として背負い、行動で示すということを徹底しています。理念から少しでもずれてしまう行動を自分がしたら、社員から信用はすぐに無くなります。理念を十字架として背負う覚悟が経営者には必要です。

中土井:世の中に生きた証を残すという思いを持ったきっかけなどはあるのですか?

大倉:母親の影響が大きいと思います。母からは、小学生の頃からよく「本当にいい人生を送ろうと思ったら、若いときは人よりも働きなさい」と言われてきました。

 レストランに勤めていた時は、忙しくて正月も休めませんでした。でも、私は他の人たちが休んでいるときに働くのがうれしかったんです。同い年くらいのカップルが初詣に行くとか、映画を見に行くとか聞いても、全然羨ましいとは思いませんでした。この人たちに勝てるという感覚でいました。

 そこから、人より大きなことをしたいという思いにつながり、チェーンストア理論に出会ったことで、社会貢献につながりました。お客さまに喜んでもらおう、びっくりしてもらおうといろいろ知恵を絞るのが快感なんです。

会社を引き継ぐのは、自分よりも大きな戦略を描ける人が出てきたとき

中土井:会社を次の人に譲ってもいいと思えるようになるタイミングはどのようなときだと思いますか?

大倉:自分よりも大きな戦略を描く人が現れたときだと思います。今はまだ、私のように夢や希望を与えられる戦略を描ける人はいません。

 鳥貴族のFCオーナーに「人が入ってこないし、入っても続かない」と相談されることがあります。そんなときは、「あなたの戦略で社内に夢や希望を与えられていないからですよ」という話をします。といっても、描けといって描けるものではありません。志はその人が本気で思い描いたものだからこそ意味があります。本気でなかったら、社員にはすぐに分かってしまうでしょう。

 創業するときも、やはり一番大切なのは志です。何を目指すかで、結果は変わるとよく言っています。私の場合、最初から全国チェーン展開を目指して、その実現のために今までやってきました。

中土井:大倉さんにとって、会社とは何ですか?

大倉:自分の夢を実現してくれるものであり、自分の人生の作品かもしれません。自分が死んでも、会社は継続できます。会社として目指すべきことは、永遠に続く会社にしていくことです。わが社の理念にもなっています。

 永続させるためには、経営者自らが襟を正すことが必要です。社長だからといって特別な権限はありません。例えば、店の予約が取れないからといって、社長権限で予約を取れるというようなことはありません。新幹線の移動も他のみんなと同じ条件です。グリーン車は利用しません。社内から新しい社長を輩出したとき、権力を持ったと勘違いしてしまうと恐いので、きちんと体制を整えておかなければならないと考えています。

中土井:会社は社会の公器だと言っていた意味が分かったような気がしました。自分が利益を得たいのではなく、会社を通して、より多くの人に貢献したいという感覚でいる。永遠に会社を残したいというのも、自分の欲ではなくて、社会の役に立つという視点から発想していると思いました。このような思いが純粋な意欲として、全国展開に組み込まれているのですね。

対談を終えて

 大倉社長の話は、純粋な夢が人を巻き込んでいく力を思わせるものでした。そして、「昔から目の前にあるもののいいところを見つけていける性格」という自分自身の置かれた状況を肯定的にとらえられる力が道を開き続けてきたのを感じます。自分が携わった仕事や目の前の人に対して、「いいところ」を見つけられること。理念と夢にその力が加わった時、しなやかさとともに、無限の可能性を開いていける力が生まれるのではないかと思いました。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うとともに、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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