「一期一会」の接客の美学をベースに、お客さまの琴線に触れる接客。 それを実現させている組織の在り方、岡本社長の想いとは?気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2014年08月20日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]
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お互いに高め合い、気づきを得ることで、接客サービスにさらに磨きをかける

岡本氏(左)と聞き手の中土井氏(右)

中土井:お客さま情報のデータベース化や、ちょっとした心遣いができるような人材づくりといったことは、口で言うのは簡単です。また、今でこそ「顧客満足」という言葉は常識になっていますが、バブル期にはそうしたことの大切さはあまり着目されていなかったようにも思いますし、地元の人たちを採用し、ゼロから教育しながら13年にも渡って接客部門で全国第1位を取り続けるレベルにまで高めるのは並大抵のことではないように思います。何が接客品質の絶え間ない向上を可能にしてきたと思いますか?

岡本:私自身がお客さまの心の琴線に触れるということを大切にしているのはもちろんなのですが、それ以上に社員自身がお客さまの心の琴線に触れることの大切さや喜びを知ってくれることに、私自身の幸福感があります。

 例えば、弊社では接客上目標としている言葉があります。「ふっと感じる後味の良さ」というものなのですが、ゴルフ場を後にしたお客さまがふっとわれわれのさりげない態度や雰囲気に対して「ああ、感じよかったなあ」、「あの笑顔よかったなあ」と感じていただけるような状態です。

 そうした感覚を社員と共有したいという思いが下支えになり、社員に気づきが生まれるように関わってきたからではないかと思います。

目先の業績を負うのではなく、美意識の共有を目指す

中土井:経営の上で、何を大切にするのかという比重は経営者によってさまざまであるように感じています。例えば、ビジョンに向かって高い目標を掲げて達成することに喜びを感じる人もいれば、経営を通じて社員を育てていくことに喜びを感じる人もいます。岡本社長の場合は、自分の美意識を共有したいという思いが強いようですが。

岡本:そういう風にみていただけると非常にありがたいですね。私の中では普段会う人に対しても「もう会えないかもしれない」という一期一会の気持ちは常にあります。「残心」という言葉がありますが、弓道では弓を弾いた後の動作の中にも心を残すことが大切にされています。

 そういう残心の美しさのようなものを一期一会の出会いの中に映し出していきたいという気持ちはあります。

中土井:そういう美学を自身で体現するだけならまだしも、社員にもそれを体現するように促すのは、大変な労力を伴うのではないかと思います。「こんなことを教えても伝わらない」と諦めそうになったことはありませんか?

岡本:ないですね。お金は後からついてくるという考え方もあり、すぐに結果を求めずにやってきたのですが、賞をもらった時に確信に変わったことが大きかったのではないかと思います。

 また、社員が自分の子供を働かせたいと言ってくれた時に、大きな喜びがありました。

中土井:結果は後からついてくると思える背景には、人間に対する絶対的な肯定感があるようですが。

岡本:そうですね。私はみんな能力もあるし、いいところがあるから伸ばしていこうと考えています。どちらかというと、人の欠点があまり見えず、いいところしか見えないことも影響しているのかもしれません。

民事再生という会社の危機にも、迷わずについて来てくれた社員たち

中土井:これまでで一番苦労したことは何ですか?

岡本:強いて言うなら、2004年に民事再生手続の申請をしたことです。親会社である日本交通が本業に専念するにあたり、売却されることになりました。民事再生というと、不安に思う社員もいたと思いますが、誰一人として辞めませんでした。社員全員がお客さまは誰なのかが分かっていて、同じ方向を見ていたからだと思います。民事再生手続後、売却後も通常通りの営業を続けていたので、接客についての評価も変わらず、2000年以来連続して受賞していたゴルフ専門誌「週刊パーゴルフ」の接客部門第1位の順位を落とすことはありませんでした。

 民事再生手続最中のクラブメンバーの集会でも、メンバーから私に経営を続けてほしいとの言葉があり、とてもありがたかったのを覚えています。

中土井:まわりからの信頼を得ている岡本さんの人柄が伝わってきます。日々社員と接する中で、「一期一会」という言葉で表現される岡本さんの心の在り方が皆さんに伝わっているのだと思います。そのような深いレベルで共有しているフィロソフィーがあるからこそ、岡本さんの理想とする接客の美学が本当に生きているのだなと感じました。

対談を終えて

 リーダーやリーダーシップという言葉を聞いた時、ビジョンを掲げて、力強く人を引っ張っていくようなステレオタイプのイメージが浮かびやすいのではないかと思います。

 岡本社長のたたずまいと話の中には、そうしたステレオタイプのイメージではとらえきれないリーダーシップの奥深さを感じずにはいられませんでした。

 地元に住む一般の人を一流の接客ができる人材にまで育てているという事実は、一期一会の精神に根差した美意識と、人のいいところしか見えないという人間に対する絶対的な肯定感に支えられていることを思うと、わが身を振り返りたくなるのとともに、そうした組織マネジメントが存在することに深い感動と喜びを感じました。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うとともに、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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