「競争」から「共創」へ。時代のニーズに合わせて進化を続ける老舗クリーニング店、喜久屋の挑戦に迫る経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意(1/2 ページ)

市場規模が年々縮小を続けるクリーニング業界で、新たな価値創造となるサービスを提供することで、顧客のニーズをとらえ事業を拡大することができる。

» 2017年02月15日 07時15分 公開

 市場規模が年々縮小を続けるクリーニング業界で、新たな価値創造となるサービスを提供することで、顧客のニーズをとらえ、事業を拡大し続けている企業がある。創業60年を迎え、クリーニング事業を展開する喜久屋は、店舗型のクリーニング事業の他、業界の先駆けとなるWeb上で手続きをするクリーニングサービス「イークローゼット」を展開。顧客のニーズを読み取り、時代の先を行く喜久屋を先導してきた代表取締役中畠信一氏に話を聞いた。

イークローゼットはクリーニング+空間創造サービス

井上 喜久屋が展開しているサービスについて教えてください。

喜久屋 代表取締役 中畠信一氏

中畠 喜久屋は、創業60年を迎えたクリーニング会社です。クリーニングサービス・衣類の保管・洋服のリペアをしている店舗を現在約100店経営しています。

井上 インターネットによる事業も展開しているそうですね。

中畠 「イークローゼット」というサービスを2003年から展開しています。サービスの案内や受付はインターネット上の専用サイトを通じて行い、衣類の集荷・クリーニング後のお届けには宅配便を活用しています。全国どこからでも利用できるサービスです。イークローゼットでは、クリーニング依頼品の全てを長期無料保管の対象としていることが特徴です。

井上 私もいつも利用しています。シーズンオフの衣類を保管するサービスは、とても助かっています。

中畠 イークローゼットは、「価値変換」がテーマなんです。ライフスタイルが変化し、特に都市部では、マンションの販売戸数が増えています。マンション居住者が増えるということは、別の見方をすると、家の収納スペースが不足することを意味します。

そこで、クリーニングに「空間創造」という価値を加えたサービスを提供しようと考え、イークローゼットを始めました。

井上 2003年というと、Web上のクリーニングサービスはまだ少なかったのではないでしょうか。

中畠 ほとんどなかったと思います。従来のサービスの在り方にとらわれず、生活者のニーズに合わせ、常に新たな価値の創造を目指していかなければ、これからの時代は生き残れないと考えたからです。

 特に、クリーニング業界は92年をピークに市場規模はずっと縮小傾向にあります。92年で8400億円あった市場が、今では3700億円に縮小しています。昔と変わらないリアル店舗型のクリーニング事業だけでは、売上げは減る一方です。

井上 生活者のニーズに応えるのは、そう簡単なことではないと思います。新たなサービスを考案するとき、どういった視点を持っているのですか。

中畠 究極の目標は、誰もがクリーニング店に行かなくていい仕組みを作ることです。クリーニング店に行く時間が短縮されれば、お客さまの生活時間を増やすことにつながり、余暇の時間も生み出します。クリーニング店を選ぶ基準は、30年前からずっと変わらず、「近さ」だという調査結果が出ています。少々高くても、下手でも、近い方を選びます。そういった視点で考えると、クリーニング店まで行く手間を省くところに、生活者の大きなニーズがあるといえます。

全国へ提携先を広げた「共創」の精神

井上 他にはどんなサービスを展開していますか。

中畠 約8年前から全国約150棟の大規模マンションでクリーニングサービスを提供しています。500世帯や100世帯の大規模マンションでは、フロントにコンシェルジュを置くマンションが増えてきました。コンシェルジュはさまざまな生活に関連したサービスを提供しています。フロントサービスの中でも、クリーニングは需要度のが高く、今では、北海道から沖縄まで全国各地のマンションのクリーニングサービスを受け持っています。

井上 喜久屋は首都圏を中心に店舗を展開しています。日本全国でのクリーニングサービスは、どういった仕組みで成り立っているのですか。

中畠 日本全国となると、喜久屋だけでサービスを回していくのは不可能ですので、各地域のクリーニング会社約50社と提携をしています。喜久屋は提携ネットワークのハブとして、受注システムを構築し、お客さまからの要望はすべて一括してコールセンターで管理しています。こういったシステムを提携先の会社に使ってもらうことで、事業を展開しています。

井上 インターネットを通じたクリーニングサービスを提供したり、全国のクリーニング会社と提携したりするなど、喜久屋はクリーニング業界のパイオニア的存在といえるのではないでしょうか。

中畠 業界が縮小し、今後日本の人口が減り、経済の伸びも期待できない時代の中、これから私たちがすべきことは、「競争」ではなくて「共創」です。クリーニング業界でいうと、愚直に誠実な仕事をしているところほど、あまりうまくいっていないという実情があります。そういう確かな技術を持っている人たちを何とかしたいと思い立ち上げたのが「リアクア」です。

 リアクアは、「日本最大級のクリーニングプロフェッショナル集団」を強みにしています。これは喜久屋の集大成ともいえる事業です。全国の優良クリーニング工場と提携し、これまで築いてきたネットワークを生かし、お客さま一人ひとりのニーズに応える新しいタイプの宅配クリーニングサービスです。

井上 「競争」から「共創」というのは喜久屋を表すキーワードになりそうですね。提携先には、管理システムをすべて無料で提供されているんですか。

中畠 最低限のシステム使用料以外は無料で提供しています。技術力はあっても、IT化が苦手なクリーニング会社は多いので、その苦手な部分を全て喜久屋が受け持つことにしたんです。そうすれば、職人として技術を高めることに専念できますよね。

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