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» 2014年10月30日 08時00分 UPDATE

ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術:説得せずに説得する (1/2)

相手が饒舌であればあるほど不信感を抱いたことはないだろうか。話し方や伝え方が上達すれば説得できるのだろうか。弁護士として多くの人を説得してきたその秘訣とは?

[荘司雅彦,ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」のバックナンバーへ。


141030book.jpg 話し上手はいらない〜説得しない説得術

 最近の調査で、ビジネスパーソンの約7割が「コミュニケーション能力が不足している」と悩んでいるそうです。

 そのような事情を受け、近年、話し方、雑談んの仕方、伝え方などなど……のノウハウ本が出版され、社会人向けのコミュニケーション能力開発の講座も多く解説されるようになりました。

 しかし、話し方や伝え方が上達したからといって果たしてコミュニケーション能力が上達するのでしょうか? 弁護士として数多くの人々を説得し、行政委員会などの仲裁・斡旋機関で対立当事者を多数説得してきた経験から、私は大いに疑問を感じました。

 そもそも、人間は自分のことを話したい動物なのです。多くの人達は、自分の話しを聴いてもらいたいのです。これは私自身が説得で大きな成果を上げることができた大前提となる考え方です。相手の話にじっくり耳を傾け、理解を示し、それを租借した上で説得に当たるという方法は、絶大な威力を発揮しました。

 具体的な数値を上げておきますと、当時の地方労働委員会の公益委員(裁判長のような役割です)として、他の公益委員の10倍以上の事案を年間で解決し、最短43分で解決に導いたという記録を樹立しました。県職員の担当者のみなさんから驚きの目で見られましたが、私としては特段たいした工夫をしたわけではありません。

 まず、説得相手が話しやすい雰囲気をつくることを心がけました。安心できる雰囲気をできるだけつくって、心を開きやすい状況を作り出したのです。もちろん、仲裁・斡旋が行われるのは庁舎の一室ですから場所で工夫をすることはできませんし、天候を選ぶこともできません。

 笑顔を浮かべて「事前に詳細かつ分かりやすい書面をご提出いただき本当にありがとうございました」と丁寧に労をねぎらいます。そして、主張部分を私なりに要約したものを示し「こういうご主張でよろしいでしょうか? もし、間違っている部分や細くしたい部分があればご遠慮なくご指摘下さい」と相手の発言を促します。するとたいていの当事者たちは自らの言い分をひととおり話し出しますので、それに丁寧に耳を傾けるのです。決して途中で遮ることなく。その上で、対立当事者が納得できる「落としどころ」を示して和解を促しました。

 これは、私が本書の「人間の一般的な心理」として書いた方法を応用して、相手の共感を得、感情を動かし、説得のためのお膳立てをした上で、相手が自分で選んだがごとく思わせて説得を試みた結果です。

 私自身は、どちらかというと話し上手の部類に入ると自負していますが、説得に際しては決してその「得意技」は使わないようにしました。なぜかといいますと、話し上手だとかえって説得に失敗するという研究結果で出ているのです。

 これは、医師の吉田たかよし先生が雑誌で紹介していたもので、言葉や伝え方が巧みであればあるほど、相手は説得されなくなってしまうという皮肉な実験結果を引用した論文でした。話し上手、伝え上手だと、相手は自分自身で考える余裕がありませんし、なによりも自分自身で判断して選んだという実感が持てないそうです。きっと、あなたにも経験があるでしょう。相手が饒舌であるとかえって不信感を抱いてしまうようなことが。

 それにもかかわらず、巷では積極的なコミュニケーション術(つまり、話し上手や伝え上手になる手法)のノウハウが派手に宣伝されています。このような現状に危機感を持った私が書いたのが本書です。コミュニケーションは決して難しいものではありません。

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