父の想いを引き継ぎ、2代目女社長は産業廃棄物処理業界の変革に挑戦気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2014年11月19日 08時00分 公開
[聞き手:中土井僚(オーセンティックワークス)、文:牧田真富果,ITmedia]
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重要なのは、徹底した情報共有と相手の目線に立って伝えること

中土井:会社の雰囲気、社員の変化を促すために、特に意識して取り組んできたことは何ですか。

石坂:現場を巡回して、現場の社員に直接声をかけるとともに、どんな小さなことでも報告をさせて、情報共有を徹底してきました。父は頻繁に現場へ行き、自分の目で見て判断し、指示をするという経営スタイルをとっていました。私もそれを受け継ぎ、現場巡回を重要視しています。

石坂氏(左)と聞き手の中土井氏(右)

 社員には日報をメールで送ってもらっていたり、機械に傷がついているなど、どんなに小さな事故でもすぐにメールで報告させています。携帯電話やトランシーバーなども持たせているので、瞬時に報告ができる体制を実現しています。他にも、課ごとにPDCAサイクルの報告書を毎月提出させる取組みもしています。私が直接フィードバックをして、社員たちの進むべき方向性を会社全体で合わせていくことを意識しています。

 年間目標を設定し、その数字を達成するためには何をしたらいいのかを現場の人間に考えさせることも始めました。以前は、数字で物事をとらえられる社員はほとんどいませんでした。数字目標達成のために、具体的に何をしたらいいのかを書き出し、提出させることができるまでに社員の能力は向上しました。

中土井:情報の共有化のための仕組みを構築できても、難しいのは実際に運用していくことだと思います。仕組みが根付いている環境作りに、石坂さんの組織マネジメントの妙がある気がします。

石坂:私がすべきことは、父が今まで築き上げてきたものを最大限に生かすことです。徹底した情報共有をもとに、社員一人ひとりの目線に立ち、相手にとっての具体的メリットを踏まえて説明することをいつも心がけてきました。相手にとってのメリットがきちんと伝わったならば、私の考えに賛同してくれるようになります。仕組みや制度には、社員の心が伴わないと意味がありません。

 よく社員のみんなに言っているのは、事故を繰り返さないようにすることが目的なのだから、隠す必要などないということです。情報を共有して、再発防止のためにどうしたらいいかを話し合うことが重要です。事故を全く起こさない人はいません。事故を起こしたとしても、社長である私に報告し、指示を受けた時点で、あなたの責任はなくなるとはっきり伝えています。責任がなくなるのであれば、どんなことでも報告するようになります。

社員の成長のプラスになる会社でありたい

中土井:会社の方針を押し付けるのではなく、社員の目線に立って、ものごとを説明しているからこそ、社員のみなさんを納得させることができているのだと思います。

石坂さんによって、組織とはどのようなものに見えているのですか。

石坂:運命共同体だと思っています。組織は個を成長させるための手段です。個々の成長が、会社の成長につながるよう、みんなの進む方向性を合わせてあげることが必要だと思っています。社員一人ひとりにとって、成長のプラスになる会社であるべきです。怒られることがあったとしても、そのことが自分を向上させてくれる。そういうスタンスでいられるといいよねという話はいつもみんなにしています。

 さまざまな改革を社員たちが受け入れ、乗り越えてくれたおかげで、意識も大きく変わってきています。しかし、まだまだ道半ばです。「業界のスタンダードを変え、3代、4代続く会社にしたい」という思いの実現には至っていません。「この業界には夢があるから、若い人たちに継いでもらいたい」という同業の人たちが増え、社会から必要とされる会社、業界となるべく、これからも私たちの取組みは続きます。

中土井:石坂さんの組織や経営にかける想いには、私利がないという印象を受けました。お父様の想いを引き継いで、行動が一貫しているからこそ、社員のみなさんにまっすぐに響くのでしょう。

対談を終えて

会社を危機から救った石坂さんがマネジメントとして目に見える形で行ったことはISO取得、情報共有、現場巡回、日報チェックなど、経営の教科書に載っているようなことと言っても過言ではないくらいシンプルなものでした。しかし、社員の心が動かなければ、そうした施策は一つとして成しえなかったことも簡単に想像がつきます。業界の特性や会社が置かれたていた危機的状況、そして社長の娘というだけで役員でも現場を仕切っていたわけでもなかった石坂さんが女性社長としてそうした社員の心を動かすのは並大抵のことではないと思います。その行動の源泉は父の意志を引き継ぎたい、業界の地位向上を図りたいという純粋な想いであると伺い、組織マネジメントの本質は一体なんであるのかを考えざるを得ない機会となりました。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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