「モノ」より「コト」の時代――元気な社員がお客さまを感動させる気鋭の経営者に聞く、組織マネジメントの流儀(2/2 ページ)

» 2015年11月18日 08時00分 公開
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成功するか失敗するかの分かれ道は成功イメージを持っているかどうか

金川会長(右)と聞き手の中土井氏(左)

中土井 恵まれたポジションを自ら降り、自分の給与をゼロにまでした強い思いというのはどこから生まれたのですか。

金川 借金の額も膨らみ、無茶なことをしていましたが、私には自分が成功するイメージが見えていたのです。これからはサービスの時代、お客さまに対して付加価値の高いサービスを提供できれば絶対に成功すると漠然と思っていました。

 よく、「どうやったら成功するのか?」と質問する人がいますが、そんな質問はナンセンスです。うまくいくかどうかなんて誰にも分からないのです。ただ、成功するイメージが見えているかどうか、それだけがポイントだと思います。成功するイメージがはっきりと見えていれば、うまくいかないことがあったとしても、次に何をすればいいのかが分かるようになるでしょう。

 自分の中にあった成功イメージに確信を持っていたので、キューアンドエーに専念して続けることができました。その結果、起業して最初の7年間は赤字続きでしたが、8年目以降はずっと黒字で安定しています。

中土井 成功するイメージを持つこともあれば、これはうまくいかないというイメージを持つこともあると思います。そういった直感にも似た判断力が成功の鍵だといえそうですね。

金川 経験によって感性を磨くことでしか成功は手に入らないと思います。何事もはじめは感覚なのです。ロジックや数字はその後についてくるものです。たくさん失敗し、情報をたくさん得て、知らず知らずのうちに自分の感性が磨かれて、成功するか失敗するかの判断ができるようになるのだと思います。やるべきことと、やるべきじゃないことを嗅ぎ分けるセンサーが備わるのです。成功するイメージができたら、すぐに始めた方がいい。机上では何も答えは出ません。お客さまに会いに行き、マーケットを肌で感じることが必要です。

人事制度に必要なものは「安心感」

中土井 これからは「モノ」より「コト」の時代だと確信し起業されたそうですが、サービスを提供する企業として、組織マネジメントの観点で大切にしていることは何ですか。

金川 最終的に重要なのは人です。電話に出るのも、お客さまの元へ訪問に行くのも人。社員のやる気次第で、よいサービスを提供できるかどうかは決まります。お客さまの期待を超え、感動させることができてはじめて、「またあなたにお願いしたい」といってもらえるのです。そうなれば、サービスの価値は価格だけでははかれないほどに変わります。お客さまを感動させない限り、いいサービスは提供できません。

 組織マネジメントにおいては、社員が元気で、前向きになれる環境をつくることが重要です。人のやる気を起こさせるために一番重要なのは、やはり人事制度です。私たちは、「安心して、継続して、最高のパフォーマンスを発揮できる」ということをポリシーにし、こだわりを持って人事制度を作り上げています。会社がバックアップしてくれているという安心感を社員に持ってもらえるように努めています。安心感があれば、社員のロイヤリティは高まり、結果として成果に結び付きます。

中土井 人事制度において「安心感」を重要視しているのには何かきっかけがあったのですか。

金川 最初から安心感を主軸にしていたわけではありません。以前、とても優秀な社員がおり、私も彼に大きな期待を寄せていました。励みになるだろうと思い、成果によっては給与を上げるとも言っていました。当時は、そのことが彼にとって大きなプレッシャーになっているとは気づいていなかったのです。責任の重い仕事を多く任せていたので、彼は自分の実力以上の仕事をしなければならなくなり、ストレスを抱え込んでしまいました。

 この経験から、極端な成果主義は人の幸せには結び付かないということに気づきました。多額の給与をもらったとしても、過度なプレッシャーにさらされ続け、毎日のように残業をして、それでもどんどん仕事量が増え、心も体も追い込まれていくような状態は幸せだとはいえないと思います。身の丈に合っている仕事量と目標で、体も気持ちも快適な状態でいられることが幸せなのではないでしょうか。そういう状態にあれば、家族ともいい関係が築けると思います。安心感は社員の幸せを守り、モチベーション高く仕事をしてもらうために必要なことなのです。

中土井 最後に改めてお聞きします。金川さんにとって組織マネジメントとは何でしょうか。

金川 社員を元気にすることに尽きます。ステークホルダー、取引先、株主、みなさんを元気にすることです。

対談を終えて

 大手企業において「マネジメント」という言葉が語られるとき、「エンジニアリング」として、つまり「数値化し、測定可能なものにする」という文脈で扱われるケースを多くみかけます。しかし、中小企業を含めた創業社長になると「マネジメント」は精神性と切っても切れないものとして語られることが多くなります。

 金川さんは横河電機の出向社員としてキューアンドエーの経営に携わった際、赤字なのに自分だけ安定した給与をもらっている状態では社員がついてくるわけがないと会社を辞め、転籍を決意されています。

 全く同じ会社を同じ社長という立場で経営に携わっているという意味では、何の違いもありません。横河電機の社員という安定したポジションを手放すというリスクを冒す必要は一見、どこにもないように思えます。しかし、その転籍の覚悟から黒字転換し、その後も業績を拡大し続けているという事実が、組織マネジメントの本質と奥深さを物語っているのだと思います。

プロフィール

中土井 僚

オーセンティックワークス株式会社 代表取締役。

社団法人プレゼンシングインスティテュートコミュニティジャパン理事。書籍「U理論」の翻訳者であり、日本での第一人者でもある。「関係性から未来は生まれる」をテーマに、関係性危機を機会として集団内省を促し、組織の進化と事業転換を支援する事業を行っている。アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア株式会社)他2社を通じてビジネスプロセスリエンジニアリング、組織変革、人材開発領域におけるコンサルティング事業に携わり2005年に独立。約10年に渡り3000時間以上のパーソナル・ライフ・コーチ、ワークショップリーダーとしての活動を行うと共に、一部上場企業を中心にU理論をベースにしたエグゼクティブ・コーチング、組織変革実績を持つ。


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