クロスボーダーM&Aの成功に向けて視点(1/3 ページ)

国内市場の成熟化に伴い、日本企業が海外企業を買収し成長を目指す、いわゆるクロスボーダーのM&Aが増加している。件数の増加に加え、1件当たりの買収金額も大きくなってきている。

» 2018年01月29日 07時00分 公開
[米田寿治ITmedia]
Roland Berger

 国内市場の成熟化に伴い、日本企業が海外企業を買収し成長を目指す、いわゆるクロスボーダーのM&Aが増加している。件数の増加に加え、1件当たりの買収金額も大きくなってきている。(図A参照)

 人口増加が見込まれる成長市場での売上を狙うだけでなく、相手先が有する顧客基盤、技術、優秀な人材獲得に向けて、さらには高収益のビジネスモデルの獲得を目指し、日本企業がさらなる成長、変革に向けて覚悟を持って臨んでいる。

 一方、買収に伴う失敗例も取り沙汰されている。当初想定の買収シナジーが刈り取れず、そもそも高値で買収している結果、赤字が継続したり、経営のコントロールがうまく進まず、大幅損失の計上や、撤退を余儀なくされたりするケースもでてきている。

 ボーダーレスに市場が進展し、国境を越えて戦いが繰り広げられる中、M&Aは一つの有効な手段である。失敗に懲りて立ち止まるのではなく、自社他社の失敗などからしっかりと学び、恐れることなく取り組むべきテーマである。

 文化やビジネスプロセスの違いなど、海外企業相手のM&Aは難易度が高い。本号では、クロスボーダーM&Aにおける、失敗の要因を分析するとともに、成功確率をあげるためのポイントを紹介したい。

1、クロスボーダーM&Aの失敗要因

 昨今のM&Aの失敗を見ると、大きく3つの要因が存在すると考えられる。

(1)持込案件への飛びつき

(2)高値づかみ

(3)投資後コミットメントの不在、に大別される。(図B参照)

 具体的な流れで背景を含め説明する。

(1)持込案件への飛びつき

 昨今、トップの意向として、海外売上を今の2倍に、海外売上比率を50%に、などと号令が飛んでいるのではないだろうか。海外部門の役員、各事業部の役員はこぞって、事業計画で海外の成長ストーリーを描く。ただし、海外での成長は当然のことながら簡単ではなく、自力では成長を刈り取れない。

 そんな時、投資銀行からの提案が舞い込む。「外資のファンドがこのような案件を保有しているのだが、近々売却プロセスが開始する。オークションに参加しないか」。担当役員にとっては、渡りに船、買収してどのような成長を目指すのか深く議論することなく、案件ありきで早速検討に入る。流れに乗って首尾よく買収できたとしても、このような流れでのM&Aは成功確率が低い。自社の戦略がないため、買収の目的が曖昧で、シナジー創出が見込めないことが多いからである。

 オークション案件が悪いわけではない、かつ投資銀行が悪いわけではない。自社の戦略がないままに、出物に飛びついてしまうことが成功確率を下げているのである。

(2)高値づかみ

 次に2つ目の失敗にたどり着く。高値づかみである。

 このオークション、他にも買収候補が存在する。当然、買収金額が極めて重要な要素になり、勢い事業計画の検討も上振れしてしまう。シナジーを過分に盛り込む。加えて、ここまで検討を進めてきた役員以下チーム内では「No go」(案件見送り)が言えない雰囲気が醸成されてしまう。事業精査を各種行い、ネガティブ要因を洗い出すものの、客観視できなくなるリスクが存在する。

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