PRのポイントは「買う理由」をつくる――中身は同じでも包みの工夫で商品は売れる!ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(1/2 ページ)

もはや、「商品力」や「宣伝力」だけでものは売れない時代である。そこで重要になるのは、いかに消費者に「買う理由」を提供するかだ。「買う理由」をつくりだす6つの法則を紹介する。

» 2017年08月28日 07時28分 公開
[山下竜大ITmedia]
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 ITmedia エグゼクティブ勉強会に、戦略PRプランナーでブルーカレント・ジャパン代表の本田哲也氏が登場。著書『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)の内容に基づき、「商品力」や「宣伝力」だけでは動かない消費者に、「買う理由」を提供するための「6つの法則」を、事例を交えて紹介した。

いかに消費者に「買う理由」を提供するか

戦略PRプランナーでブルーカレント・ジャパン代表 本田哲也氏

 現在、日本のビジネス環境では、テレビやメディア、SNSなどを利用した、さまざまな競争が繰り広げられている。しかし、日本の消費者は、かなり成熟しており、「どのブランドがよいか」「どの商品がよいか」ということよりも、「そもそも、なぜこの商品を買う必要があるのか」ということに興味が移り変わっている。

 「一般消費財や食品などの分野は、特に顕著だ。スペックの競争は、すでに限界に達しており、"競合製品よりも20%効率がよい"といった比較は消費者に響かなくなっている。"この商品がどれだけ優れているか"という話より、"なぜこれを買わなければならないのか"という戦いが始まっている」(本田氏)

 つまり、いかに消費者に「買う理由」を提供できるかが重要なポイントになる。

 例えば、「よいクルマ」を考えてみると、今ではハイブリッドやEVなどのエコカーがよいクルマといわれている。しかし、1980年代や1990年代は、スポーツカー、スペシャリティーカー、大型四駆などがよいクルマだった。世の中のトレンドや価値観は、変化するものであり、これが「買う理由」につながる。

 それでは、「買う理由」は、人工的に作り出せないのだろうか。

 「世の中の流れに身を任せるのではなく、"よい○○"とはこういうものだということを、何らかの戦略により提示し、それが消費につながれば、そこに投資する価値はある。これを"属性順位転換"という。"よい○○"とはこういうものというランクを、意図的に上げていくことが、現在のPRには求められている」(本田氏)

他社に比べて3センチ大きいタイヤの意味

 「属性順位転換」の事例として、ピジョンのベビーカーの取り組みがある。ピジョンは、哺乳瓶や離乳食など、ベビー用品ブランドの最大手であるが、ベビーカーの分野に関しては、アップリカとコンビが圧倒的なシェアを持っており、ピジョンのシェアは1桁足らずと、まったく勝負にならなかった。

 そこでピジョンが、戦略的な商品として発売したのが「ランフィ」というベビーカーである。ランフィの市場投入にあたり、最大の課題は「いかにアップリカとコンビの牙城を崩すか」であった。そこで、最大のポイントになるのが「差別化」だった。この差別化が実現できなければ、ライバルに追い付くことはできない。

 おしゃれなデザインや軽量化、スムーズな動きなどの工夫は、すでにやりつくされた感があった。そこで、ピジョンが見いだした差別化がタイヤの大きさだった。ランフィのタイヤは直径が16.5センチで、他社の13.5センチより大きい。タイヤを他社より大きくすることで、段差をスムーズに乗り越えることを可能にした。

 しかし、単に他社に比べてタイヤが3センチ大きいことをアピールしても注目されない。そこで、人間工学の専門家と一緒に、ベビーカーが段差を乗り越えるときに、どれだけの衝撃を与えるかについて実験した。ダミーを乗せたベビーカーで、段差実験をしたところ、急ブレーキの5倍の衝撃がかかることが実証された。

 「単にタイヤの大きさではなく、この実験の結果を伝えた瞬間、状況が大きく変化した。まずはメディアが取り上げ、これを見たママさんブロガーが取り上げる。これにより、タイヤは大きい方がよいという新しい"買う理由"が生まれ、属性順位転換につながる。1桁だったピジョンのシェアは、12.6%まで拡大した」(本田氏)

パブリシティーはPRの一部にすぎない

 本田氏は、「日本でPRといえば、製品情報などを、メディアに記事として取り上げられたり、テレビ番組などに露出させたりすることだという大きな誤解がある。パブリシティーはPRの一部であり、本当にPRがやるべきことは"行動変容"である」と言う。行動変容とは、消費者の行動を変える、ものの見方を変えることである。

 「タイヤの大きさが16.5センチであることがメディアに取り上げられても、パブリシティーとしては成功だが、それだけでは消費者は動かない。町中にどれだけの段差があり、利用者がどれだけストレスを感じているかという、消費者の関心に話を広げることで、消費者の行動を変えることができる。ここまでできて、初めてPRの仕事と言える」(本田氏)

 日本には職人気質があり、中途半端な仕事はしないので、よい商品が多いのだが、単に商品の説明をしても、伝わらないことがずいぶんある。社会の関心事から商品の関心へと落とし込むこと、「買う理由」をつくりだすことが、PRの重要なポイントである。そのためには、以下6つの法則がある。

(1)おおやけ:「社会性」の担保

(2)ばったり:「偶然性」の演出

(3)おすみつき:「信頼性」の確保

(4)そもそも:「普遍性」の視座

(5)しみじみ:「当事者性」の醸成

(6)かけてとく:「機知性」の発揮

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