インタビュー
» 2018年08月01日 10時00分 公開

Technology Insight:「守り」から「攻め」のIT活用へ――IT部門に求められる“デジタル変革けん引役” (2/2)

[聞き手:浅井英二、文:山下竜大,ITmedia]
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中期経営計画と連動し3年ごとにIT戦略を更新

浅井 利益への貢献、効率的な経営の支援、グローバル展開の加速、ガバナンスの強化という4つの経営課題に対し、IT部門はどのような重点目標に取り組んでいるのでしょうか。

柴田 これまでのIT部門は、いかに効率化を実現するかに注力してきました。この取り組みは今後も変わりません。加えてガバナンスの強化やリスクへの対応など、企業の継続性の観点での取り組みも一層重要になります。単なるコスト部門と思われないよう、ITを活用していかに価値を最大化するか、新しい価値を生み出すかが重要になります。

 現在、ITを活用したビジネス変革に全社で取り組んでいます。そこには、柔軟性や迅速性が求められます。経営・事業改革の側面では、意思決定のスピードアップも重要です。ビジネス面では、既存ビジネスの付加価値強化や新しいビジネスの創出も求められています。こうした取り組みにIT部門がいかに貢献できるかが重要になります。

 これまでのIT部門の提供価値は、効率化とコスト削減が中心でした。これからは今まで以上に、O/I(アウトプット/インプット)比が重要で、いかに投資を最小化しながら効果を最大化するかが求められています。目標を定量化しKPIを設定し、常に効果をモニタリングし、効果が出ていない場合には改善することが重要です。

 そのためには、効率化という守りの部分と、新しい価値を生み出すという攻めの部分にバランスよく取り組むことが必要です。限られた時間で大きな成果を上げるためには、働き方改革も必要になります。そのためには、IT活用はもちろん、様々なデータを徹底的に活用し、業務を自動化することも重要になります。

 また、ガバナンスやリスク・コンプライアンスに対応するための、情報セキュリティの強化も重要です。例えば、新興国に新しく拠点を立ち上げる場合、グループ標準のセキュリティを導入することにより、いち早くグローバルで均一的なセキュリティを担保することが重要なのです。

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浅井 IT活用やデータ活用により、ビジネスを改善していく取り組み、働き方改革の推進、投資と利益に関するO/I比、さらに均一的なセキュリティ対策の取り組みといった重点目標は、毎年変化するのでしょうか。

柴田 基本的には、3年ごとに策定される中期経営計画と連動してIT戦略を見直し、更新します。2018年は、2017年〜2019年の中期経営計画の2年目に当たります。

浅井 IT部門は、何をしているか分からない、お金ばかり使っているという批判もあり、苦労していう企業も多くあるという話も聞きます。それに比べると、富士フイルムホールディングスのIT部門は、かなり先進的なイメージがあります。

柴田 技術が日々進化している中、それらの技術をいかに活用するかが重要です。そのためにはIT部門だけが取り組んでもうまくいきません。そこで、事業部、研究、生産、販売、スタッフの各現場で、主体的にITを活用してもらう取り組みを推進しています。現場が抱える問題を、現場自らがITを活用して解決することが重要です。

 会社全体として、重点目標や推進テーマを設定して、IT活用およびデータ活用に取り組んでいます。特に徹底的にデータを活用することで、業務を変革していくことを目指しています。ここでも効率化とスピードアップが求められます。今後は現場主動でIT化を推進することが重要で、そのためには全社的な取り組みが、経営課題を解決する上での最大のポイントです。

CDOとデジタル変革委員会がITを活用して業務課題を解決

浅井 全社的にデジタル変革に取り組むというのは、簡単なことではないような気がします。具体的には、どのような取り組みを推進しているのでしょう。

柴田 各部門からITを推進する役割であるデジタルオフィサーを任命し、チーフ・デジタルオフィサーが主導する「デジタル変革委員会」を開設して、全社横断的な活動を通じて、IT活用による業務改革を推進することについて検討しています。

浅井 社員一人一人が意識を持って、自分の課題をいかに解決するかがスタート地点なのですね。

柴田 その通りです。ITはツールなので、そのツールをどう使うかは目的や用途によって違ってきます。それが定まっていないと、役に立つものも役立ちません。現場では、データの可視化・見える化を進めていますが、分析ツールを使った可視化はスタート地点に過ぎません。可視化で満足することなく、将来予測や気付きを得て次のアクションにつなげるなど、高度な分析をIT活用によって実現させることが大切です。

 従来のITでは、可視化のために多くの時間と工数をかけてきました。最新のITを活用すれば、可視化に時間をかける必要はありません。グローバルでリアルタイムにデータが可視化されています。今後は、現場主動でいかに業務の質を向上させるか、付加価値を生み出すかを考えてもらうことができます。こうしたことが、かなり現場にも浸透してきました。

浅井 データを可視化するのはIT部門の仕事で、そのデータを使って付加価値を生み出すのが現場の仕事と明確に切り分けたのですね。

柴田 まず自分の業務における問題意識を持つことができれば、IT活用に対する意識も変わってきます。デジタル変革委員会の活動を通して、事業横断的な視点での課題解決や事業間のシナジーなども目指しています。

浅井 その一環として、チーフデジタルオフィサー(CDO)という役職を任命されましたが、その目的を聞かせてください。

柴田 2017年度にデジタル化を推進するために、IT活用によりビジネス変革を実現するミッションを持つCDOを設置しました。CDOは、幅広いデジタル戦略を統括し、組織を横断する変革を推進します。CDOがデジタル変革委員会を主導し、経営・事業の業務革新・スピードアップや既存ビジネス革新・新ビジネス創出のゲームチェンジを目指しています。

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IT部門の役割は「いかにビジネスに貢献するか」

浅井 デジタル変革委員会の取り組みを、全社を挙げてということですが、中でもIT部門は非常に重要な役割を担っていると思います。これからのIT部門の役割についてお聞かせください。

柴田 社内のIT部門が提供する価値は、時代とともに変化しています。いま提供すべき価値は、効率化やコスト削減ではない部分です。直接的、間接的にかかわらず、ビジネスにいかに貢献できるかです。すなわち、「スピード」「スケール」「アジリティー」の戦略的な価値を提供することを目指しています。

 従来の効率化やコスト削減は、技術そのものがコモディティ化されていることを踏まえ、クラウド活用の徹底がポイントとなります。例えば、サーバやストレージなどのITインフラ部分の課題は、クラウドを活用すれば多くを解決できます。もはやITインフラは、電気、ガス、水道のような存在になっています。ITインフラの効率化やコスト削減は当たり前で、それだけではもはや評価されなくなっています。

 そこで、ビジネス側に付加価値を感じてもらえる取り組みにシフトしています。ITを活用する領域が圧倒的に広くなっており、全方位的になっています。限られたリソースで、全てをカバーすることは困難です。優先順位をつけて、付加価値の高いところから対応していくことも必要です。

浅井 デジタル変革委員会で選定された重点テーマに、IT部門のリソースを割り当てていくということでしょうか。

柴田 まさにその通りです。課題、定量的な効果、短期・中期のゴールも明確で、投資対効果に見合うテーマが重点化されています。

 既存ビジネスの強化や新ビジネス創出につながるテーマを中心に、IT活用によるビジネス変革活動に経営資源を投入していきます。また、社内業務の革新については、間接業務を中心とした定型業務を徹底的に自動化します。そのためには、まず業務プロセスを標準化しておかなければなりません。例えば、RPAも導入しただけでは、一部分の自動化にしか効果が期待できません。業務プロセス全体を可視化・標準化した上で、RPAを導入することで、自動化の効果を最大化することに取り組んでいます。

浅井 今後、IT部門がビジネス部門にいかに貢献できるのかについてお聞かせください。

柴田 IT部門では、社内の業務システム開発やインフラ構築を、プロジェクト活動として取り組んできました。IT部門が蓄積してきた、プロジェクトマネジメントの経験やノウハウ、方法論などが、デジタル変革の推進においても役立ちます。

 また、現場でITを活用するためには、技術の目利きの能力が必要です。適切なクラウドサービスの選定や適材適所での使い分け、様々なITツールの適用ガイドや活用推進などIT部門が貢献できると役割・機能であります。さらに、クラウドサービス、RPA、AI、IoT活用時に不可欠となる非機能要件の定義やシステム運用設計に関してもIT部門が果たす役割は大きくなります。

 これまでIT部門が培った、プロジェクトマネジメント、技術の目利き、システム運用設計における経験やノウハウなどが、デジタル変革を推進していく上で非常に重要になります。まずは、こうした機能・役割を発揮して、IT部門がビジネスに貢献していくことを非常に重要であると思います。

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