葛藤を引き受ける覚悟がリーダーを成長させるビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2014年11月20日 08時00分 公開
[水谷 健彦,ITmedia]
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意見を言わない勇気

 次世代リーダーを育てよう、そしてある程度の権限委譲をする。ここまではそれほど難しいことではないかもしれません。ただ、その権限委譲により次世代リーダー達に葛藤経験を乗り越えてもらうためには上司の立場である皆さんの「意見を言わない勇気」がとても大切です。

 実はここがとても大切なポイントなのですが、葛藤し決断する経験を重ねていないとこれまでいくら優秀であった人材でも自ら決断することを躊躇し、権限委譲されている範囲にも関わらず上長に相談をしてしまいます。

 その時に上司が「俺はこう思うよ」「もっとこうしたほうがいいんじゃない?」と意見を言った瞬間に、決断の責任は再び上司の手元に戻ってしまい本当の意味での葛藤経験にならないのです。

葛藤を引き受ける覚悟を持たせる

 次世代リーダー達に経験させたいのは「本当にこの案でいいのか?」「果たして上手くいくのだろうか」という不安を自分が引き受けるということであり、これが「葛藤を引き受ける覚悟」というものです。

 この状態を創り出すことで判断に向けた情報収集や現状分析の細かさ、そして判断した後の状況推移への目配りの精緻さ、修正行動の力強さを引き出すことができるのです。

 そして、このレベルでの仕事経験を積み重ねることで、ようやく次世代リーダーたちの育成がスタートすると言えるのです。

100万円の予算を預ける

 決断させないことの解消策として予算を預けて好きなようにやらせることは大変有効です。私自身の経験でも新規事業立ち上げの際に販売促進費を100万円の予算で任されたことが大きな経験となりました。

 当時、研修事業の立ち上げに従事していた私に上司は100万円の販売促進費を予算として預けてくれました。見込み顧客の獲得という目的は握ってありましたが、その手段については一任されたのです(もしかしたら上司は預けたつもりはなかったかもしれませんが、笑)。当時検討した案としては「業界紙である『人材教育』への広告出稿」「ターゲティングした顧客リスト購入」「ターゲティングした顧客リスト購入+ダイレクトメール発送」「ターゲティングした顧客リスト購入+テレアポ代行会社への依頼」あたりだったと記憶しています。

 当然それぞれの案は優劣があり、業界紙への広告出稿は予算で3ヶ月ほど出稿可能でしたが出稿後は待ちの姿勢になってしまう。ターゲティングした顧客リスト購入は社数を大量にリストとして手に入れられますが、その後のアプローチに十分な人員がいるわけではない。一方テレアポ代行会社への依頼を加えると予算内に収めようとするとリスト数自体が少なくなってしまう、といった状態でした。

 そこで私が選択したのは「リスト購入+ダイレクトメール発送」でした。これであれば数千社への送付が可能であり、且つダイレクトメールの内容を無料体験セミナーのお知らせとすることで一定率の反応が見込めると考えたのです。結果的には約5%=100社強の会社からの申込があり、体験セミナー自体を追加開催。その参加企業から13社受注という結果に至りました。

 こうやってあとから振り返れば大した決断には思えないかもしれません。ただ、当時の私としてはDM発送分の予算もリスト購入費に当てれば5倍の数のリストが手に入ることや、DM発送しても反響ゼロだったらどうしよう…、せめてテレアポ代行で追ったほうが効率は良いのではないか?と長い時間を掛けて悩んだことを覚えています。

 ですから「リスト+DM」案に決めた後も数が限定された分より質の高いリストになるよう条件は精査に精査を重ねましたし、DMも開封率、反応率を高めるために内容にとても工夫をこらしました。100万円の予算をどう使うかを任されたことによって、葛藤に向き合いこれだけの思考と検討を重ねその上で決断するという経験を得たのです。

リーダー育成に向けて

 こうやって私の決断力は向上していきました。葛藤経験の少ないマネジャーを生み出さないためにも、このような計画的な育成(決断機会の提供)は急成長企業の組織戦略として大変重要です。是非リーダーの立場である皆さんが「意見を言わない勇気」を持ちながら次世代リーダーの育成に向き合っていただければと思います。

著者プロフィール:水谷 健彦

株式会社JAM代表取締役社長。1973年生まれ。早稲田大学卒業後、(株)リクルートエイブリック(現リクルートキャリア)などを経て、2001年創業間もないリンクアンドモチベーションに入社。組織人事コンサルティング事業の事業責任者、取締役を歴任。在籍中に株式公開および東証一部への指定替えを果

たす。2013年、事業責任者としての経験とコンサルタント視点の両面を持つことで、リアリティと再現性を兼ね備えたコンサルティングの提供を目指し、株式会社JAM設立。急成長企業の組織課題解決に向け、クライアントの組織戦略策定および実行に携わっている。


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