本田氏は、「人を動かすには、“心・技・体”のテクニックが必要である」と話す。「心」は人の気持ちや感情、本音(インサイト)であり、「技」はメディアやコンテンツの戦略と戦術であり、「体」は体験や体感である。
「心」は広告業界の言葉である「インサイト」を意味する。インサイトは、氷山にたとえられるが、海面上の見える部分だけではなく、海面下の見えない部分が重要になるということである。つまり人の本質、本音が重要なポイントになるということだ。
例えば、ある日用品メーカーの紙おむつは、日本ではカテゴリーリーダーではなかった。そこでおむつの売りを「10時間吸水」とし、質の高い眠りを10時間提供できる「ゴールデンスリープ」というメッセージを展開した。しかし母親の声は「10時間おむつを替えないことはない」「安いおむつでも寝てくれる」だった。
そこで新たに「脳育眠」というメッセージを展開する。赤ちゃんの睡眠は言葉を覚える大切な時間であり、大切な睡眠時間を10時間吸水でサポートすることをコンセプトにした。これにより9割以上の母親に「脳育眠をサポートするおむつがほしい」と思わせることに成功している。
次に「技」は、「誰が買うか」「何を買うか」「何で買うか」という縦軸に対し、「コントロール」と「アンコントロール」の横軸で構成される「コミュニケーションマトリックス」が重要になる。コミュニケーションマトリックスで、コントロールできる部分は広告で対応し、アンコントロールの部分はPRで対応する。
本田氏は、「広告とPRは、似て非なるもの。広告は企業が直接消費者に情報提供するものであり、PRは企業がマスコミや生活者を通じて情報提供するものである」と話す。
例えば、日用品メーカーでは、新発売のおむつの良さを消費者に理解してもらうために「赤ちゃんの睡眠が問題になっている」という空気を作り、新聞報道36紙、テレビ報道13番組などで短期集中的にPRした。その結果、3カ月間で認知度を27.6%から51.0%に向上させ、おむつの売上増につなげている。
最後に「体」は、「ココロの沸点」が重要で、単に商品そのものを配ってサンプリングを行うのではなく、商品と人のインサイトを組み合わせ、ココロの沸点を刺激することで、より人を動かすことが可能にする。
本田氏は、「ニベアは、ビーチで子どもがいなくなることを防ぐために、子どもの手に巻くバンドを提供。子どもがある範囲を超えるとスマートフォンにメッセージが送信されるサービスを展開した。これにより、ニベアの認知度向上に成功した」と話している。
人を動かすには、ステップ0で目的を明確にし、ステップ1でターゲットインサイトを洗い出し、ステップ2で目的とインサイトを組み合わせ、ステップ3でココロの沸点を起こすために何を伝えるかを決め、ステップ4でココロの沸点となるコンテンツを用意し、ステップ5でお金のかからない順に伝える方策を決める。
「もっとも重要なのは、何をあきらめ、何をあきらめないかを見きわめること」と本田氏は言う。あきらめた方がいいのは、広告やメディアでたくさんの人にリーチすれば人は動くと思うこと、何もかもコントロールしようとすること、お金をかければ人は動くと信じること、商品の良さを伝えれば興味を持たれると思うことである。
一方、あきらめない方がいいのは、人の本質(生活者のインサイト)を探求すること、ありのままを見せたり、ある程度の判断を世の中に託したりすること、広告やメディアが本当の力を発揮する最適な組み合わせを見つけること、世の中にあふれる情報の中に商品の良さにつながるものがあると信じることである。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授