「今まで世の中になかったものを」──社員全員が持つ開発魂はどのようにして生まれ、維持されているのか気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(1/2 ページ)

社員が協力し合い、ユニークな商品を生み出し続けるには環境作りが重要。斬新なアイデア商品は、部署の垣根を越えた知恵の出し合いから。

» 2014年07月09日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]

 「独創的な商品を開発し、新たな文化の創造をもって社会に貢献する」という経営理念を掲げるキングジム。電子文具という分野で、まだ世の中にない商品を開発し、新たな市場を作り出している。社長の役割は「環境作り」だという代表取締役社長の宮本彰氏。社員が協力し合い、ユニークな商品を生み出し続けるための環境作りについて聞いた。

ファイル専門メーカーからスタートし、電子文具の分野へ挑戦

中土井:ユニークな商品を生み出し続けているキングジムですが、どんな事業を展開している会社なのか聞かせてください。

宮本彰氏

宮本:現在の事業の柱は、事務用のファイルと小型電子機器です。もともとはファイル専門メーカーでしたが、「テプラ」のヒットをきっかけに、電子文具の事業を拡大させてきました。

 キングジムは昭和2年(1927年)創業の会社で、私は4代目です。創業者の祖父は、いわゆる発明家で、とにかくいいものを作りたいという思いの強い人でした。「世の中にないものを作る」「他人のものまねはしない」というキングジムのDNAは、その頃から受け継がれています。

 ファイルの事業に加え、1980年代半ばからは小型電子機器の開発にも取り組んできました。簡単に表示用のラベルシールを作ることができる「テプラ」に始まり、最近では、キーボードによるテキスト入力に特化したデジタルメモ「ポメラ」もヒットしています。独創的で、アイデアのある商品作りを行っており、誰にでもというより、特定のライフスタイルにフィットする商品を作っているのが特徴です。

中土井:ファイル専門メーカーから舵を切り、電子文具事業を始めたきっかけは何だったのですか?

宮本:1980年代に入り、徐々にパソコンが普及し始めました。われわれにとって、パソコンの普及は大きな脅威でした。その頃はファイル専門メーカーだったので、ペーパーレスの時代到来は、死活問題でした。

 そこで、1985年に電子機器の開発をしようとプロジェクトを立ち上げ、私が責任者となりました。電子機器は脅威ではありますが、まだ世の中にないものを作るには絶好の市場だと思いました。最初に取り組んだのが「テプラ」です。当時は文系の人間しかいない会社でしたから、開発にはとても苦労しました。

 協力してくれる電子機器メーカーとともに改良を重ね、完成までに3年もかかりました。普通は開発に3年もかかる商品は採算が取れません。われわれの会社はファイルという大きな事業の柱があり、業績が安定していたからこそ実現できたのです。しかし、成功するかどうか予想ができない新たな挑戦でしたので、社内からの反対の声が大きかったのは事実です。

商品が売れるには、社員の意識を変える環境作りが必要

中土井:社内の反対の声が大きかったにもかかわらず、結果的に「テプラ」は大ヒット商品となりました。その秘訣は何だったと思いますか?

宮本:新商品を発売するときは、どこに営業をかけるか、どのように売ってもらうかなど、さまざまな戦略が必要ですが、特に社内に向けて私がいつも意識しているのは、「環境作り」です。環境を変えることによって、社員の意識を変えるんです。

 「テプラ」を発売する時も、環境作りに力を入れました。記者会見なんてしたことがなかった小さな文具メーカーだったにもかかわらず、テプラの新商品発表を大々的に行いました。マスコミが取材してくれるので、一般紙に記事が掲載されたり、テレビに取材されたりします。そうすると、社員はびっくりして、必然的に意識も変わってきました。うまくいくかもしれない、キングジムは変われるかもしれないという雰囲気になりました。そうやって、反対していた人たちの意識を変え、社内の雰囲気を作っていきました。商品を売り出すときに、社内にその商品に反対する人たちがいるのはよい環境とはいえません。みんなが同じ方向を向くことで、ベクトルは強くなります。やはり、協力し合える組織が理想です。

事業部の垣根を越えた社内の活発なコミュニケーションこそ、キングジムの強み

中土井:キングジムの場合、「協力し合える組織」とは具体的にどのようなものですか?

宮本:キングジムでは、斬新なアイデアの商品を作ることが多いので、みんなで協力する体制がないと売れません。部署の垣根を越え、どうやったら売れるかをみんなで考えて知恵を出し合います。営業が得た現場の情報はすぐに開発に共有されます。それをもとに、商品の改良に役立てられたり、新しい商品開発のもとになったりもします。

 独創的な商品を作るには、みんなで意見を出し合うことが大切だと考えているので、われわれの会社では、事業部制にすることはまずありえません。事業部ごとに独立させて、競争を促すと、会社全体の一体感は弱まってしまいます。セクショナリズムのない社内の活発なコミュニケーションこそ、キングジムの強みなんです。

 キングジムの社員は全員、世の中にないものを作って売り出していくことが大好きで、アイデアのある新しい商品を作ることにやりがいを感じて取り組んでいます。そうやってできた商品をみんなで売って、実績を作ってきたからこそ、共通のDNAを持つことができています。会社の成長が社員個人の幸せに直結しているので、やりがいが生まれるのです。

 みんなで協力し合って新しいものを作ることは、人間が本来求めているものだと思います。コミュニケーションを取って仲良く協力し合い、物事がうまく進むことに人は幸せを感じる生き物ですよね。それが嫌だという人はいないと思います。「世の中にないものを作る」という理念を社内で共有し、共通の哲学にすることで、協力し合える雰囲気作りを実現しています。

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