世界中どこででも同一の商品、同一の品質を提供──YKKの強さの秘訣は一貫生産と技術力(2/2 ページ)

» 2014年09月10日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]
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製造現場に適応する設備開発への転換

 これまで、技術開発の領域では、ファスニング事業、AP事業、それぞれの専用機械や製造ラインの開発以外にも、さまざまな研究開発に取り組んでおり、5年ごとに開発テーマを総括し、投資すべき分野、投資をやめる分野を検討してきたが、事業競争力強化に向けた開発に向け、そこに経営資源を集中させることが課題となった。

 そこでまず投資すべき技術開発領域を明確化するために、ファスナーと建材に限定した技術領域に注力するという方針を2010年に決定。技術開発には、実践と原理原則が重要であり、これまで別々だった設備開発機能と研究開発機能も統合した。物理的にも仙台(宮城県)の研究所を黒部(富山県)の生産拠点に統合している。

 「世界71カ国/地域、50以上の工場に展開しているファスナー専用機械は、どれだけ技術的にすばらしくてもそれを現地のオペレーターが使えなければ意味はない。そこで、高速・自動化を重視した「テクノロジープッシュ型」から、新興国でも使いやすい「製造現場に適応する設備開発」へと開発思考を転換した。製造も「生産性重視」から「リードタイム短縮」に変更している。顧客が求めるものを実現するために技術力を活用するのが製造業の技術のあり方。技術者が技術を高めることを目的にやりたいことをやるのは技術力強化ではない。YKKでは、ファスナーと建材の事業競争力強化へ向けた技術開発に投資を集中することで、差別化を推進してきた。今後もこのビジネスモデルをさらに強化していくことが進むべき道となる」(大谷氏)。

 今後、YKKでは、強い技術をより強くすることを念頭に、現状は弱くとも将来必要な技術を強くすることで差別化を推進していく。弱いところの強化ばかりに目を取られ、強い技術の強化を疎かにすると、強かったところまでもが弱くなるからである。また、技術力の強化のためには、積極的かつ継続した投資も必要になる。さらには、もの作りには地域に根ざした取り組みが不可欠であり、黒部に競争力を維持、強化するための新たな生産拠点を確立する。

 「つぎはぎの製造ラインによる合理化には限界がある。そこで黒部に新工場を建設し、これにより生産性を低下させることなく、作業面積を50%、物流距離を80%、主要設備台数を40%、製造人員を20%、それぞれ低減することを目指している。また社員に考えさせて中長期に渡り進化し続けることも必要である。その場のコストありきで、ロボット的に使い捨てるという考え方はない」(大谷氏)

継続的な技術改善によるイノベーションを推進

 イノベーションのあり方は、業態によって違う。自動車業界は、マイナーチェンジを繰り返しながらモデルチェンジを行う。YKKも同じで、まったく新しいものを生み出すイノベーションではなく、マイナーチェンジを繰り返しながら技術の継続的な改善、改良、進化を行うイノベーションを推進している。

 「現場力の強化という言葉をよく耳にする。経営企画では、顔の見えない4万人の社員を相手に仕事をしていた。カウンターパートである執行役員や部長は、正しいことを言えば話を聞いてもらえる。しかし現場は、正しいことを言っても必ず理解されるわけではない。大事なのは、いかに理解してもらうか」(大谷氏)

 経営層が示すのは会社の方向性であるが、どんなに立派な経営戦略でも、現場が実践できなければ強い会社は実現できない。本質を捉えたシンプルな目標設定でなければ現場の担当者は理解できない。また経営方針はすぐに変更できるが、技術者はすぐに変わることができない。大谷氏は、「理屈だけでは人は動かない」と話す。

 大谷氏は、「一足飛びで、または目先の課題から逃げての進化はあり得ない。技術は導入された効果で評価し、また技術者を目先の課題から逃がさないことが重要。YKKがすべてうまくいっているわけではなく、まだ途上である。繰り返し、粘り強く伝え続け、身近なところからの意識改革が重要になる」と締めくくった。

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