「お前がやったんだろ! 吐け!」は幼稚園レベル――コミュニケーションの極意を検事に学ぶITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

「お前がやったんだろ!」――刑事ドラマでよく見る光景だが、これでは実際の被疑者は口を割らない。敏腕検事は、いかにして口を割らせるのか。元検事が明かすコミュニケーションの極意とは。

» 2016年11月16日 07時16分 公開
[山下竜大ITmedia]
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 ITmediaエグゼクティブ勉強会に、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍している弁護士の大澤孝征氏が登場。著書『元検事が明かす「口の割らせ方」』の内容に基づいて、検事時代の取り調べにおける経験や体験から見いだした口の割らせ方の極意を紹介しながらコミュニケーションの本質とは何かを話した。

現在も財産として残る「鬼検事」のしごき

『元検事が明かす「口の割らせ方」』

 人は簡単には口を割ってくれない。それでは、どのように口を割らせる能力を身につけたのか。「1972年に検事になったことが背景にある」(大澤氏)。この年は、2月にあさま山荘事件、5月に沖縄返還、7月に田中角栄内閣総理大臣の就任、9月に日中国交正常化など、世の中が大きく変革した年だった。

 大澤氏は、「4月に東京地検に任官したとき、優秀・有能な検事は、あさま山荘事件につぎ込まれ、それ以外の検事が一般の事件を扱っていた。当時の部長からは、"なぜこの忙しい時期に半人前ばかりなんだ"と嘆かれ、"これから、お前らを短期間で一人前にしてやる"と言われた」と当時を振り返る。

 「この部長は"鬼検事"と呼ばれた人で、いまならパワハラで訴えられるくらい厳しい人だった。"合格率2%の司法試験をパスして検事になった面では優秀だが、世の中の仕組みに関しては無知無能。まずはそれを知らしめることから教育する"と言い、作成した調書は、付箋だらけ、赤字だらけで突き返され、何度も書き直しをさせられた」(大澤氏)。

 しかし、ただ厳しいだけの人ではなく、「検事とはどのような立場なのかを理解させてくれた恩人でもある」と大澤氏は言う。例えば、起訴状の作成はそのひとつだ。起訴状は、検事が起訴内容を書き、自分の名前を署名して捺印することで完成する。大臣の名前でも、検事正の名前でもなく、個人の名前で国を代表して起訴する。常々「起訴をすることには、どれだけ重要な意味があるかということをよく理解しておけ」と叩き込まれた。

 1976年2月にロッキード事件が起きたが、これまで検察が担当した最大の事件が、元総理大臣を逮捕したロッキード事件であり、それにふさわしい能力を持った検事が数多くいた時代でもある。この時代に、検事として徹底した教育を受けたことは非常に実り多く、現在でも財産として残っている。

最初に口を割らせたのはパン泥棒

 「検事として、最初に口を割らせたのはパン泥棒の被疑者だった」と大澤氏は言う。そのパン屋は、配送会社が工場で製造されたパンを、開店前に店の前に置いておき、そのパンを店に並べて販売するシステムだった。被疑者は、店の前においてあるパンを盗んだと同時に、店のシャッターが開き店主に見つかってしまう。

 店主は被疑者を捕まえようとするが、被疑者は店主を殴り、そのまま逃走してしまう。このとき店主が骨折したために、罪名が強盗致傷になってしまった。強盗致傷は、当時は7年以上(現在は、6年以上)の刑だった。被疑者は、強盗致傷という罪名に震え上がり、自白をしなくなった。

 「よくドラマなどで、"お前がやったんだろ!吐け!"と厳しく取り調べるシーンがある。時と場合により、やらないこともないが、ランクでいえば、幼稚園レベル。普通に考えて、怒鳴り散らされて本当のことを話す人はいない。"やりました"と言うかもしれないが、真相は語らない。これでは、口を割ったことにはならない」(大澤氏)。

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