「上司の9割は部下の成長に無関心」時代に人を育てる3つの鍵ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2015年11月05日 08時00分 公開
[前川孝雄ITmedia]
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 これは今も昔も変わらない、人材育成の普遍的な「あり方」だ。ただ、平成初期までの日本企業では、上司が特に意識しなくても、この3条件が自然と揃っていた。高度経済成長期であれば、(1)のような仕事はどんどん出てきたし、朝から晩まで長時間労働を共にしているので(2)のための相談もしやすい、(3)に関しては「飲みニケーション」が自然と振り返りの場になっていた。

 しかし、今はそうした前提が様変わりしているので、時代の変化に合わせた新しい人材育成の「やり方」が求められている。(1)に関しては成熟・低成長経済のもとでは意図的に用意すべきだし、(2)についても職場で働く人たちが助け合える風土づくりから始めなければならない。(3)に効果的であった「飲みニケーション」も今はやりづらい。ならば、日常の業務時間のなかで、面談やフィードバックの時間をあえてに創らなければならない、といった具合だ。

 詳細は本をお読みいただきたいが、このような新しい人材育成手法が機能する人が育つ現場を作るためには、大きく分けて3つの改革が必要だ。

 1つは、上司の意識改革。部下を育てることの重要性、必要性を上司自身が認識し、自分が人を育てるのだという覚悟を持ち、時代の変化に即した人材育成法を実践していかなくてはならない。これが最も難題であり、かつ重要である。

 2つめは、会社の人事制度改革。これは、経営者の課題だ。人材育成を推し進めるうえでは、それを担う上司を正当に評価する制度や、多様な人材が増えるなかでは、育児・介護などと仕事を両立するための支援制度などを整えることが必要だ。

 3つめは、組織全体の風土改革。これは、人材育成の取り組みを現場が継続すること、それを会社が後押しし続けること、そういった取り組みに関する情報を社内で広く共有することなどによって進めていくものだ。限られた上司だけが部下育成を頑張っても、会社全体を人が育つ現場にするのは難しい。また、制度だけを整えても、それが設計の思想通りに機能しなければ、ただの飾りに過ぎない。これらに加えて、社内報なども活用し「伝播・浸透」を意識した育成風土創りを取り入れることが肝要である。

 「部下の成長に関心を持つ上司」を増やし、「人が育つ職場」を取り戻すことは容易なことではない。グローバル資本主義の影響を強く受け、短期的収益を厳しく求められる現代の企業ではなおさらだ。

 しかし、研修・コンサルティングなどで管理職や経営者のお話を聞くと、人材育成への熱い思いを胸のうちに秘めている方がまだまだたくさんいる。実際、悪戦苦闘しながらも、無関心上司が部下に関心を持つ上司に変わり、「人が育つ現場」を取り戻しつつある企業もある。

 そうした企業に共通するのは、人材育成に熱い思いを持った誰かが勇気をもって行動を起こした、ということだ。経営者や人事担当者の場合もあるし、現場の一管理職がまず自分の部署で実践し、それが企業全体の変革につながっていった事例もある。

 ビジネスリーダーであるあなたが「その最初の1人」となり、「人が育つ職場」が再び日本に広がっていくことを願ってやまない。

著者プロフィール:前川孝雄

FeelWorks代表取締役・青山学院大学兼任講師

人材育成の専門家集団 株式会社FeelWorks創業者。1966年兵庫県生まれ。大阪府立大学、早稲田大学ビジネススクール卒業。リクルートで「リクナビ」「就職ジャーナル」「ケイコとマナブ」「Tech総研」などの編集長を歴任後、「人を大切に育て活かす社会づくりに貢献したい」という思いで2008年に同社設立。コミュニケーション循環を良くすることで温かい絆を育み組織の体質を変えていく「コミュニケーション・サイクル理論」を構築し、独自開発した「上司力研修」や「上司力鍛錬ゼミ」は、大手企業を中心に250社以上が導入。ミニドラマを用いた「働く人のルール講座」や「キャリアコンパス研修」、「女性幹部管理職研修」など、時代性を踏まえた先進的な研修プログラムを提供している。また、得意のメディア編集技術を駆使して、「ダイバーシティレポート」「仕事と家庭の両立支援ハンドブック」「セクハラ・パワハラ防止マニュアル」制作なども手掛け、長期伴走型で徹底した多様な人が育つ現場づくりを支援している。

TV番組「めざせ!会社の星」「ワールドビジネスサテライト」「サキどり↑」「ニュース シブ5時」などに出演。読売新聞で「前川孝雄のはたらく心得」連載。著書は「女性の部下の活かし方」(メディアファクトリー)、「年上の部下とうまくつきあう9つのルール」(ダイヤモンド社)、「部下を育て、組織を活かす はじめての上司道」(アニモ出版)、「30代はアニキ力」(平凡社)、「働く人のルール」(明日香出版社)、「勉強会に1万円払うなら、上司と3回飲みなさい」(光文社)など多数。最新刊は「上司の9割は部下の成長に無関心」(PHP)。


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