固定観念にしばられず顧客経験を活用した創造を目指す(2/2 ページ)

» 2015年03月04日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]
前のページへ 1|2       

調査型で売上増へ

 探し出すことが難しいイノベーションを見つけ出すために有効なのが、リードユーザー法による調査型である。たとえば近年、主婦の間で爆発的な人気となったマスキングテープがこれにあたる。マスキングテープとは、これまでは工事現場などで、ペンキを塗るときに余分な場所にはみ出さないようにするために使われるものであった。

 このマスキングテープのカラフルな色、どこにでも貼れてきれいにはがせる特性を生かし、家庭内でラベルの代わりに使うという想定外の利用法が家庭の主婦により生み出された。さらにガイドブックの作成や口こみなどで、マスキングテープ人気が家庭の主婦に爆発的に広がることとなった。

 「マスキングテープを製造販売するカモ井加工紙の担当者は、マスキングテープを"かわいい"と表現する主婦を、当初は"正直気持ち悪い"と思い、その感覚が理解できなかったという。しかし、リードユーザーのニーズを調査し、それに見あった商品を提供することで、4年間で20億円市場に成長した」(西川氏)

 リードユーザーには、2つの特長がある。1つは既存の商品では満足できず、ターゲット市場のほかの消費者よりも先に改善が必要であるというニーズを感じていること。もう1つはニーズが解決されることにより、自分に利益がもたらされると信じて、革新に動機づけられることである。

 「これまでの方法である"スクリーニング"では、膨大な量から探さなければならないために、多大なコストがかかってしまう。そこで有効なのが"ピラミッティング"である。いわゆる"6次の隔たり"で、1人が6人を紹介する程度で世界中の人とのつながりを見いだすことができる」(西川氏)

共創型でイノベーションを

 クラウドソーシングによる共創型も有効な手法の1つだ。クラウドソーシングは、余剰時間を使ったイノベーションである。もっとも成功しているクラウドソーシングの1つが、アイデアを商品化して販売する米国企業のQuirkyだ。

 Quirkyでは、誰でもアイデアを提案することが可能。提案されたアイデアに対し、全員でコメントおよび投票を行い、1番人気のアイデアが次の商品デザインになる。商品化されたら全員でプランニングを行い、製造、販売までを手がける。

 LEGO Ideasも、誰でもアイデアを投稿することができるクラウドソーシングである。約1万人から集まったアイデアの中から優れたものをレゴが商品化して販売する。すでに「しんかい」「はやぶさ」「マインクラフト」「デロリアン」などが商品化されている。

 29大学33ゼミ415名125チームが参加する大学横断の商品企画プロジェクトであるSカレは、テーマをサイトで公開し、共創しつつ競争して、もっとも優れた1つのアイデアを商品化している。

多様性が優れた解決策を生み出す

 マサチューセッツ工科大学(MIT)では、スーパーのショッピングカートにエンジンを付けた乗り物を開発している。単にこれだけを見ると「なに遊んでいるの?」となるが、この乗り物が目指すのは、ショッピングカートのように重ねて連結することで、省スペースで駐車できるクルマの実現である。

 またインノセンティブという会社では、デュポンやP&Gが抱えていた専門分野の課題をその分野とは異なる参加者のアイデアで解決するクラウドソーシングを提供した。これにより化学の問題を電気技師が解決した。解決された問題の72.5%は、別の分野の専門家が既知のアイデアをベースにしている。

 西川氏は、「顧客経験を活用するためには、ユーザー企業家でも、リードユーザー法でも、クラウドソーシングでも、固定観念にしばられないこと、オモチャだと思わないことが重要だ。多様性が優れた解決策を生み出すのである。ぜひ顧客経験を活用した創造を目指してほしい」と期待を込めて講演を終えた。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆