これはどんな競技でも、どんな分野の人にでも共通することだと思っています。スポーツでも、自分はコントロールできても相手をコントロールすることはできません。世の中にも自分ではコントロールできないことが数多くあります。
自分自身と向き合い、今日やるべきことを理解し、今の課題が見えていれば、それを実行すれば成果につなげることができます。
競技を引退した今、日々の振り返りが現役時代に比べて薄くなっていると感じます。1日の中でわずかでもいいので、自分と向き合う時間を作れたら、日々の課題解決や成長のスピードは上げられるので、これからも意識したいところです。
しかし、自分と向き合うだけでは超えられない壁もあります。それを実感したのは、私にとって最初のオリンピックであったアテネオリンピック(2004年)でした。メダルを目指し必死にトレーニングを積みましたが、メダルには届かず悔しい思いをしました。一方で、自分の回りにはメダルを取った仲間たちがいました。
最も印象に残っているのは、北島康介さんがアテネオリンピックで「北島、危うし」という前評判を見事に吹き飛ばし、初めての金メダルをもぎ取ったシーンです。その後スタンドにいるチームメイトやスタッフに目をやると、みんなが涙を流していました。その時私は、北島さんの金メダル獲得にこれだけの人が涙を流していることにハッとしたのです。
この経験で感じたことは、メダリストたちと当時メダルの取れなかった私との違いが、「回りの力を自分の力に変えられる選手」であるかどうかです。当時から、私は久世コーチや家族、地元のみなさんの応援というのは大きかったですし、それは力に変えられていました。でも、それだけではオリンピックで結果を出すことができませんでした。
オリンピックは日本代表チームとして戦います。そこには多くのチームメイトも、代表コーチ、さまざまな専門スタッフもいる中で、世界の舞台で戦うわけですが、当時の私は初めての国際大会でそこまでの人間関係を代表チーム内で築けていませんでした。マインド的にも、とにかく自分のやるべきことだけやっていればいいという考えでした。
金メダルを取った翌日の朝には、もうスタンドでチームメイトの応援をしている北島選手の姿を見て、私もこの舞台で結果を出したいのであれば、代表チームの中で応援してくれる人を増やし、チームメイトや代表コーチ、専門的なスタッフなど、回りの人に自分だけでは気づけない課題や経験を教えてもらいながら成長していこうと強く感じました。
これは4年ごとというオリンピックのスパンの中でも、限られたアスリート人生の中でも、とても重要な経験でした。
私たちは、限られた時間の中で成長のスピードを上げていかなければなりません。
そして勝負するステージが大きくなればなるほど、応援者の存在が大事だということです。このことは、みなさんが今働いている職場でも当てはまるのではないでしょうか。
ここでは私の章の核となる部分だけ紹介しましたが、本書では現役生活を通して感じたさまざまな学びを書きました。また久世コーチの章では、久世コーチの教えや自身が指導者として実践してきたことが書いてあります。この本を手にしたことで、みなさんにとって1つでも発見があるとうれしく思います。
1984年、宮崎県延岡市出身。セガサミー所属。4歳で東海スイミングクラブに入会し水泳を始める。久世由美子コーチ指導の下、アテネ大会よりオリンピック4大会連続出場、4つのメダルを獲得。ロンドン大会では競泳日本代表チームのキャプテンも務めた。32歳で迎えたリオ大会では日本競泳界で最年長出場・メダル獲得の記録を作る。 2016年の国体を最後に28年の競技活動を引退。現在はスポーツの普及・発展のためにさまざまな分野で活動をしている。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授