これからのITインフラに求められる条件とは――ミャンマー金融クラウドからの学び

取り巻く環境の変化や競争が激しさを増す中、多くの日本企業が情報システムに対してより一層の俊敏さと柔軟さを求めている。ミャンマーの金融システム近代化プロジェクトを陣頭指揮した大和総研 フロンティアテクノロジー推進部長 伊藤慶昭氏と日本ヒューレット・パッカード サーバー製品統括本部長 橘 一徳氏が、これからのITインフラに求められる条件について議論した。

» 2015年05月11日 10時00分 公開
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 アジアにおいて「最後のフロンティア」とも呼ばれるミャンマー──。大和証券グループのシンクタンクである大和総研は2012年5月、ミャンマー中央銀行と同国における証券取引所設立と資本市場育成支援に協力していく旨の覚書を交わすと、その年の末には同中央銀行向けにクラウドを導入、さらに15年初めにはヤンゴン市内のコンテナ型データセンターを稼働させ、2015年下期の証券取引所開業に向けて急ピッチでプロジェクトを進めてきた。

大和総研 フロンティアテクノロジー推進部長 伊藤慶昭氏

 現在は、複数のパートナー企業と共同でミャンマー中央銀行の決済システムプロジェクトも立ち上げ、日本の事例をモデルにしてシステムを構築中だという。

 現地に幾度となく足を運び、陣頭指揮した同社フロンティアテクノロジー推進部長の伊藤慶昭氏は次のようにプロジェクトを振り返る。

 「国際協力機構(JICA)のプロジェクトとしてミャンマー金融システムの近代化について調査を実施したのは2012年春でしたが、当初からわれわれはクラウドをいかに構築・運用するかがカギになると考えていました。中央銀行の基幹系システムやヤンゴン証券市場の礎となるクラウドですが、ミャンマーはITの発展以前に社会インフラが非常に脆弱です。停電は頻発しますし、通信も途切れます。そのため、ITインフラを物理的に1カ所に集め、電力供給も確保して、外部の通信を使わずに閉じてしまおうというのが、この"ミャンマー金融クラウド"の発想です。ITの運用・保守に携わる人材も非常に限られているため、クラウドにITインフラを集約・標準化することで、少ない人数でも運用・保守できるようになります」

 さまざまな社会インフラが日本国内とは大きく異なるミャンマー。特に影響が深刻なのは、ハードウェア障害時のメンテナンスだという。

 「ハードウェアは基本的にミャンマー国外から輸入しなければならず、故障したときにも隣国からセンドバックする必要があるため、莫大なコストがかかります。いかに限られたリソースを有効に利用するか、保守費をかけずに復旧できる体制を整備するかが課題でした」(伊藤氏)

 そこで大和総研が考えたのが、ハードウェアをx86サーバに均一化し、運用・保守の対象となるハードウェアの種類を少なくするという方策だった。社会インフラが脆弱なミャンマーでの事例だが、金融の近代化を目指した国家プロジェクトにx86サーバで均一化したITインフラを採用できたことは、情報システム構築の俊敏さや柔軟さが求められる日本企業にとってもひとつのヒントになるだろう。

新たな段階に入った統合型アプライアンス

日本ヒューレット・パッカード サーバー製品統括本部長 橘 一徳氏

 このミャンマーにおける伊藤氏の学びは、ハードウェアを均一化し、運用・保守の対象を絞り込むことで、ITインフラに簡素化と変化への対応スピードをもたらすというものだった。日本ヒューレット・パッカードでサーバー製品統括本部長を務める橘一徳氏は、そうしたハードウェアの共通化・標準化には必然性を感じると話す。

 「日本ではまだ少ないですが、欧州や北米では"インフラに手間をかけたくない。検証・チューニング済みのシステムをすぐに持ってきてほしい"というニーズがあり、統合型アプライアンスシステムの市場がどんどん広がっています。ハードウェアをできるだけ共通化し、管理ツールも標準化することによって、導入から運用までに必要なハードウェアのコストだけでなく、トータルコストも下がります」(橘氏)

 そしてHP自身もハードウェアの共通化・標準化に取り組んでおり、製品化しているのが「HP ConvergedSystem」だ。

 「これまではサーバ、ストレージ、ネットワーク、管理ソフトウェア、サービス、サポートなど、部分最適化されたコンポーネントを組み合わせて使うのがITインフラの一般的な形でした。それに対しHP ConvergedSystemでは、サーバ、ストレージ、ネットワーク、管理ツール、サポートが全体最適化されて提供されています。これによりシステムのサイジングや検証が不要になり、導入にかかる時間は大幅に短縮できます。また、1つの管理ツールでシステム全体が管理できるので、運用管理コストを下げることも可能です」(橘氏)

 これまで「垂直統合型システム」と呼ばれてきたものだが、HPではサーバ、ネットワーク、ストレージ、そしてソフトウェアをさまざまな用途(ワークロード)に応じて最適化したラインアップが特徴だ。伊藤氏は、こうしたHPをはじめとするベンダー各社の取り組みを歓迎する。

 「インフラが共通化・標準化されることは、非常に良いと考えています。ミャンマーほどではありませんが、日本でも仮想化に精通した技術者は不足しています。ワークロードに応じて、仮想化ソフトウェアも含めて、必要なものが最適化されているということは、リードタイムが短くなるし、保守もしやすくなります。メリットは大きいと思います」(伊藤氏)

 ただ、伊藤氏は中身が分からないブラックボックス化には注意が必要だと指摘する。

 橘氏も「重要なのは、いわゆる統合型アプライアンスにプロプライエタリな技術を持ち込まないことです。HP ConvergedSystemは、ハードウェアにはx86アーキテクチャー、OSにはLinuxかWindows、ハイパーバイザーにはVMwareなどのデファクトスタンダードのみを採用しています」と話す。

ミャンマーでの学びが「超」統合型アプライアンスに具現化?

大和総研 フロンティアテクノロジー推進部長 伊藤慶昭氏(左)と日本ヒューレット・パッカード サーバー製品統括本部長 橘 一徳氏(右)

 HP ConvergedSystemでは、ワークロードに応じた複数の統合型アプライアンスシステムがラインアップされている。ひとつの筺体で最大1000台もの仮想マシンを収容できるIaaS向けに最適化されたモデルもあれば、デスクトップの仮想化に最適化されたもの、ビッグデータ解析に最適化されたものもある。

 HPはこの3月、仮想化環境向けに最適化されたモデルをさらに拡充した。x86のProLiantサーバをベースとし、ストレージ仮想化ソフトウェアによって内蔵ディスクを束ねて仮想ストレージとする「ハイパーコンバージドシステム」だ。VMwareが掲げる「Software Defined」と読み替えることもできるし、既にお気づきと思うが、大和総研がミャンマーのプロジェクトでハードウェアの均一化に挑戦したのと共通する考え方だ。

 3月に追加された「HP ConvergedSystem 200-HC EVO:RAIL」は、ハイパーコンバージドシステムを実現するVMwareのソフトウェアアプライアンスを搭載したもので、高さ2Uの筺体に8基のXeonを搭載し、最大100台の仮想マシンを収容できる、やや小ぶりのモデルだ。仮想化やストレージに関する専門知識が不要なこともあり、中堅企業や部門向けとされているが、HDD、SSD、ネットワークを搭載しており、「ビルディングブロック」として最大4台まで積み重ねることができる。将来は、さらに多くの台数を接続できるようにする計画もあり、需要に応じて細かい単位で増減できる大規模で柔軟なハイパーコンバージドシステムも構築できるようになるだろう。

 HP ConvergedSystem 200-HC EVO:RAILで採用されている技術の中で伊藤氏も期待しているのが、VMware vSphereに統合されている「Virtual SAN(VSAN)」だ。これは、複数のサーバの筺体に分散した内蔵ディスクを束ね、ひとつの大きな仮想ストレージとして利用できるようにする技術で、2014年から提供されている。

「ストレージも外付けを用意するのではなく、サーバに搭載されているディスクを有効かつ柔軟に運用できる技術として、VSANには注目しています。導入コストはもちろん、運用する技術者や保守費用を考えると、ハードウェアの種類は少ないほどいい。ミッションクリティカルなシステムでは、高価な外付けのストレージが必要と考えられていますが、ミャンマーのプロジェクトでは逆転の発想でVSANにトライしてみたいと考えています」(伊藤氏)

 現状、VMware EVO:RAILは複数のベンダーから提供されている。どのような点に差異化できるポイントがあるのだろうか。

 「200-HCのベースになっているハードウェアは、高い品質を誇るHP ProLiantというワールドベストセラーのx86サーバです。サポートや保守サービスを全世界で提供できるのも、HPの強みです」(橘氏)

 さらに、VMwareとの関係でもHPには一日の長があるという。

 「VMwareとは製品の開発段階から緊密に連携しています。例えば、最新の技術情報もいち早く開示されており、ハードウェアとソフトウェアの両方にまたがるような問題が発生しても、HP本社の開発部門がすぐに問題解決を図る体制が整っています。VMwareで仮想化されたITインフラに占めるProLiantのマーケットシェアは圧倒的に高く、実績も群を抜いています」(橘氏)

 HP ConvergedSystemでは、企業が柔軟な調達を図れるようさまざまなファイナンスプログラムも用意している。

 「HPには"フレキシブルキャパシティ"という従量課金のサービスがあります。このサービスとConvergedSystemの組み合わせによって、ノード単位はもちろん、仮想サーバごとの課金を可能にする、きめ細かな従量課金プログラムの提供を検討中です」(橘氏)

 このような仮想サーバレベルでの従量課金の仕組みは、企業の投資効率を大幅に高めるプログラムとして、日本でも注目されるだろう。

 「日本企業でも、ハードウェアを均一化して運用コストを下げたい、IT部門のリソースが十分でないので運用・保守の負荷を軽減したいというニーズは多いはずです。大和総研がミャンマーのプロジェクトで経験し、得られたノウハウやナレッジは、国内のプロジェクトにも応用できるはずです。例えば、仮想デスクトップのソリューションも、ラック単位での導入では一時的に過剰なIT資産を抱えることになります。きめ細かくすぐに増減できることは、これからのITインフラに求められる条件のひとつでしょう」(伊藤氏)

 これからの情報システムには、「すぐに使える」「サイジング・事前検証不要」「機器構成の標準化」ということが求められる。HP ConvergedSystemやVMware EVO:RAILのような、オープン性が確保された統合インフラアプライアンスは、それらを実現する選択肢のひとつに違いない。

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提供:日本ヒューレット・パッカード株式会社、ヴイエムウェア株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エグゼクティブ編集部/掲載内容有効期限:2015年6月10日