Logistics 4.0時代の物流ビジネス視点(4/4 ページ)

» 2017年02月28日 07時28分 公開
[小野塚征志ITmedia]
Roland Berger
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 物流を取り巻く事業環境の変容を語る上でAmazonの存在は無視できない。近い将来、物流ビジネスへの本格参入を果たすことが十分に予想されるからだ。

 Amazonの成長戦略を推察するにあたり、AWSのビジネスモデルは貴重な示唆を与えてくれる。実は、Amazonは世界最大のEC事業者であると同時に、世界最大手のクラウドサービス事業者でもある。AWSは、そのクラウドサービスの略称である。

 AWSがAmazonの売上に占める割合はわずか7%に過ぎない。しかし、営業利益ベースで見ると、その割合は41%にも上る。営業利益率23%を計上する超高収益事業なのだ。

 なぜこれほどの高収益とシェアを獲得できているのか。それはコスト競争力が段違いに高いからである。

 競合他社はクラウドサービスを提供するためにサーバーシステムを構築している。ゆえに、その設備投資に準じた利用料を請求する必要がある。対して、AWSは自社のEC事業のために構築された巨大なサーバーシステムの「空きスペース」を他社に開放しているに過ぎない。クラウドという装置産業において、圧倒的規模の設備と、ECというベースカーゴを有するAmazonに太刀打ちできるわけがない。

 翻って、Amazonは物流拠点の自動化を大胆に進めている。2012年にロボットメーカーのKIVA Systemを買収し、既に3万台超の倉庫ロボットを配備した。2015年からは「棚から目的の商品を取り出す作業」を競争するロボットコンテスト“ Amazon PickingChallenge”を開催している。物流拠点の装置産業化を他社に先んじて実現しつつあるといえよう。

 Amazonが保有するものは物流拠点だけではない。米国では、既に自社トラックの運用を開始している。2016年にはリース契約で航空貨物機を調達した。一部地域では船舶の運用(NVOCC)も自前化している。ドローン配達の実現に向けては、開発機能さえも内製化した。そして、EC事業を通じて培った、各地域からの注文をAIが予測して事前出荷する「予測出荷システム」は自社で開発・運用している。

 つまり、Amazonは物流サービスの提供に必要な設備を並の物流会社以上に持っている。加えて、ECというベースカーゴがある。そして、装置産業化を先駆的に進めている。AWSと同様の事業環境を自ら創出しつつあるのだ。遠からず、その「空きスペース」を他社に開放するだろう。それは、既存の物流会社からすれば、有力な荷主がライバルとして突如出現することを意味する。

 Amazonが物流サービスを提供することの影響は物流会社だけに及ぶわけではない。Amazonは倉庫ロボットを内製化しているのだ。Amazonが物流会社として飛躍的成長を遂げたとき、他社のシェアは相対的に低下する。倉庫ロボットのメーカーからすれば、販売先が減少することとなる。あるいは、Amazonが倉庫ロボットのレンタルサービスを開始するかもしれない。生産・運用台数ベースで考えると、Amazonは既に最大手の倉庫ロボットメーカーなのだ。

 ドローンや自動運転トラックについても倉庫ロボットと同様の世界が広がるかもしれない。そうなれば、Amazonがドローンメーカーやトラックメーカーの脅威となる可能性がある。

 なぜ、Amazonが脅威なのか。それは、世界の変化をきちんと見据えた上で、目指す姿を描き、その実現に向けた大胆な設備投資とM&Aを着実に実行しているからだ。Logistics 4.0の世界で覇権を得るための成長シナリオが十分に練り上げられている。ゆえに、目先の収益に左右されず、目指す姿へのステップを断固として進められる。株主の支持も得られる。Amazonは、得られた収益を全て戦略的投資に回しているため、創業以来、純損益は常に「ほぼゼロ」であることを忘れてはならない。

 果たして、Amazonのような戦略的投資を継続的に実行できている日本の会社はどの程度あるだろうか。世界の変化を見据えた戦略的投資は、往々にしてすぐに利益に跳ね返るようなものではない。競争環境が劇的に変容するのだ。十分な議論の果てに目指す姿を描き、その実現に向けた投資を継続することで、より大きな成功の果実を得る。Logistics 4.0時代の覇者となるためには、その強い意志を貫くことが不可欠といえよう。

著者プロフィール

小野塚征志(Masashi Onozuka)

ローランド・ベルガー プリンシパル

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、日系シンクタンク、システムインテグレーターを経て現職物流、流通、製造、金融などを中心に幅広いクライアントにおいて、新規事業戦略、成長戦略、企業再生、M&A戦略、オペレーション改善、サプライチェーンマネジメントなどを始めとする多様なプロジェクト経験を有する


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