近未来はロボット資本主義が席巻?? 現場力による「和ノベーション」が日本企業に競争優位を(2/2 ページ)

» 2017年09月27日 07時27分 公開
[浅井英二ITmedia]
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 企業に眠っていた技術を見える化し、顧客側の視点でどんな価値があるのかを提案することで、見違えるように成長した企業として、長島氏はIBUKI(イブキ)を例に挙げる。

金型業界の風雲児、IBUKI

 山形県西村山郡河北町に本社を置く同社は、自動車部品の金型などを得意とする金型メーカー。技術はありながらも、2次や3次の下請けに甘んじ、業績は低迷していた。数年前、M&Aで同社の経営に関わることになった製造業向けコンサルティング会社、O2(オーツー)の松本晋一社長は、職人たちの持っている技術を棚卸しし、プレスすると同時に髪の毛ほどの細かな模様で飾りをつける「加飾」という加工技術を見つける。それは工程数が減り、大幅なコスト削減につながる技術として評価され、完成車メーカーからの受注に成功する。

 しかし、自動車産業はご存じの通り、完成車メーカーを頂点とするピラミッド構造だ。ティア3の下請けがティア2やティア1を飛び越えて完成車メーカーと対話することはない。IBUKIの場合、完成車メーカーとの付き合いがあった松本社長だからこそ受注できたのだが、下請けといえども、その技術の価値を使い手に分かりやすい形で見える化し、自ら情報発信できるとすれば、チャンスが広がることを証明している。情報の非対称性によるビジネスよりも多様な知の組み合わせによる方が高い価値を提供できるのは言うまでもない。

 「完成車メーカーに分かるように見える化する、さらに消費者に分かるように見える化する。そうすることで下請けといえども、最終製品やそれが使われているシーンにまで視野が広がり、自社が顧客にとってどんな存在でありたいのかを突き詰めていける。企業は、これなしに成長はない」と長島氏は話す。

 もちろん、長島氏もAIの役割を否定するわけではない。

 AIは能動的に検索しなくとも事業に関わる広範な情報を集めては整理してくれる。個々人に合わせて情報を絞り込み、タイミング良く提供してくれることで視野は広がる。現場の一人ひとりの視野が広がると、お互いの視野に重なり合う部分が増え、部門を超えた全体最適への推進力が増してくる。単純な繰り返し作業、人の判断を必要としない業務などもロボットやAIにうってつけだ。

 「もともとコンピュータは仕事のために開発されたもの。ロボットもAIも少し足りないくらいのサポート役がちょうどいい。手触りをもって進化を追い続けるところは、安易にAIを導入せず、そこは人を育てるべきだ」(長島氏)

長島 聡(ながしま・さとし)氏

ローランド・ベルガー 代表取締役社長、工学博士

早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、ローランド・ベルガーに参画。自動車、石油、化学、エネルギー、消費財などの製造業を中心として、グランドストラテジー、事業ロードマップ、チェンジマネジメント、現場のデジタル武装など数多くの プロジェクトを手掛ける。特に、近年はお客さま起点の価値創出に注目して、日本企業の競争力・存在感を高めるための活動に従事。

自動車産業、インダストリー4.0/IoT をテーマとした講演・寄稿多数。近著に「AI現場力」(日本経済新聞出版社)、「日本型インダストリー4.0」(日本経済新聞出版社)


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