事件発生! そのとき検事は――検事の観察力、推理力、行動力をビジネスに生かすITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)

» 2015年02月12日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]
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ある死体遺棄事件

 水死体の発見が端緒となった事件である。被害者の身体には特に目立った外傷もなく、ロープでぐるぐる巻きにされて、30キロのコンクリートの重りがつけられて沈んでいた。このケースでは、事件の場合と自殺の場合が考えられた。重りは自分で抱えられる重さであり、ロープも自分で縛ることができるためだ。

 「検視・解剖の後、まずは身辺調査をした結果、他殺の可能性が高いという判断になり、本格的な捜査を開始した。途中、何人かの容疑者が浮かんできたが、有力な手がかりが少なく、犯人を特定するのは困難な事案だった。そんな中、注目したのは、ロープの結び方である」(熊田氏)

 被害者が縛られていたロープの結び方は、少し特殊な結び方だった。そこで被害者の交友関係者で、それを知っている者がいないかを捜査した。関係者の協力があまり得られなかったこともあって捜査が難航したが、数十人に話を聞いたところ、数名の容疑者が浮上した。

 この数名をいかに事情聴取するか。熊田氏は、「このケースでは一人ひとりを別の日に呼んで事情聴取するのではなく、それぞれ別々の警察署に呼んで一斉に事情聴取を行った。その結果、うち1名にはアリバイがあり、犯人は残る数名に絞られた。しかし任意聴取3日目に、うち1名が自殺をした。その遺書には、自分と他数名が犯人であるということが書いてあった」と言う。

 「こうした事件では、自白が非常に重要になる。そのためには、余計な情報は伝えたくない。したがって、まずは自殺の事実を知らせずに取り調べをする。もし自白しても、そこで事実のみを伝え遺書の話はしない。結局、共犯者らは自白したが、それによれば、彼らは、被害者を東京近郊で殺害して、死体を自動車で運び、ボートに乗せ、重りをつけて海に沈めたということだった」(熊田氏)。

 そこで、検事は、共犯者らの自白のとおりに、殺害場所から被害者の遺体を自動車で運んだルートを確認し、実際に同じ時間帯に同じルートをたどり、ボートに乗って、死体を沈めた場所まで行き、所要時間や周りの情景など客観的な状況を確認する。これにより、自白に矛盾がないか、事実関係に不明な点はないかなどを確認する。

 最後に熊田氏は、「いろいろな事件があるが、早期解決・犯人検挙という成果を出すためには何よりも初動捜査が重要。ビジネスにおいても、現状を的確に把握し、誰と、どのように組めばうまくいくかを素早く見きわめ、今後起こり得る事態を推察し、行動する力が求められる。また不祥事対応においても、最初に会社として個人としてどのようにアクションを起こすかがその後の評価・処分の分かれ目になる」と話している。

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