非営利団体の対ドナー戦略――ブランディング・マーケティングの活用視点(1/4 ページ)

数多くの通常コンサルティングプロジェクトを通じて蓄積してきたナレッジやノウハウを活かし、非営利団体の活動の強化、発展に貢献している。

» 2014年10月27日 08時00分 公開
[鬼頭孝幸、中里航平(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

 昨年、ローランド・ベルガーでは、コンサルティングの手法を活かしたプロボノ活動の一環として、特定非営利活動法人Malaria No More Japan (マラリア・ノーモア・ジャパン) に対し中期活動計画策定の支援を実施した。(Malaria No More Japanやプロボノプロジェクトの詳細については下記をご参照いただきたい。)

Malaria No More Japan

 Malaria No More Japanは、発展途上国におけるマラリアの根本的解決を目的に国際的な取組みを行う非営利活動法人です。アメリカ、英国を中心に啓蒙活動、募金活動を実施し、これまでにアフリカの560万人に対してマラリアを予防するための蚊帳の配布、また2,000万人に対してマラリア予防に関する基礎教育を提供しています。日本・アジア支部であるMalaria No More Japanは、アジアを中心とした啓発・政策提言活動を実施する拠点として

2012 年に発足し、啓発イベントの企画等の取り組みをしています。

 日本では無くなったマラリアですが、今も、アフリカやアジアでは猛威を振るっており、悲惨で残酷な事態が起きています。つまり、未だ、地球上では、一分に一人の子どもがマラリアで亡くなっているのです。

 一方、予防は蚊帳、治療は抗マラリア薬の配布で対応は可能であり、国際機関の対応が成果を上げ、ここ12 年で患者も死亡者もほぼ半減しています。Malaria No More Japan でも、設立以来、アフリカに対し、この2 つの項目に具体的に取り組んでいます。今後は、アジアでのマラリア撲滅の拠点となるべく、アジア地域での活動を今年から具体的な現地ニーズ調査を実施する予定です。

 ローランド・ベルガーは、発展途上国支援の非営利団体のKSF (成功のカギ) の特定、それに基づいた活動計画骨子案の作成、複数回の議論等を通じて、Malaria No More Japanの日本国内、そして、アジアへの拡大のための中期活動計画策定を支援致しました。


また、これ以外にも、日本のみならずグローバルで長年に渡り数々の非営利団体に対し支援を行ってきている。数多くの通常コンサルティングプロジェクトを通じて蓄積してきたナレッジやノウハウを活かし、非営利団体の活動の強化、発展に貢献していきたいと考えている。

 本稿では、こうした経験から学んできたことの1 つとして、非営利活動団体におけるドナー(資金提供者) に対するブランディング・マーケティングの重要性とその方法論についてご紹介したい。

はじめに――ドナーに対するブランディング・マーケティングの重要性

 一般に、非営利団体は、ドナーから提供された資金を活用し、受益者(レシピアント)に対し何らかの支援活動を行っている。(図A参照)(注1)。本稿で扱うテーマは、このうち、ドナーに対するブランディングやマーケティングである。

図A:非営利団体の支援活動

注1:

なお、近年では、受益者から提供物やサービスに見合った対価を頂き、より持続可能な活動を目指す団体も存在し、注目をあびているケースも多い。しかしながら、ドナーからの資金獲得の重要性が低くなっているわけではなく、資金を全額ドナーから獲得している団体も依然として数多く存在することも事実である。これは、支払い能力が極めて低い層を事業のターゲットにしている場合や、本来的には公共財として政府が提供すべき財やサービスを非営利団体が提供している場合において、十分に正当化される資金調達のかたちだと考えられる。


 非営利団体の活動やその計画を考える際、まず議論の対象となるのは受益者に対する活動だろう。もちろん、受益者のニーズを正確に把握したうえで、得意領域に特化し、他団体にはできない独自の支援活動を行うことの重要性は言うまでもない。受益者のニーズを正確に把握できていなければ、「独りよがり」、「自己満足」な支援活動に終始してしまうし、得意領域に特化して他団体にはできない独自の活動が出来なければ、その団体が社会に存在する価値は薄れてしまうだろう。より効率的・効果的に同様のミッションを達成できる団体が他に存在するはずだからである。こうした得意領域の存在を担保するケイパビリティをどのように構築していくかは、極めて重要なイシュー(論点)である。

 一方で、上記のような非営利団体の活動を力強く持続的に行うためには、ドナーに対して効果的に働きかけ、定期的に資金を頂くこともまた重要なことに疑いはない。しかしながら、この領域について、十分な検討・計画立案を行っている団体は限られているというのが、私たちの印象である。特に、「ドナーに対しては、受益者に対する活動内容やその成果を正確にお伝えしていればいい」という認識で検討・計画立案が止まってしまい、一貫性のない散発的な情報発信やイベント実施等に留まってしまうことが多い。それでも一部の協力的な理解者からある程度の資金調達は出来るが、一定の規模を超えることはなかなか難しい。

 こうした状況を打破するためには、どのような考え方・施策立案が必要なのだろうか。

 私たちは、ドナーを消費者と捉えなおすことが最も重要なのではないだろうかと考えている。つまり、何らかの価値を受け取るかわりに「対価」として資金提供を行う「お客様」としてドナーを捉え、アプローチするということである。「お客様」であるドナーに対し、団体の「ブランド」を明確にし、ブランドを正確に伝えるための「マーケティング」施策を持ち、そして施策を実行するための「仕組みや組織」を整えることが必要である。(図B参照)

図B:ドナーに対して必要な取組み(全体像)
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