転換期を迎えたベトナムのヘルスケア産業と事業機会飛躍(3/4 ページ)

» 2017年06月06日 07時06分 公開
Roland Berger

2.2 病院事業の外資規制撤廃

 2014年には、ベトナム初の外資独資病院として、Hoan My Medical Corporationが誕生した。東南アジアで活発な投資活動を行っているChandler Capitalは、2011年から当病院の株式を20%保有していたが、ベトナム政府の規制緩和を受けて株式を買い増し、ベトナムで外資100%病院の第一号となった。新会社は、すでに数件の病院を買収し、規模拡大と全国展開を進めている。今も引き続きベトナム国内の病院の買収を積極的に模索しているようだ。また、Chandler Capital は、フィリピン屈指の富裕層向け病院であるMedical Cityにも資本参加していることから、Medical CityからHoan Myへの技術供与も進められている。両病院の協業として、がん治療センター、循環器治療センターなどの新設が予定されている。

 民営化ブームの到来、民間病院への新規参入解禁、外資への市場開放は、民間資本の注目を一気にベトナムへと振り向けた。政府主導による公共セクター市場であったベトナムのヘルスケア産業は、いまや外資が参入しやすい国として挙げられるようになった。外資民間資本によるベトナム参入事例は今後ますます増えていくだろう。

2.3 外国人医師の就労も容易

 外国人医療従事者の就労に関しても大きな変化が起こっている。もともと、ベトナムでは、人口の3割でしかない都市部の医療機関に、医師の59%、看護婦の55%が集中していることもあり、地域格差が大きな問題となっている。また、公的セクターが医療の主役であったベトナムでは、公的医療機関の給与水準が低いため、公的医療機関で働く医師の8 割が民間医療機関も兼務している。公立病院と民間病院を往復する医師は、できるだけ多くの患者を診察することに忙殺される一方、より高度な医療技術を学ぶ機会が限られている。

 医師の数は足りないが、医師を増やすのは容易ではない。ベトナムでは、医師として公立病院に就職できるのは、医科大学に入学してから少なくとも8〜10年間が必要とされている(図4)。

 こうした事情から、ベトナムは外国人医師の就労にも寛容だ(図5)。例えば、フィリピンとマレーシアは、外国人医師の就労に国籍規定があり、インドネシアに至ってはインドネシア語が話せないといけいない、という極めて高いハードルがある。ベトナムではそのような規定はなく、基本的には医師資格があれば、あらゆる医療行為が可能で、病院の兼業も問題ない。したがって、民間病院参入のボトルネックになりやすい医師の採用についても、(コストはかかるものの)外国人医師を含めて検討できる点は大きなメリットだ。

3. 転換期ならではの事業機会

 これまで見てきたとおり、ベトナムヘルスケア産業は大きな転換期を迎えている。民間資本からの注目も高まっており、誰もが事業機会を模索している。第1章、第2章で紹介した市場の流れを踏まえ、ローランド・ベルガーでは、特に公立病院の民営化に注目している。圧倒的な存在感を誇る公的セクターの民営化案件は、今がまさに旬の事業機会だ。ただし、民営化案件というと、不透明、複雑、不採算、というイメージもあるのではないだろうか。事実、民営化案件は必ず成功するバラ色案件というわけではない。玉石混交の公立病院の中から潜在性のある病院を見極め、民間企業の経営ノウハウを生かした競争力獲得を進めなければならない。最終章では、民営化案件の成功をどう実現すればよいか、について論じてみたい。

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