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» 2018年03月26日 07時23分 公開

ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート:企業、役員を対象とする日本版司法取引――「攻め」と「守り」が制度の肝 (1/2)

不正経理、不当労働、個人情報や機密情報の漏えい、独占禁止法違反、贈収賄、政治資金規正法違反など、企業不祥事に関する報道は尽きることがない。日本版司法取引が始まる今、こうした不祥事に、企業はどのように対応すべきなのか。

[山下竜大,ITmedia]

 ITmedia エグゼクティブ勉強会に、のぞみ総合法律事務所の弁護士である熊田彰英氏が登場。「2018年開始 日本版司法取引とは?」をテーマに講演した。熊田氏は、1995年に司法試験に合格し、1998年に検事に任官。2005年より法務省刑事局、2010年より最高検察庁、2012年より東京地方検察庁(特捜部)の要職を歴任し、2014年より弁護士として活動している。

2018年6月に「日本版司法取引」が開始

のぞみ総合法律事務所 熊田彰英弁護士

 2018年6月1日より、「日本版司法取引」が施行される。「司法取引」と聞くと、自分の罪を認める代わりに減刑してもらう、米国の映画やドラマに出てくるような司法取引をイメージするかと思うが、この司法取引は「自己負罪型」と呼ばれるもので、自分の犯罪を認めれば認めるほど恩恵が受けられる制度である。

 一方、日本版司法取引は、他人の犯罪を明らかにすることで、自分の刑事罰を免除又は軽減してもらう「捜査・公判協力型」である。米国でも自己負罪型に加えて同様の制度があるが、日本では、被害者感情や国民の法意識などを考慮して、自己負罪型は時期尚早ということになり、捜査・公判協力型のみを導入するに至った。

 今回導入される司法取引は、企業犯罪や組織犯罪を対象としており、その目的は、組織犯罪や企業犯罪における上位者、背後者の関与を暴き出して、全容を解明することであり、ターゲットは企業のトップや経営陣である。

 司法取引の対象となる犯罪は、強制執行妨害、談合、文書偽造、贈収賄、詐欺、背任、恐喝、横領、組織的犯罪処罰法、租税法、独占禁止法、金融商品取引法などさまざまである。加えて、先ごろ、いわゆる業法などで規定されている財政経済犯罪なども対象となることが明らかとなった。

 「日本版司法取引は、これまでに検挙されてきた企業犯罪や組織犯罪の大半を対象としていることから、企業の役職員や社員全てが無関係ではいられない。企業犯罪や組織犯罪において、関係者の供述が得られない困難な状況を打開し、上層部の関与を暴き出す手段の一つとして、日本版司法取引は有効である」(熊田氏)

確たる証拠の提供が司法取引の条件

 日本版司法取引の当事者となるのは、犯罪行為を行った被疑者、または被告人である。そのため当局はもちろん、被疑者、被告人からでも司法取引を持ち掛けることができる。また、両罰規定の適用が見込まれる犯罪については、企業も取引の当事者となることができる。つまり、企業が刑事処罰を免れるために日本版司法取引を使うこともできるのである。

 「日本の法体系は、基本的には個人を処罰の対象としている。しかし両罰規定の下では、企業の代表者や担当者が処罰されるのに伴い、企業そのものも刑事処罰の対象となる。そこで、企業としては、いかに日本版司法取引を有効に使い、刑事処罰の減免を得て、企業の信用・信頼を失墜させないようにするかがポイントとなる」(熊田氏)

 取引の対象は、特定犯罪に関わる他人の刑事事件である。取引の条件としては以下の通りである。

(1)検察・警察の取調べにおいて真実の供述をすること

(2)証人尋問において真実の供述をすること

(3)証拠の提出その他の必要な協力をすること

 「メールや帳簿などの具体的な証拠を提示することが必要になる。取引の結果としては、不起訴や公訴取消し、訴因・罰条の変更、求刑の配慮、略式命令による処理など、さまざまなパターンがある。取引が成立した場合には、当局との間で合意書面を作成し、弁護人が署名することが必要になる」(熊田氏)

72時間以内の対処が勾留期間を左右

 一般的に刑事手続きは、「捜査の端緒」「任意捜査」「強制捜査(逮捕・捜索・勾留)」「起訴・不起訴」「裁判」という流れで進む。企業犯罪の捜査は、多くが、内部告発や告訴、被害届、報道、投書などにより開始される。そして、まずは、銀行捜査や関係者の聴取、捜査照会、デジタルフォレンジックなどの任意捜査が行われる。

 任意捜査により犯罪の嫌疑が高まれば強制捜査を行う。逮捕・捜索、そして勾留である。警察が被疑者を逮捕した場合、48時間以内に検察庁に事件を送致しなければならない。送致を受けた検察では、24時間以内に被疑者について勾留が必要かどうかを判断し、勾留する場合には裁判所に勾留を請求し、それが認められれば基本的に10日間(延長が許可されれば20日間)勾留できる。

 「法律的には、まず10日間の勾留が認められ、その後10日間延長できる。企業犯罪の場合、実際には、10日間で勾留が終わることはない。会社のトップや役員が勾留されると、最低でも3週間は意思決定権者が不在になるということだ。従って、逮捕後、勾留が決まるまでの間に、いかに対処するかが、その後の影響を左右することになる」(熊田氏)

 強制捜査が20日間行われた後、起訴か不起訴かが決定される。起訴に関しても、罰金刑の略式起訴と裁判が行われる公判請求がある。企業犯罪については、犯罪が長期にわたっている場合や繰り返し行われてきた場合などがあり、事案が複雑であることも多い。こうした場合、逮捕が複数回にわたり、勾留が長期化することもある。

 司法取引は、任意捜査、強制捜査、裁判のどの段階でも利用できる。熊田氏は、「どの段階で取引をするかは、捜査・公判の進展状況によって違ってくるし、捜査機関の見方、企業の考え方によっても違ってくる。また、特捜部が捜査を行う事件の場合は、逮捕から勾留までの時間が短いので注意が必要になる」と話している。

協議では弁護人の立ち合いが不可欠

 司法取引が「成立」するか「不成立」で終わるかは、当局との間で何度となく行われる「協議」次第である。協議においては、弁護人の立ち合いが必要になる。弁護人は、被疑者らの供述が犯罪解明にどれだけの意味を持つのか見極めて捜査機関と交渉したり、捜査機関が不当な要求や手続違背をしていないかなどをチェックする。

 実際には、弁護人が企業や被疑者、被告人から話を聞いたり、資料を入手したりして、捜査機関とやりとりをすることになる。具体的には、まず弁護人から捜査機関に対して、どのような犯罪について、どのような協力をすることができるのか、概括的に提示することから始まる。

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