怒ったって良いじゃないか――リーダーは怒りをエネルギーに転じよビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

最近、気になっていることがある。職場で怒鳴ったり、声を荒げる管理職は、絶滅寸前である。部下には怒ってはいけないのが、大きな流れになってきている。しかし、果たして、それで良いのだろうか。日本企業の競争力や活力の源である闘争心を奪っていないだろうか。

» 2015年03月19日 08時00分 公開
[山口伸一ITmedia]
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入社1年目で頭角を現す人、沈む人

 最近、気になっていることがある。それは職場で「感情を表すこと、特に怒りの感情を表すことは悪いこと」との認識が定着していることである。職場で怒鳴ったり、声を荒げる管理職は、絶滅寸前である。部下には冷静に注意したり。叱ることで指導し、怒ってはいけないのが、大きな流れになってきている。しかし、果たして、それで良いのだろうか。怒りの感情が消え、冷静に論理的に物事が進むことが、現代の日本企業の競争力や活力の源である闘争心を奪った面もあるのではないだろうか。

 10年ほど前までは、機嫌が悪いと怒鳴り散らす上司がいた。周囲もそれを認め、部下にとっては上司の顔色を伺うのもひとつのスキルであった。

 今、環境が変わり、部下、特に若い部下を持つ管理職にとっては面倒な時代と言える。コーチングが導入されてから、感情を表に出して指導するよりも、相手に考えさせ、納得させよという育成法が定着してきた。

 パワハラも脅威で、部下から訴えられれば、自分のキャリアに影響するだろうから、部下に甘くなるのは当然である。

 また、現代の若者のハートが柔なことも影響している。大事に育てられ、入試やクラブなど学生時代に競争を経験していないと、ちょっとした叱責でも傷つくことがあり、精神的な病気になって退職されても困るし、自殺でもされたら、こちらの人生も終わってしまう。

 しかし、だからと言って、怒りの感情を抑えてばかりでもいけない。恐怖や怒りの感情はマイナスの面もあるが、危険察知や身を守る本来人間に必須の感情だからである。

 電車で足を踏まれて怒るのは意味がないが、皆の前でバカにされたり、辱めを受けたり、手ひどい裏切りを受けたら、「この野郎、今に見とけよ」と闘争心が湧いてくるのは当然で、その感情をエネルギーにして反撃すべきである。この気持ちを企業だけでなく、日本全体で失いつつあるように思えてならない。

 もちろん、国民全体がヒステリーを起こせば軍事国家になる危険性を秘めているが、グローバルな競争をしている企業にとって、全員が冷静に受け止めてばかりでは、いつの間にか「仕方がない」と諦めるクセや社風が定着してしまうのではないかと心配している。

 ビジネスは基本的に理性や論理で進めるが、それではブレークスルーは生まれ難い。スティーブ・ジョブスがiPhoneを作ったとき、部下が「これだけの部品を搭載すると厚さが2センチになります。」「世界中から部品を調達するので納期は2年後になります。」「価格は10万円です」と論理的に説明したら、彼は部下に何と言うだろう。

 「そうか、仕方がないな」と納得してしまえば、iPhoneは生まれない。「ふざけるな、1センチ以内の薄さで、納期はこの秋、さらに価格は5万円以下だ。」と彼の理想に近づけようと怒鳴りまくるはずである。かつて世界を席巻した日本の新製品や難事業も、ジョブズのようなリーダーの熱い思いから転じた怒りがエネルギーになっていたのではないか。

 最近、空港で経験した出来事だが、アジアの男性がカウンターで母国語でで大声でまくし立てていた。すると、その便は満席にも関わらず飛行機に搭乗することができた。確かに行為自体はわれわれからするとみっともなかったが、彼は欲しいものを手に入れた。新興国のキャッチアップは、技術の面もあるが、目的に向かう感情のエネルギーも日本より大きいと感じた瞬間であった。

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