目指すのは革命より文明――ITリーダーは任せられた仕事を「やりきる」ことが重要「等身大のCIO」ガートナー重富俊二の企業訪問記(1/2 ページ)

リクルート住まいカンパニーでは、「住まいを中心とした暮らしの進化を追求し、幸せな個人や家族をもっと増やす。」という経営理念に基づき、常に新たなサービスの提供を目指す。その一環として、新しい時代のITマネジメントに挑戦している。

» 2015年04月07日 08時00分 公開

 外資系ハードウェアベンダー、SIベンダー、ベンチャー企業の3社を経て、2007年にリクルートへ入社した、リクルート住まいカンパニーの内田明徳氏(取材時は、MP統括部 IT企画開発部 部長。現職は、企画統括室 事業推進2部 部長)。2012年に住まいカンパニーに異動したとき、組織は日々障害とプロジェクト遅延に追われていた。媒体が紙からネットへシフトする中でビジネス部門からの変化スピードへの急激な要求に対応しきれず、受け身で属人的な課題対応型の組織文化が存在していた。

 こうした状況をいかに打破し、国内最大級の住まい探し総合情報サービスブランド「SUUMO(スーモ)」を安定的に機能拡張・運用できるように改善していったのか。。内田氏が取り組む「新しい時代のITマネジメントへの挑戦」のためにITリーダーに必要なことについて話を聞いた。

スピードと品質の両立を目指す

――まずはリクルート住まいカンパニーのITへの取り組みについてうかがいたい。

リクルート住まいカンパニー 内田明徳氏

 リクルート住まいカンパニーでは、スピード重視の組織と品質重視の組織に分けてIT活用に取り組んでいる。これはガートナーが提唱する「2つの流儀」(F1とトラックのような2つの開発スタイルを持つ組織の構築)と同様の考え方である。

 例えば、ユーザーエクスペリエンスやソーシャル拡散を重視したスマートデバイス開発ではスピードを重視した独自アジャイルプロセスを立ち上げ、2カ月でインタフェースをリニューアルのように改善してCTRを大幅に改善した。一方、物件情報や会員IDなどの個人情報を扱うデータベース開発では、品質を重視し、未来のビジネス展開を先読みした基盤アーキテクチャを採用している。

――新しい時代のITマネジメントに挑戦するに至った背景をうかがいたい。

 われわれのサービスは、掲載情報の品質に難があったり、情報更新のスピードが遅いと、安心して住まい探しがしたいカスタマーの信頼をすぐに失ってしまう。一方で、競争力を上げるためには、多様化するデバイスへの対応や新規サービス開発にも迅速に取り組まなければいけない。そこで品質とスピードの高いレベルでの両立が必要だった。しかし目の前には個別最適を積み重ねた結果、肥大化・複雑化したシステムと、過剰品質な開発プロセスが存在していた。着実に変革を進めるために、組織の文化づくりも含めた新しい時代のITマネジメントへの挑戦が必要だった。

新しい時代の挑戦のために必要なこと

――新しい時代のITマネジメントに挑戦するために、ITリーダーに必要なことは。

 まずは「ストーリーと空気を作る」こと、次に「ITを特別扱いしない」こと、そして「革命よりも文明」を目指すこと。

 まず「ストーリーを作る」では、ビジネス戦略と連携された変革ストーリーを作り、「なぜ品質とスピードを向上しなければならないのか」という動機づけを強く打ち出した。そしてシステムをシンプルにし、メリハリの聞いた仕組みにしていくことをIT戦略として打ち出した。

 また「空気を作る」では、チャレンジした人を評価する仕組みを作ったり、議論する場を増やして戦略の浸透を図った。変革チームを小さく立ち上げて新しいことに取り組み、学びを全体に展開していった。

 全員に同じメッセージを行き届かせるのは難しいため、共通の価値観を持っているメンバーを見極め、こいつと一緒に失敗しようと腹をくくった。とにかく目の前が開けるまでやり続けるんだ、という本気度を見せることが重要だと思う。

 次に「ITを特別扱いしない」では、経営層にIT活用の本質を事ある度に繰り返し説明し、関係部署を巻き込んで「あるべき姿」を一緒に考え、現場には伝わりやすい説明を求めた。ITをビジネスに関わる全員が理解し、使える武器にすることを目指した。

 最後に「革命よりも文明」だが、革命は変化するために現状を壊すことであり、比較的短期間に実現できるが、壊した後の新体制を維持することが難しいのは歴史を見ても明らかだ。そこで時間はかかっても、新しい血も入れながら、精神的にも物質的にも豊かになる文明への進化を目指すべきだと考えた。

――くじけそうになったことはないのか。

 実は、こんな複雑な仕組みを徐々に改善するくらいなら、ビジネスを止めてでも全部ぶち壊して新しいシステムを作った方がいいと過激に思った時期もあった(笑)。そのとき、先代社長がよく話していた「継承と進化」という言葉を強く意識していていた。先達が築きあげたものをリスペクトした上で、新しい進化を生みだし、次の世代に引き継ぐという考え方が「継承と進化」である。

 この考え方は、システム構築においても重要だ。焦ってもいい仕組みはできない。ようやくメリハリの利いたシステムができはじめたところだが道半ばである。3年後には完成して次の世代に引き継げる形になると言いたいが、現実にはもう少しかかるかもしれない。

――リクルート住まいカンパニーのビジネスにおけるITの意義とは。

 リクルートのビジネスモデルは、「リボンモデル」と呼んでおり、カスタマーとクライアント双方の「不」を解消し、マッチングの実現を目指している。カスタマーが気づいていない潜在的なニーズや可能性、安心して選択ができるような客観的な評価や評判を提供することで、最適な選択と意思決定をサポートする仕組みを提供することを目指している。

 特に不動産の購入は、大きな買い物なので、迷って立ち止まることも多い。迷っていたカスタマーが、購入を前向きに検討できるための情報をスピーディーに提供することを目指している。

 リボンモデルは変化し続けているが、われわれのシステムもまだまだ不完全。ビッグデータの活用などで検索の精度を向上させたり、カスタマーの要望をより明確に具現化したりするための仕組みづくりを推進している。

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