仕事を「見える化」すると健全経営に!ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2017年07月06日 07時06分 公開
[河邉幸夫ITmedia]
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 それともう1点、重要ことがあります。正確な原材料の仕入れ値が分かっていないとできないことがあります。それは原価率の計算です。原価率が分からなければ、粗利益率が出てきません。売上から原価を引けは粗利益です。売上から粗利益を引けば原価です(細かく言うと、棚卸し原価率と理論原価率の誤差はありますが)。形は同じですが、原価を下げるという考え方と、粗利益を上げるという考え方は全く違います。

 原価を下げるというのは仕入れや作り方、そして廃棄などの問題です。原価を下げたいからといって、原材料の質を落とすと顧客離れが始まります。例えば、品質は今までの材料とほんの少し程度しか下がりませんが、仕入れ値は1割下がったとします。それに甘んじているお店は、また次に同じような提案が来ると飛びつくことでしょう。気が付くと、最初の品質から大きく味を落とすことになります。実際にこういう店舗はかなりあります。経営者が調理に関わっていない場合は、気付かないうちに起きていることが多くあります。

 一方、粗利益を上げるという考え方は、原価率が低くてもお客さまに喜ばれている「粗利を稼いでいる商品」を特化してもっと売るという考え方です。もう1つは、価値を高めて売価を上げるということです。原価を下げるという考え方と、粗利を増やすという考え方は全く別物です。その「粗利を稼いでいる商品」を見極めるためにも、レシピの見える化は重要なことです。

 よくあるパターンでは「このメニューは常連客がついてるから外せないんです」という言葉を聞きます。しかし、実際にレシピ分析をしてみると、その商品が利益を圧迫させていることがよくあります。勘や経験だけに頼って営業をしていると、いつまでたっても利益を増やすことはできません。メニューは勘を頼りにするのではなく、客観的な数字をもとに理論的に作るものです。経営をしていく上で一番大切なのは「利益」です。極端な話、売上が下がっても「利益」が上がれば問題はありません。利益を出すためには、売上を上げるか経費を下げるしかありません。だからこそレシピの見える化が必要なのです。

 売上は他社との競争です。しかし、利益率は企業の体質なのです! このように大切なことを行わないで、経営者が「原価が高い!」と声高に叫んでも、社員は先に挙げたような行動に移すしか手がないのです。彼らに悪気はないのです。やり方を教えない無能な社長が悪いのです。

 2つ目は「評価の見える化」です。働く人が意欲を持つための人事評価を見える化する必要があります。評価の仕方は会社での立場によって変わります。一般社員・若手社員は自己評価と上司評価の2つで表します。本来であれば、社会人の仕事の評価は他者評価で決まります。自己評価とはただの自己満足でしかありませんが、若いうちは総じて自己評価が高くなりがちなので、自己評価と上司評価を重ねることによって、本人感覚と上司の求めているレベルとの乖離(かいり)を減らすことができます。

 ほぼどんな会社でも、社長の熱意というのは管理職に半分くらいしか伝わっていないのです。また、管理職の熱意は一般社員には半分くらいしか伝わっていないものです。そうすると社長と一般社員とでは、おおむね4倍くらいの差が出てきます。ですから、わが社では一般社員の評価は管理職に任せています。任せるといっても全てではなく「査定」において任せているという意味です。管理職も任されることによって責任が生まれます。管理職の評価に自己評価は一切ありません。同僚や部下による他者評価と生産性の達成率が査定の対象です。

 アルバイトスタッフにおいては、2カ月に一度、自己申告制をもとに査定を行います。本人が申告した内容に社員の70%が賛同した場合は、昇給が認められます。評価結果は誰でも閲覧できるので、自分に足りないものは何なのか、どんな行動が評価されるのか、といった詳細を知り、改善に向けて努力することができます。

 3つ目は「サービスの見える化」です。私は、店のスタッフに安易な感動やスター性を求めてはいません。求めるのは、誰に対しても等しく、安心できるサービスを提供することです。そのために現在、お客さまの属性や来店頻度や嗜好(しこう)を一元化して共有するシステムを構築中です。定量的なお客さまデータだけではなく、どんな方なのか、いつ、どんな目的で来店し、何を注文し、どんな要望があるのか。そうしたコミュニケーションそのもの、温度感までも全社員が参照し、共有できるシステムです。

 家族だけでほそぼそと続けるなら、「おいしいものを提供する」ことだけを考えればよいでしょう。しかし、これからの時代に生き残っていくためにはマーケティングが必要です。商売で培った知恵をシステム化し、お客さまへの提供価値を高めていく。そして、私がこれまで築いてきたノウハウや経営理念を社員一人一人に伝え、思いを1つにする。飲食店の経営は、今後ますます厳しくなります。最近では、私のビジョンを社会に還元するために、セミナーやコンサルティングにも力を注いでいます。日本中の飲食店とともに成長していくこと。それが現在の私が描く未来図です。

著者プロフィール:河邉幸夫

玉海力、シー・パワー代表取締役社長、日本ビーチ相撲連盟理事長

昭和41年7月生まれ。東京都渋谷区出身。少年時代より身体が大きく力士を志す。中学2年生で大相撲力士を目指し日本相撲協会片男波部屋入門。両国中学校を卒業後初土俵。その後22歳で十両昇進。25歳で幕内昇進。その後、大けがのため車イス生活になり平成7年1月場所29歳にて力士を引退。相撲協会には残らず飲食業で起業する。数カ月間修行を積み平成8年10月に渋谷区広尾に現役時代の四股名「玉海力」の店名で出店。現在、都内に広尾本店・銀座店・赤坂店・武蔵小山店の4店舗、海外は中国に上海店、カンボジアのプノンペンと合計6店舗の運営。

「ちゃんこ鍋」がメインのため数年は夏場の売り上げが伸びず苦労する。そこで試行錯誤の上、煮込んでも辛くならず、さっぱりとした「塩ちゃんこ」を開発し夏場の売り上げも安定して現在では年間通して一番人気となる。その間もいち早くPC教室に通い、独自ドメインでのWebサイト作成から売り上げ管理、顧客管理システムなどを取り入れ経営の安定化及び見える化に取り組む。

平成19年より、子供たちの心身の健やかなる育成を育む活動としてビーチ相撲を提案。「日本ビーチ相撲連盟」を発足して理事長に就任し青少年のさらなる教育活動に力を入れる。現在は飲食業の玉海力と見える化コンサルティングのシー・パワーと2つの会社の代表を務める。


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