自動運転で変わるクルマの未来を「移動のプラットフォーム」でリードしたい――IDOM 執行役員 北島昇氏長谷川秀樹のIT酒場放浪記(2/5 ページ)

» 2018年04月13日 08時00分 公開
[やつづかえりITmedia]

大手メーカーに学ぶ未来への備え方

長谷川: 自動運転って、最近になって急に進化しているように見えるんですよね。ちょっと前までは、安全性とか法律とか、いろいろな面でまだまだ難しいといわれていたものが、トヨタも「2020年までにやる」と言ってみたりして、「いきなりどうしたん?」と不思議に思うんですけど。

北島: いや、言うほど速くないですよ。

長谷川: そうですか? DeNAも「オリンピックのときには無人タクシーを実用化する」と言ったりしてましたよね。

北島: あれも、場所と用途が限定されるからできるということでしょう。僕自身は、がんばって進めてより早く実現してほしいと思ってますけどね。免許持ってない僕が言ってもリアリティーがないんですけど(笑)

長谷川: え、免許持ってないんですか?

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北島: うち、「要マニュアル免許」なんですけどね。ガリバー(現IDOM)に入る時、あまりにもポンポンと決まったので、自分だけ免許の有無をチェックし忘れたみたいですよ(笑)

長谷川: え〜(笑)

北島: まあ、それでも思うわけですよ。車って、友達を乗せたり子どもを乗せたりしながら、事故を起こして人を殺す可能性がある。どれだけ気を付けていても、向こうからぶつかってくることもあります。語弊を恐れずに言えば、けっこう恐ろしい乗り物なんですよね。

 そういう意味においては、自動運転とか、自動運転までいかなくても、ADAS(先進運転支援システム)と呼ばれている自動ブレーキの技術などは、本当に大事だなと。自動車がそっちの方向に発展していくのは、すごく健全で正しいことだと思いますよ。

長谷川: 確かに、ABS(アンチロックブレーキシステム)とか自動追従のシステムとか、各社が昔から取り組んでいましたよね。でも、ここにきて自動運転が急速に伸びてきているように見えるのは、どうしてかな、と。

北島: 1つは、テスラを含め、リーンに物事を進めちゃうスタートアップが出てきたというのがありますね。概念としてあったものが、具体的にプロダクトとして目に見えることで物事の進みが早くなるのは、自動車に限らず多くの産業で起こったことだと思います。

 あとは、米国を中心とした政治と経済の話です。車の排ガス規制って、カリフォルニアが一番厳しくて、あそこを起点に世界のスタンダードが決まっていくんです。いっときはプリウスがドンと売れたけど、ハイブリッドはエコカー認定されないということになって、EVをやらなきゃいけなくなったりする。車の開発は政治と経済に揺さぶられるところがかなりあるんですよ。自動運転も、その文脈の中にあると思います。日本のメーカーもそういう流れに振り回されているように見えます。

長谷川: 急に「やらなきゃ」となってできるというのは、もともと技術はあったということですか。

北島: 世に出すのが遅いだけで、技術は持ってますね。安心安全第一で、何年もかけて、実験しているんです。

 メーカーがすごいのは、自動運転、EV、ハイブリッド、燃料電池……、どのシナリオがきてもいけるように研究開発してるんですよ。それを見て、新規事業の在り方をすごく考えさせられましたね。スタートアップは1つの未来に賭けざるを得ないかもしれないけれど、ある程度の規模の会社は、あらゆる文脈に張っておかないといけないんだなと。ある種、未来が変わったときのための、挑戦的保険ですよね。僕も新規事業を担当してますけど、未来がどうなるかは分かりません。でも、「こうなったときにはこれで受けとめる」というのをたくさん用意しておくことはできるんです。

 その点が、お金があって優秀な人たちがいっぱいいるメーカーだと全然レベルが違うというのを、すごく感じます。「この人たち、こんなに給料もらって、なんでこんな研究を?」という人たちがたくさんいる。あの厚みがすごいなと、思いますね。

自動運転が車とデータの所有権の在り方を変える

長谷川: 最近、トヨタの人の話を聞く機会があって、車って人やモノを乗せるものだったけど、これからは情報を集めるものとしての可能性が大きいというんですね。

 確かに、車載カメラのようなものでいろんな情報が取れますよね。「ここの道はそろそろ補修せなあかん」というのも分かるし、道沿いのガソリンスタンドの写真から今のガソリンの値段をリアルタイムに集計することもできる。子どもが通学に使う道とか、じいちゃんばあちゃんがよく歩く道、なんていうのも自動的にマップが作れる。その情報が、すごい資産価値になるんだと。

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北島: そうなると思いますよ。ホンダの方から伺ったんですが、例えばGセンサー(加速度計)で道路の舗装の痛み具合なんかが分かるので、その情報を基に都市の保全計画に生かしているそうです。

 ただ、問題なのは、そうやって取れる情報は誰のものなのかという話です。もともとの解釈では販社が努力して得たお客さまの情報だから、メーカーのものではないというものだったんです。次に、では販社のものなのか、いやいやユーザーのものなのかという、この辺の議論がこれからけっこう出てくると思いますし、既に動き始めているメーカーもいます。

長谷川: そうなんですね。

北島: 例えば車で事故を起こした瞬間、タイヤの圧力の変化とか傾きとか、いろんなデータが車にはたまってるんですよ。車検の際に故障診断をするときに、そのデータをボコッと抜いて使ったりするんです。だからそれがあれば、ドライブレコーダーで事故の現場を撮っていなくても、事故の状況がある程度分かるんです。なぜ、今までやっていないかというと、情報の所有権の問題があるからです。米国では既に関連した裁判が行われていて、ユーザーが「この情報、俺のだろ」と開示請求したら、応じなければいけないという判例が出ています。

長谷川: なるほどね。

北島: でも、この議論の流れは、自動運転になると一気に変わってきます。自動運転の場合は車の所有者も変わりますし、メーカーの立場も強くなります。サービスを提供する側がより強くなると思うんですよ。

長谷川: 自動運転が実現するまでに、何年くらいかかると思います?

北島: まだまだ時間がかかると思いますよ。一番アグレッシブなシミュレーションをしているあるグローバルコンサルティンググループでさえ、2035年の完全自動運転のシェアが約10%という見込みです。

長谷川: 2035年でも?

北島: そう言われています。僕は局所最適かな、と思っていて。さっきお話したCtoCプラットフォームの話だって、地方に住んでいて、車が必須の生活様式の方でさらに車のインテリアにこだわるような人にとっては「は?」という感じじゃないですか。「別に他人に貸したくないよ」と。こういう話は、国単位じゃなくて、都市単位で合う合わないがあるんだと思うんです。

 Uberも一番フィットする人たちがいるエリアから順番に広がっていくでしょう。現に僕らもCtoCとかサブスクリプションモデルについては、例えば“東名阪”でやったら、その次は日本の地方よりもロンドンに行った方がいいんじゃないかというタイプの議論をします。最適なモビリティポートフォリオを、都市のタイプごとに実装していくというのは、これから広がっていくのではないかと思います。

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