カカクコムの徹底した「ユーザー本位」、その鍵は情熱ある“オタク社員”にあったポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(1/4 ページ)

価格比較サイトの先駆けとして90年代末に登場した「価格.com」は、いまや月間8億7000万ページビューという巨大サービスに成長した。その成長の裏側には一体何があったのだろうか。カカクコム・田中社長が語った。

» 2014年11月20日 08時00分 公開
[文:岡崎勝己, 構成:伏見学Business Media 誠]

 4672万人、8億7016万PV――。これは価格比較サービスの先駆けである「価格.com(カカクドットコム)」のサイト力を示す数字だ。前者は月間の利用者数、後者は総ページビュー数である(2014年9月時点)。

 これほどの利用者を集める原動力は、ユーザー本位の情報提供に対する同社の徹底したこだわりだ。そして、こだわりが新たな利用者を呼び込むという好循環を生むことで、運営会社であるカカクコムの業績も右肩上がりを続けている。同社の2015年3月期における連結売上高は、初の300億円超えとなる365億円を予想する。

 そうした中、価格.com事業は、独自の優れた戦略によって、高い収益性を達成・維持している企業・事業を表彰する「ポーター賞」(一橋大学院 国際企業戦略研究科:一橋ICS主催)を2013年度に受賞した。

 快走を続ける価格.com事業ならではの戦略について、ポーター賞の運営委員会メンバーである一橋ICSの菅野寛教授が、カカクコムの田中実代表取締役社長に聞いた。

社員のパッションが競争力の源泉

菅野 価格比較サイトが既にいくつもある中で、これほど利用者を集める秘密はどこにあるのでしょう。

カカクコムの田中実社長 カカクコムの田中実社長

田中 限られた予算の中でのビジネス創出が、偶然にも利用者の利便性向上、ひいては成功につながったというのが正直なところです。価格比較を行うのなら、検索エンジンで情報を自動収集し、安い順に表示する仕組みを開発するという手法が一般的でしょう。しかし、そのための資金的な余裕が創業時の当社にはありませんでした。そこで何をしたかといえば、東京・秋葉原の問屋などを訪ねて回り、管理者IDとパスワードを渡して、「ぜひうちのシステムに価格を入力してくれませんか」とお願いしたわけです。

 ただ、これが思わぬ効果を生みました。検索エンジンを使った他サイトでは1日に数回しか情報が更新されません。しかし、当社のサイトでは、ある店が値下げをすると、それに対抗した値下げ合戦が起こるようになったのです。当然、価格は頻繁に更新されるので、利用者は常に最新の情報を閲覧できるのです。

 また、当社にはPCやデジタルカメラなどに並々ならぬ情熱を持つ、いわゆる“オタク”の社員が何人もいたことも幸いしました。社員のオタク度が高いほど、それだけ自身が消費者の立場に立ち、よりきめ細かな情報提供に取り組もうとします。学術的な検証は難しいでしょうが、ユーザーにどれだけ書き込んでもらえるかは、社員のパッションに関連しているはずです。その結果、商品に紐づくレビューや口コミの数、質は高くなります。これらの要因が相まって、価格.com事業は大きな成長を遂げられたわけです。

社風と社員がサービスの仕組み作りに合致

菅野 資金が乏しい故に生まれたアイデアが思わぬ価値を生み、そこで生まれた口コミが、大多数の利用者を引き付けることに気付いたわけですね。それを意識的に戦略化してきたと。

田中 株式公開により数百億円もの資金が調達できていれば状況は変わっていたかもしれません。コストをかけて多くの専門家に記事執筆を依頼し、それらを掲載することで利用者を集めるという選択肢もあり得たのですから。

 ただし、現実は違いました。その上で、利用者を増やす策を考えたときに、セミプロの方に無料で口コミを書いてもらうことが最も現実的だと思いました。その仕組みづくりに当社の社風と人材が偶然にもうまくハマったのです。我々のサービスを支えているのは、情熱のある社員にほかなりません。

 実際に、当社では総勢50人超のデータ入力部隊が新製品の発表のつど、手作業で製品スペックなどをシステムに入力しています。デジカメであれば、有効画素数や重量、バッテリーといった情報ですが、すると「何グラムほどのデジカメが欲しい」とか、「何時間使いたい」といった、具体的なニーズを基にした横断検索が可能になります。この結果、ここまで情報を提供してくれるなら、コメントを書いてもいいとの気持ちが利用者に生まれているはずなのです。

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